100万ポイント②
「大分いい感じじゃねーか?」
ルークは自分の腕に巻いた水晶に表示される51ポイントという数字を眺めて満足そうに言った。
目を覚ました後、第一の目的を出口を探し出すことに定めた三人は取り敢えず、焚き火の煙を見て風上に行くことに決めた。
メイナから譲渡されたポイントはセリルとお互いが同ポイントとなるよう平等に分けた。
そのプラス分もあり、道中で見つけた怪物を倒してポイントを得ていくと順調に増えていき、今に至る。
「でも、本当に良かったのか? お前このままだとマジで0ポイントだぞ?」
「はい、わたしのポイントをルーク君たちに役立てて貰えたら満足です」
メイナは言って微笑むが、どうも納得ができない。
本当にこのまま諦めてしまっていいのだろうか…。
「彼女が決めたことだ。私たちが何か言えるものではないだろう」
ルークの心の声が表情に出ていたか、セリルは諭すようにルークの肩を叩く。
「もし、気が変わったら言えよ。貰った分は返すからよ」
不満そうにルークは言う。
最初に知り合った受験仲間が合格目前にして諦めるというのはやはり納得しようにもできない。
親の反対まで押し切ってここに来たメイナの気持ちは折れてしまったのだろうか。
「風が強くなってきたな。出口は近いぞ」
横を歩くセリルは立ち止まって松明の火を見る。
確かに火がルークたちの後方に揺らいでいるのがわかる。
ランプから松明に変えたのは風の流れを見るため。焚き火からメイナの持っていた何使うのかわからない棒切れに火を移し、分かれ道があれば逐一、これで確認するようにしている。
その甲斐あって、風はどんどんと強まり、火を持っていないルークやメイナも微かだが肌で感じ取れるぐらいまで来ていた。
「少し休憩を挟むか。洞窟内を進むのは中々体力がいる」
いつ凶悪な怪物に襲われるかわからず、気を張って暗い洞窟内を歩き続けるのはルークはともかく、二人には応えるものがあった。
すっかり三人のリーダー的存在となったセリルは息を切らすメイナを気遣い、松明を地面に固定して洞窟の壁際に腰を下ろした。
「時間は?」
その後に続いてぺたりと座ったメイナはリュックから水晶時計を取り出してセリルに告げる。
「夕方の六時です。結構歩いたので時間かかっちゃいましたね」
「あぁ、ルークの寝坊もあるしな」
「うるせぇよ」
今朝、二人が起きてからルークが起きるのに約二時間を要した。
なんとか起こそうとしたが、死んだように眠っていたルークはぴくりとも動かず、最終手段としてセリルの提案で湖に投げ込むことでやっと目を覚ました本人は不服そうに顔をしかめる。
「だが、真実だろう」
「…まぁな」
ルークはふいっと顔を逸らす。
不意に向いた方向には細く長い道。その先でキラリと何かが光るのが見えた。
おもむろに立ち上がり、ルークはその先にある物を確認しようと近寄っていく。
「どうしたんですか?」
「あぁ、なんかあっちにーー」
ちょうどその道に通じる入り口まで近づいた時にルークの頭上が大きな音を立てて崩れだした。
素早く降り注ぐ岩石から身を躱し、前方へと逃げるが、セリル達がいた場所を繋ぐ通路には巨大な岩石群による壁ができていた。
「ルークくん! ルークくん! 大丈夫ですか!?」
「ルーク! 無事か!? 返事をしろ!」
道を塞ぐ壁の向こうから二人の懸命な呼び声が聞こえてくる。
殴ってこわしてもいいが、支えを失って陥落し、土砂崩れによる二次災害も考えられるためルークは握った拳を下ろした。
「あぁ、なんともない。大丈夫だ」
壁の向こうで二人の安堵の声が聞こえる。
「こっちには戻って来れそうか?」
「いや、すぐには無理だろうな。先に行っといてくれ。追いかけるよ」
セリルの声にそう告げる。
現段階ではすぐには戻れそうにない。
灯りも持たないルークにとって二人がいなくなるのは少し痛いが、自分との合流に時間を割かせてタイムアップなんてことになるのは二人が許しても自分が許さないだろう。
元々、仲間ができるとは思っていなかった自分に、ケンカ負け知らずの絶対的な力を持つ自分に、いつから二人を頼る。こんな甘えができたのか、情けなくも思う。
「本当に大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ないよ」
その言葉を残し、壁の向こうからルークの足音が遠ざかっていく。
心配そうに岩石群の壁に張り付いていたメイナは眉を下げて今にも泣きそうな顔でセリルに振り返る。
「ルークくんが怪物に襲われたらどうしましょう…」
「あいつなら問題ないさ」
「そうなんですけど…わたし達にできることはないんですか?」
「私たちにできることといえば、あいつが来るのを出口で待つことさ。それに、」
心配そうなメイナにセリルは薄い笑みを浮かべる。
「あいつは君が思ってるよりずっと強いよ」




