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ヘクセリットの魔法騎士と紅月の悪魔  作者: 春野まつば
第1話 編入試験
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二人の想いと最終試験②

「ご苦労じゃったな、諸君」


 日の出の時間を待つように巨大なテントの前に立っていたゼピアは試験開始時よりもどっと少なくなった受験者達に労いの言葉をかけた。

 過酷なサバイバルを生き残った面々は眩しい朝日に目を細めながら、ゼピアに視線を向ける。


「疲労困憊っといったところで悪いが、さっそく合格者の発表といくかの」


 そう言ってゼピアはローブの内ポケットからごそごそと何かを取り出した。

 よく目を凝らすとそれが二つのサイコロであることがわかる。しかし、両方とも六面体のスタンダードなタイプではなく、あまり見ることのない十面体サイコロという珍しい形状のものだ。

 ゼピアはその内の一つのサイコロをぽいっと浜辺に放り投げた。砂浜でサイコロは転がるはずもなく、砂に埋もれてびたりと動きを止める。

 サイコロが示した数字は『4』。

 その数字に説明もせず、続けてゼピアは残ったサイコロを放り投げた。

 やはり、サイコロは転がることなく落ちた瞬間に動きを止める。


「…8じゃな」


 一人納得した様子でゼピアは頷き、その二つをゆっくりと拾い上げて受験者たちに向きなおる。


「十の位は4。一の位は8。二時試験の合格ポイントは48ポイントとする!」


 その発表にざわつく受験者たち。

 ルーク達も驚きはしたが、自分たちのポイントを確認してほっと息をついた。


「ポイントめちゃくちゃ関係あるじゃねーか」


 まっすぐに前を向くセリルをルークはからかうように言うとセリルは少しだけ苛立ったように眉をひそめる。


「私はあくまで仮定の話をしたまでだ。別に出口に辿り着けば合格とは言ってないだろう」


 ぷいっとそっぽを向くセリル。

 冗談半分で言ったつもりだったルークはこいつすげー短気なんじゃねーか、とその横顔を見ながら空笑いを浮かべる。

 合格が決定したからこそ余裕にそんな会話をできる二人だが、周りは騒然としていた。

 苦労して出てきたのにも関わらず、ポイントが足りず悲鳴をあげる者もいればふざけるなとヤジを飛ばす者もいる。


「ふむ、合格者は五名。ポイント順に発表するとまず第五位がーー」


 その声がまったく聞こえていないようにゼピアは淡々と合格者を順位をつけて発表していく。


「第二位が同率で51ポイントのセリル・フランチェスカ。ルーク・キスリング」


 名前が呼ばれ、ルークとセリルはお互いを讃えるように肩をぶつける。


「やりましたね、ルークさん。セリルさん。おめでとうございます!」


 横に座っているメイナは小さな手で必死に拍手をして二人を祝福していたが、


「一位はぶっちぎりじゃのぅ。一位メイナ・ミレー。64ポイントじゃ」


ゼピアの言葉にぴたりと動きを止めた。

 驚いたのはルークとセリルも同じで虚をつかれたように目を丸くしてメイナの顔を見る。


「わ、わたし0ポイントですよ!? なんで??」


 当の本人にも皆目見当がつかず、受験者たちの注目を集めながらあわあわと狼狽していると皆の疑問をかき消すようにゼピアはおほんと咳払いをした。


「わかっていてやったのでなければ、呼ばれた本人も不思議じゃろうて。皆にはこのサバイバルのルールを今一度、思い出して欲しい」


 サバイバルのルールはこうだ。

 タイムリミットは二日後の日の出まで。

 学院側が用意した魔物を倒すことで討伐ポイントを得ることができる。

 試験終了時、出口まで辿り着いた者のみでポイントを競い、その値で合格者が決定する。

 仲間内でのポイントの譲渡や相手を脅してポイントを奪うことは可能だが、相手を殺してしまってからは当然、ポイントを奪うことは不可能。


「今回意図的にこの行為に及んだ者はこちらとして喜ばしいことにいなかったが、もうちっとばかし、頭を働かせればわかることじゃろう。ワシは殺してからポイントを奪うことは不可能と言ったまで。…ポイントのみをじゃ」


「…なるほどな」


 ゼピアの意図を理解してセリルは失笑を漏らした。


「ふむ、何か気づいたようじゃの」


 ゼピアはセリルを見て、髭を撫でながら笑った。


「奪う、もしくは相手を殺してポイントのみを奪うことは不可能だが、水晶自体を奪うことは可能。その奪った水晶のポイントは試験終了時の持ち主に加算される、ということですね?」


「さよう」


 セリルの言葉にゼピアは深く頷いた。

 それを聞いて、メイナはリュックを漁り、魔物に殺られて残されたギーゼルベルトとオルガの水晶を取り出す。

 渇いた血が生々しく張り付いた水晶にうっすらとポイントが浮かび上がっているのが見える。

 メイナを助けた二人の遺品。

 それは騎士になる夢をメイナに託すように残された。

 この世を去った二人の水晶がメイナの背中を押すように太陽の光を浴びて優しく輝いたような気がした。

 他意もなく、形見として持っていたそれを抱きしめて、メイナは大声で泣き出した。


 メイナ・ミレー。

 二次試験を一位通過。

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