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ヘクセリットの魔法騎士と紅月の悪魔  作者: 春野まつば
第1話 編入試験
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二人の想いと最終試験①

「ルークくん…遅いですね…」


 日の出まであと僅か、メイナは不安気にぽつりと漏らした。

 ルークと別れた後、最後の関門とも言える幾つもの分岐路に出くわし、やっとのことで洞窟の出口に辿り着いたメイナとセリルは海岸沿いに座ってルークの帰りを待っていた。

 メイナ達が出口に着いた時にはすでに何人かの受験者が浜辺で日の出を待っており、もしかしたらとその中を探してみるが、ルークの姿はそこにない。

 それからしばらく、日の出の時間が近づくにつれて洞窟から出てくる者は何人か現れるが、やはりルークの姿はなく、メイナの不安感を一層煽った。


「信じて待つしかないだろう」


 セリルは短く言って白んできた空を見上げた。

 しかし、待てども待ち人は姿を現さず、とうとう終了時間が近づくと学院長がテントから姿を現した。


「これまでか…」


 日の出まで数分、二人が諦めかけたその時に洞窟の中からけたたましい音が聞こえてきた。


「これは間に合ってるのか…?」


 ガラガラと岩の壁を壊し、あらぬ方向から出てきたルークはどろどろに汚れた格好でめちゃくちゃな登場を決める。


「ルークくん!」


「本当にでたらめだな、あいつは」


 姿を確認し、歓喜の声を上げるメイナに呆れ気味に笑うセリル。

 二人が駆け寄ろうと立ち上がったところでルークの前に可憐な美少女が歩み寄るのが見えた。リリアである。


「無事に出てはこれたみたいね」


 リリアはツンとした表情で言う。


「おう、来てたのか」


 対してルークは顔についた泥を袖で拭って笑った。


「いやさ、数時間前にでっけぇ蛇の化物と戦ったんだけどよ、ポイントも何もよこさねーわけよ。ありゃシステム不良っつーの? 少しだけ苦労したのにあれはないぜ」


「見てたわよ。蛇竜を絞め殺すなんて聞いた事がない無茶苦茶よ。馬鹿なんじゃない?」


 水晶を通して学院長とリリア達は蛇竜との戦いをリアルタイムで見ていた。

 確かに、白竜騎士隊の面々でも苦戦するであろう相手を一人で倒したというのには目を見張ったが、あまりにもでたらめ過ぎる戦いにそれを見ていた全員が苦笑した。


「あたし達は洞窟に残っている受験者の救助に行くわ。あんたがどのぐらいポイントを稼いだかわからないけど無様に落ちなければいいわね」


 相変わらず可愛げもなく、憎まれ口を叩いてルークの横を通り過ぎるリリア。

 その後を追うようにミカエルが駆けていくと、ブラインがすれ違いざまにルークの肩に手を置いた。


「やるじゃねーか。面白かったぜ、赤髪」


 初対面の相手に言われ、なんだこいつとルークは顔をしかめる。

 そのまま返事を待つわけでもなく、ブラインは洞窟内に消えていった。

 頭を傾げてその姿を見送った後に知り合いの顔を探す。二人はすぐに見つける事ができた。


「よっ」


 軽く片手を上げて、再会の挨拶をするルークにメイナが猪のような勢いで胸元まで迫ってくる。

 やれやれ、とルークは両手を広げてメイナを迎えようとするが、


「あ、あれ、リリア・ポップルウェルさんですよね!? 白竜騎士隊の! 知り合いなんですか!?」


 再会を喜ぶことも忘れ、目を輝かせるメイナ。

 あぁ、こいつはリリアの大ファンだったっけ。

 ルークはゆっくりと広げた両手を下ろした。


「知り合いと言えば知り合いになるのかな」


 自分を牢獄から連れ出した人物。その微妙な関係性にルークは曖昧に返事をするが、そんな言葉はまるで聞こえていないようにメイナは喋り出す。


「やっぱりかわいいし、カッコいいなぁ。普通の平民からあそこまで登りつめてすごいです。試験は諦めるにしても最後に生リリアさんを見れて本っ当に感激です。いいなぁ〜ルークくんはお話できて!」


 キラキラと羨望の眼差しを見えなくなったリリアに向けるメイナをほって、ルークはセリルの横に腰掛けた。

 しばらくの沈黙が続き、セリルが前を向いたまま一言。


「…無事だったか」


 薄く笑みを浮かべてセリルが言う。

 顔には出さないが、それなりにルークのことを心配していたのであろう。


「まぁな」


 何があったとかお互いの苦労を長く話をするわけでもなく、短い言葉を交わして二人は会話を終える。


「メイナ、本当にいいんだな」


 空は日の出間近、生リリアに感激するメイナに声をかけ、最終確認のためルークは尋ねるがメイナはにっこりと少しの後悔も滲ませない笑顔できっぱりと言い切った。


「はい!」


 顔を出した太陽がメイナたちを暖かい光で照らし始める。

 やがて、太陽は二日間、暗闇で過ごした受験者達を優しい光で包み込んだ。空は雲一つない快晴。青々とした海は静かに波音をあげて疲れ切った受験者たちの心を癒した。

 二次試験、洞窟サバイバルの終了である。

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