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ヘクセリットの魔法騎士と紅月の悪魔  作者: 春野まつば
第1話 編入試験
20/41

100万ポイント③

 塞がれた壁を背にしてルークは自分が分断されてしまった元凶とも言える光り物の正体を掴むべく、壁に手をつけて進み始める。


「貧乏だったせいか、どうしても気になっちまうんだよな」


 確かここら辺だったか、としゃがみ込み地面を手で探る。何かがコツンと指先にあたった感触がした。


「金貨、いや銅貨でもいいから金であってくれ」


 その物体を拾い上げてよく目を凝らして見る。形、大きさからして金ではないことは明白だったが、どこかこの形に見覚えがあった。

 少し暗闇に目が慣れるとその全貌が明らかになり、思い出した。


「メイナに借りたランプ型空調機…」


 それは昨日、寝苦しさのあまりメイナに借りた半径一メートルの温度を自分の思うように調節できる便利な魔法具。

 寝る時は自分の側にあったが、起きたら忽然と姿を消してしまっていた。起きるときのゴタゴタでどこかに蹴飛ばしてしまったのかと思っていたが、ボロボロになって再びルークの目の前に現れた。

 なくしたと伝えた時、メイナは顔を真っ赤にして怒ったが、これだけボロボロになった物を今更渡しても…怒るだろうな。


「お、まだ機能してんじゃねーか」


 スイッチを入れてみると周りがほんのりと暖かくなる。

 さすが高級品と言っていただけあってそれなりに頑丈に出来ているようだ。

 ランプ型空調機に目を奪われていたルークが視線をあげると妙な違和感を覚える。

 そう、まるで自分が小さくなっていくように目線が下がっていく。

 ガラッと音がして、突如浮遊感がルークを襲う。小さくなっていたのではない、地面が陥没し、落ちていたのだ。


「まっじぃな」


 どこまで続くかわからない暗闇を落ち行く中で自分を追いかけるように壁を走る巨大な影と光る二つの目を見た。

 迎撃の態勢に入るが、ルークを襲っていた浮遊感は唐突に終わりを迎え、地面に叩きつけられ広い地面を転がった。


「いって…」


 顔を上げるとそこは地下に広がる巨大遺跡であった。

 人の気配に反応して遺跡の周りに立てられた松明に火が灯る。

 古代の先人たちが築いたものだろうか、現在の建築様式とは大きく異なる土製の建物。

 人が住んでる様子はない。


「お、お前もか…お前もやつの罠に…」


 建物の影からくぐもった声が聞こえた。

 声がした方に近づいてみると酷く衰弱した男が建物の影で壁を背に座り込んでいた。


「見た顔だな」


 言ってからルークは思い出す。

 始まる前にやたら強気な発言をしていた筋骨隆々の男。

 とても十代には見えない老け顔の男だった。


「なんだ、お前。あんだけ息巻いててやられちまったのか?」


「毒だ。やつは頭がいい。獲物を取るために罠だってはるんだ。オレもその罠にかかって毒にやられちまった」


「毒? あぶねーな、そりゃ。どれ、ぶん殴って解毒剤もらってきてやるよ」


 ルークの言葉に男は馬鹿にしたように鼻で笑った。


「馬鹿か、戦うとか倒すとかの次元じゃねー。これはただの搾取。絶対的強者のやつが俺たち弱者を食うためだけのな」


 二人の頭上から影がさす。


「ぐ、ぐわぁっ!!」


 気配を察してルークは素早くその場から離れるが、現れた影は毒で弱っていた男を丸呑みにしてしまった。

 目の前に現れた怪物は舌をチロチロと動かして、こちらに向き直り感情の読めない二つの目でルークを見下ろす。

 巨大な蛇のような怪物だ。頭は人間二人をいとも簡単に飲み込めてしまいそうなほど大きく、体長は十メートルほどか。鋭利に尖った尻尾にはおそらく男がやられたのであろう毒針がついている。


「ずっと見られてた気がしたのはあの殺人野郎でもなく、湖の怪物でもなく、こいつだったのか…」


 今までで一番、手強そうな相手を前にしてルークは唇を舐める。


「こりゃあ、100万ポイントはかてーだろ」


 先手必勝、ルークは目にも留まらぬ速さの一足飛びで怪物に近づき、顎に二発のパンチと脳天にかかと落としをお見舞いする。

 

「あ、やっべ!」


 恐ろしく硬い鱗に守られた蛇にはルークの力を持ってしてもダメージを与えられず、素早く振り払われた尻尾にルークは直撃し、遺跡をなぎ倒しながら吹っ飛んだ。


「かってぇな。さて、どうすっか…」


 瓦礫の山から立ち上がり、腹ばいになって近づいてくる蛇を見据えてルークは首を鳴らした。

 今までルークの攻撃に一瞬でも動きを止めなかった相手は人間は勿論の事、怪物でもいなかった。

 あの最強とうたわれるドラゴンを相手にした時だってそんなことはなかったが、ルークは少しも焦っていなかった。

 つい一日前まではずっと牢獄暮らし。看守相手にギャンブル三昧の毎日を送っていたせいでどうにも調子が出ない。

 実際、先ほどの数発は全力で繰り出されたものではない。

 巨体なのに素早くあっという間に眼前へ来た蛇の攻撃を交わしながらルークは邪悪に微笑みを浮かべる。

 それが悪魔と言われる所以。

 どうしても好敵手が現れると血が湧き肉が踊ってしまう。

 鈍った牙を研ぐにはちょうどいい、ルークは蛇の目を見据えてニヤリと笑った。





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