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ヘクセリットの魔法騎士と紅月の悪魔  作者: 春野まつば
第1話 編入試験
22/41

100万ポイント⑤


「どうすっかな」


 エボルサーペントの猛攻を躱しつつ、ルークは苦笑気味に首を捻った。

 隙を見てはルークも反撃を幾度となくしてきたが、ダメージは疎か鱗一つも壊しきれない。

 俺ってこんなに弱かったか?

 一向に倒せる気配のない相手を見上げてルークは一つの方法を閃くが、その案を否定するように首を振る。

 お構い無しにエボルサーペントは尾先の毒針で貫こうとルーク目掛けて突き刺しにかかるが、掠ることさえも許さず身を翻してひらりと飛び上がる。


「あぁ、くっそ」


 腰に差した短刀を咄嗟に握るが、エボルサーペントの鱗の前では頼りなく感じてしまう。

 次の攻撃動作に入ったエボルサーペントを見て、慌てて身を躱すが初動が遅れたためわずかにだが、身体を毒針が掠った。

 しかし、ルークに傷はない。

 少しだけ身体が軽くなった気がする。

 飛び避けてルークが地面に着地した同タイミング、エボルサーペントの尾針がメイナのランプ型空調機を串刺しにした。

 すかさずルークは飛び上がり、エボルサーペントの鼻先にナイフを突き刺した。

 隙をついたルークの攻撃にエボルサーペントは身をくねらせ、甲高い悲鳴をあげる。

 ルークが狙ったのはピット器官という赤外線を感知する器官である。

 元々、視力の弱い蛇は見通しの悪い夜間でも狩りができるようにこの器官が備わっている。

 避ける際に落としてしまったメイナのランプ型空調機がそのヒントになった。

 人と物、目が正常に見えていたならまず間違いない選択肢をエボルサーペントは間違えた。

 敏感な位置にあるそこは硬い鱗に守られてはおらず、いとも簡単に機能を停止させることができた。


「俺がどこにいるかわからねぇーだろ」


 獲物を捕捉する術を失ったエボルサーペントはその場で巨大な身体でとぐろを巻き、じっと防御体制に入る。

 ルークが少し近づくと頭を出し、シュルルルと見えない敵に威嚇するように舌を出す。

 恐れることなく、ルークは飛び上がり蛇の首元に抱きついた。


「押してダメなら引いてみろ。打撃がダメなら締め技じゃい!」


 渾身の力で腕も回らない巨大な蛇の首を強引に締め上げる。

 首に抱きつくルークを振り払おうとエボルサーペントは巨体をくねらせるがルークも負けじと必死にくらいつく。

 あまりに無謀な試みだが、ルークの人間離れした力によってみるみるうちに両手を繋げるぐらいまで細くなってしまったエボルサーペントの首はミキミキと鈍い音を立てて支えを失い、ぶらりと皮一枚でつながった状態で力なくぶら下がった。

 エボルサーペントを相手に締め技で止めを刺した人物は後にも先にもルークただ一人であろう。

 あらぬ方向に曲がった首を離し、それが地面に沈むと太く長い身体を支えにルークはふぅと息を吐いて座り込んだ。


「さすがに死んだフリとかじゃねーよな?」


 だらしなく舌を地面に垂らして瞳孔を開く死体をつつく。

 さすがに蛇竜と言えども首の骨を折られて生きていける生命力はなさそうだ。


「ちょっと時間はかかったが、100万ポイントが手に入るわけだし…」


 しかし、待てども待てども背中でルークの身体の支えになっている死体はいつものように霧状になって水晶に吸い込まれない。

 おかしい、とルークは汗を垂らす。

 まさか、こんだけ時間をかけさせておいて0ポイントなんてことがあり得るのか?

 きっとポイントが大きすぎて処理に時間がかかっているに違いないとしばらく待ち、何も起こらず時間が経つとルークは非情な現実を受け入れてがっくりと肩を落とした。


「まるでよぉ、勝ち抜け目前のババ抜きでジョーカーを引いてストレート負けみたいな、そんぐらい落ち込むわ」


 このままズルズル待っていて結果が変わるはずもない。

 牢獄にいた時に蛇の肉は美味い、そんなことを看守に聞いていたルークは思い出し、せめて肉だけでも土産に持っていくかと硬い鱗のない腹回りをナイフで捌いて肉を持ち帰ろうとするが、


「うっわぁ〜」


ドサドサと捌いた箇所から人や動物のドロドロに溶けた死体が溢れ出てくる。かろうじて形がわかるものから何の生物かもわからないものもあった。

 最後ににゅるん、と体液を纏わせて出てきた死体はルークが喰われる様を見た筋骨隆々の男。絶命してはいるものの姿形は綺麗なままである。

 蛇の消化は遅いと聞くが、知った顔がそのまんま出てくるのは見たくないものだ。


「外がダメなら中から作戦も考えたが、やらなくてよかったな。失敗してこうなるのも嫌だし…シェアハウスってのは苦手なんだ…」


 長い時間を消費して、何一つ得る事ができなかったルークは背中を丸めてとぼとぼと出口を探して歩き出した。




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