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ヘクセリットの魔法騎士と紅月の悪魔  作者: 春野まつば
第1話 編入試験
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二人の想いと最終試験④

 元々、極度の緊張しいなメイナはこういった場面にはすこぶる弱く、相手が学院長ともなれば尚更のことである。

 受験者たちは部屋を去り、残ったのは自分とアデリーヌという教師だけだが、メイナの緊張をほぐそうと優しく声をかけてくるわけでもない。

 静まり返ったその状態が一層、不安を駆り立てる。


「メイナ・ミレー。隣の部屋へ」


 唐突に名前を呼ばれて、一瞬身体が固まるが、無理やり自分の身体を椅子から引き剥がして立ち上がった。

 指示されるがままに部屋を出てすぐの隣室の扉を控えめにノックをして、返事を待つ。


「どうぞ」


 その声を聞いて扉を開ける。

 中には学院長のゼピア以外誰もおらず、その人が座る重厚な作りの机に向かい合うように置かれた椅子が一つ。本棚や置物などといった装飾品の類は一切見当たらない。


「ほら、遠慮せずに掛けなさい」


「は、はは、はい!」


 自分でも情けなくなるほど慌てた様子でドタバタと椅子に座り、背筋をピンと伸ばしてゼピアに一礼をした。


「ほっほっ、そう緊張しなくてもよい。メイナ・ミレーくんじゃね」


 聞くだけで安心感を覚えてしまうような優しい声にメイナはどこか既視感を覚える。

 あ、おじいちゃんに似てる。


「まずは、二次試験トップでの合格おめでとう」


 孫でも褒めるようにニコニコとゼピアは嬉しそうに笑って言うが、その言葉をメイナは素直に喜べなかった。


「あ、あのそのことなんですが…」


 恐る恐るメイナは言葉を紡ぎ出すようにぽつりぽつりと話し始める。


「じ、実はその、それは、全然私の力じゃなくて…」


 じっと耳を傾けていたゼピアは深々と頭を下げた。


「わかっておるよ…二人の犠牲の元、お主はここにおることは。命を落としてしまった二人のことは申し訳ないと思っておる。危険性は公言したつもりじゃったが、あれを作ったのは学院側じゃ」


 死に至るケースもある。聞かされていた言葉。

 最初から学院側を恨んでいるつもりはなかったが、ゼピアの言葉を聞いてさらにその気を失せさせる。


「その、わたし、もう友達の死ぬところなんて見たくないです…。そんなわたしに騎士なんて務まるはずがありません。こんな時間まで頂いて申し訳ないんですが、辞退させてください」


 とうとう言った。

 雰囲気に呑まれて言い出せずにいたその言葉をしっかりと伝えることができた。

 ゼピアはメイナの目をじっと見つめて、否定するわけでも却下するわけでもなく滔々と喋り始めた。


「どうしても騎士と言えば、人々や国のために戦う者のことを連想してしまう。まぁ、戦いは騎士の花形だからの。だが、本来騎士とは人々や国を守る者を現すものだ。実際の戦でも前衛、後衛、支援、偵察、救護と様々な役割がある。さらに言うと例え、騎士と言っても皆が皆、戦いを得意とする者ではない。お主のように人の死が怖いという者もおるわけじゃ。まず、この学院を出たからといって戦地に赴き、戦うことを義務付けされるわけではないんじゃよ。騎士の称号を持っている者でも開拓使や発明家、薬学者などと戦うこと以外を仕事としている者もいるわけじゃよ。このワシも学校を開いて学院長などと名乗っている。つまり世の中には命を絶つ騎士もいれば、命を助ける騎士もいると言いたいんじゃが…わかるかの?」


 単なる騎士というものの説明にも聞こえる話だったが、メイナにはすぐにゼピアの意図が理解できた。


「命を助ける騎士…ですか…」


「うむ、ワシはただそういう者もいるよ、と伝えたかっただけじゃがな」


「わ、わたしにもできるのでしょうか!?」


「それはお主の努力次第じゃよ」


 騎士として生きる、受験前はただ貧乏な家を高給取りになって家族を助けたいそんな気持ちだけがあり、騎士になって何をしたいとか考えてもいなかった。

 しかし、今、確かな目標が見えた気がした。友達や仲間を守れないなら助けられるようになりたい。

 震えていた手に力が戻るのを感じる。


「あ、でも、わたしさっき辞退したいって…」


 自分の弱さゆえに犯した過ちを思い出すが、ゼピアは耳をほじってわざとらしく聞き返してくる。


「辞退? はて、そんなこと聞いたかの? やはりワシも年老いて耳が遠くなったようじゃわい」


 その優しさに涙が自然に溢れ出てくる。

 学院長が、オルガとギーゼルベルトがくれた希望。


「ありがとうございます!!」


 大粒の涙を落としつつ、メイナは何度も頭を下げた。


「うむ、二人のためにも立派な騎士になってくれよ」


 ゼピアは近寄り、メイナの頭をポンポンと優しく叩いた。

 そして、差し出されたのは合格の証である制服と校章。

 メイナはそれを抱きしめて、再び深々とお辞儀をして言葉にならない声で何度も何度も感謝の意を伝えた。

 力をつけてみんなを助ける騎士になろう、そんな決意を胸にして。




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