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ヘクセリットの魔法騎士と紅月の悪魔  作者: 春野まつば
第1話 編入試験
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二人の想いと最終試験③

 二百人程いた受験者はその数を大幅に減らして五人となった。

 最終試験は学院内で行われるらしく、落選者はその場で解散。合格者は学院まで馬車に乗せられ、疲労もあるだろうと各々に個室が与えられ休息のひと時が設けられた。

 皆は一様に久しぶりのベッドで泥のように眠り、その時間を終えた。

 合格者達は学院長の待つ、小会議室に集められ並べられた椅子に着席するように促される。

 用意された椅子が埋まり、全員が揃ったことを確認すると、付き添いの教員がゼピアに声をかけると、五人に向けてにっこりと笑った。


「よく眠れたかの?」


 一人一人の顔を眺めるゼピア。未だ疲れた顔をする者もいれば、余裕の笑みを浮かべる者、涙で目を腫らした者、様々だ。


「さて、選ばれた君たちにとって待ちに待った最終試験じゃが、覚悟はいいかの?」


 緊張か余裕か、五人からは返答はないが、強い意志を感じる目をしている。

 それを覚悟と判断し、ゼピアは試験の内容を発表する。


「最終試験は…面接じゃ」


「ただの面接ですか?」


 一番端に座っていた育ちの良さそうな少年が肩透かしをくらったように強張っていた身体の力を抜いて問うとゼピアは優しくなだめるように笑った。


「一次ではお主達の魔力を測り、二次では判断力と戦闘力を測った。最後に求められるのは騎士としての意志、つまりは精神力を測りたい。それに、魔法騎士育成機関と言えどもここは学校。面接ぐらいしとかなくてはのぅ」


 今回の試験には命を落とす危険性はない。それだけでルークを除く受験生達は安堵した。


「さて、面接は一人ずつ隣の個室で行う。合格者には学院の制服と校章を渡すので用意された別室で待つように。順番は…そうじゃのぅ、下座から順にやっていくか。では、ヤーコブくん、ワシと一緒に隣に来てくれるかの?」


 ヤーコブと呼ばれた先ほど質問した育ちの良さそうな少年がゼピアに連れられて出て行った。

 時間が経ってもこの場に戻ってくることはない。結果を知るのは本人のみ。

 残された四人は静かな部屋でじっと順番を待った。

 やがて四人目が退出し、しばらく経ってからセリルの名前が呼ばれた。

 ルークと同率の順位をだったが、先に呼ばれたセリルは平然とした顔で部屋を出て行った。


「ルーク・キスリング、別室へ!」


 アデリーヌが呼ぶとルークはびくっと身体を跳ねさせた。

 あまりに長く退屈な時間にうとうとしかけていた時だ。

 睨みつけるアデリーヌの視線を躱し、大あくびをしながらルークは部屋を出る。

 そして、すぐ隣の扉を開けた。


「やぁ、悪魔くん。いや、ルークくんじゃったの」


 入ってすぐに椅子に座ったゼピアはルークの姿を見て微笑んだ。

 目上の人への作法など知らず、了承もなしにルークはゼピアと向かい合うように置かれた椅子にどかりと腰を下ろした。

 だが、ゼピアは無礼すぎる態度に一言も不満を漏らさず、笑って髭を撫でながらそれを見守って、喋りだした。


「約束通り、試験を無事通過してくれたのは大変喜ばしいことじゃ。じゃが、ルークくん。お主は何をしにここへ来た?」


 唐突な言葉にルークは苛立った。


「何をしに来た? 連れてきてこんなことをさせてるのはあんただろうが…」


「ふむ、確かにワシは試験を受けろと言った。じゃが、断って逃げ出し、自由を手に入れることもできたはずじゃが?」


 確かにそういうこともできた。

 頭になかったわけじゃない、しなかっただけだ。


「俺はリリアと賭けで負けたから黙ってあんたらの言うことを聞いてるだけだ」


「では、ポップルウェルくんのためだけにお主は頑張ってここまで来た、と」


 違う。

 ルークは小さく首を振った。

 リリアのために自分が真面目に試験を受けたのではないことは確かだ。だが、何故なのかと問われれば、答えることはできない。


「ふむふむ、自分が何故騎士を目指すのかは不明。だが、試験は真面目に受ける。ほっほっ、悪魔と呼ばれた者も存外、人並みの心は持っているではないか。社会的地位のためか? 騎士となり自由を得るためか?」


 ゼピアの明らさまな挑発にもルークは反応せずに押し黙ったままだ。

 実際、耳に入っていなかった。

 なぜ自分は途中でばっくれることもせず、最終試験の面接まで真面目に受けに来ているのか。

 不可解な自分の行動を順を追って考えてみる。

 一次試験、ここでメイナと会った。試験内容はくじ引き。

 この時はまだ、試験をくだらないとか帰りたいとかそんなことを思っていた。

 二次試験はサバイバル。

 先ほど終わったばかりでまだ記憶に新しい。ここではセリルと出会い、メイナと再会し、三人で協力して乗り越えた。

 牢獄暮らしだった自分が初めて仲間と協力し、試練を乗り越えた。

 そこまで考えて漠然とはしているが、答えは出たように思える。


「…仲間がいたからだな」


「仲間というのは…セリルくんとメイナくんかね?」


 ルークは頷く。


「あぁ。正直、騎士になって何がしたいとか誰かれを救いたいとかそんな大層なことは考えてねー。仲間がいて、楽しそうだから退屈しなさそうだからやるじゃダメか?」


 その返答にしばらくゼピアは押し黙った後、手元に置かれた紙にぽんっと判子を押して、ニカッと笑った。


「合格じゃ」


「これだけで?」


「うむ、この三次試験では精神力を測るといったのぅ。お主は挑発に弱く、ケンカっ早いところがある。答えなんてなんでも良かったのじゃ。ただ、見たかったのはワシの挑発で怒り、暴力または逃げたりしないか。それを堪えたお主は間違いなく合格じゃよ」


 話通り、ルークに制服と校章を渡された。

 退室の言葉を言うわけでもなく、ルークがドアノブに手をかけたところでゼピアに呼び止められる。


「忘れ物じゃ」


 指で弾かれた物を受け取って確認する。

 白竜が彫られたピンだ。


「明日から頼むぞ。白竜騎士隊第六席、ルーク・キスリング」


 称号とか権威に興味はなく、ポケットにそれを雑にしまいこんでルークはひらひらと後手に手を振って部屋を出た。




「緊張するよ〜」


 静かな室内に取り残されたメイナは両手をぎゅっと握りあわせて小さく呟いた。

 

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