覗き目①
「なぁ、こいつどうする?」
黒焦げになって倒れるフレデリックを指差すルーク。
「しばらく目は覚まさないだろうが…水晶のポイントはどうなってるかわかるか?」
ルークは横たわるフレデリックの腕を掴んで水晶を確認する。
ついでに脈を取るが、死んではいないらしい。
「15だな」
「そこの受験者以外からもポイントを奪っていたか地道に魔物を倒して稼いだポイントかはわからないが、二人とも1ポイントなんだ。どんなポイントも惜しい。目を覚ましたら譲渡させよう」
セリルはふらりと態勢を崩し、壁を背にしてしゃがみこんでしまう。
「意外とダメージあったんだな」
セリルは首を振った。
「いや、ダメージ自体はまったくないんだが…大食い蜥蜴は酷く燃費の悪い術なんだ。情けない話で今の私ではしばらく休んで魔力を回復させないと歩けそうにもないな」
無愛想なセリルもその時ばかりは少しだけ申し訳なさそうな表情をしているように見えた。
ルークも内心ではまた座りっぱなしかと少しだけがっかりしたが、仕方がないとその場に腰をおろす。
その状況を見て、密かに意識を取り戻していたフレデリックはにやりと笑みを浮かべた。これぞフレデリックの十八番であり、絶体絶命のピンチを乗り越えてきた奥の手中の奥の手、死んだふり。
セリルは倒したと思って油断したのか、考えられる体力が残っていなかったのかフレデリックの動きを縛るものはない。
実に好都合だ。
忌々しいオカマ野郎は戦闘をできる状態はないし、残っているのは頭の悪そうな赤髪。
フレデリックは湧き上がる笑いを必死に押さえて死んだふりを続ける。
まだ動き出すのは早い。オカマ野郎は後回しでいいとして問題は頭の悪そうな赤髪。一度、やつはオレの不意打ちを避けた。例え、それがまぐれだとしても自分が満身創痍なのは事実。攻撃を仕掛けるのは赤髪が油断した時、尚且つオカマ野郎が回復する前だ。
フレデリックは逸る気持ちを押さえて静かに、狡猾にその時を待つ。
「…くぁぁ…」
静かな洞窟内でただ座って待つというのも中々退屈である。
ルークは休むセリルを魔物や受験者に襲われないよう見張ろうとはするが、眠気には勝てず大きなあくびをした。
キキキ、とフレデリックは腹の奥で笑う。
寝ろ寝ろ寝ろ。夢を見始めた時がお前の最期になる。
「…はぁ、さてと」
フレデリックの願望とは裏腹におもむろに立ち上がり、歩き出すルーク。事もあろうにその先にはフレデリックがいる。
身体を強張らせたフレデリックの前で立ち止まり、ルークはしゃがみこんで顔を覗き込む。
あぁ、きっと逐一確認しに来ているだけだ。そうに違いない。
「お前か? さっきからジロジロ見てるのは」
その言葉のあまりの威圧感にフレデリックの身体がびくんと跳ね上がる。
フレデリックが意識を取り戻していることを確信したルークはその胸ぐらを掴み、上半身を起こさせた。
「な、なな、なななんでわかったんだよ!? オレが起きてるってよぉ〜」
「いやいや、あんだけ見られてれば気付くだろ」
ビビりながらもフレデリックの頭はこの場を逃走する術を考えていた。
担では圧倒されたが、やはりこいつは馬鹿。意識のあるオレの腕を縛ろうともせず、真正面にうんこ座りだ。そんな態勢では急な攻撃は避けることはできね〜ぜ。
フレデリックの両手が光を帯び、イカした豪速球が発動される。
イカした豪速球には二つの撃ち出し方がある。
一つはセリルと戦った時のように石つぶてから生成し撃つ方法。もう一つは生成という手間を省き、実物の石に魔力を込めて撃ち出す方法。
前者は周りがどんな状況でも石つぶてを撃ち出すことができるというメリットがあるが、発動が後者と比べて遅いというデメリットがある。後者にも常に石を持っていなければならないというデメリットはあるもののセリルの起こした爆発のおかげで洞窟の壁や地面は削れ、その破片が周りに大量にある今、そのデメリットに悩まされることはなかった。
「顔面が潰れて死にやがれぇ〜!! ……あれ…?」
素早く撃ちこまれた石つぶてはルークの目の前で姿を消してしまう。
「急に大声だすな、ビックリするだろうが」
ムッとした顔のルークの両手には自分が撃ち出したはずの石つぶてががっちりと握られていた。
フレデリックとルークの距離は1メートルもないぐらい。人間の動体視力でキャッチすることは不可能な距離。だが、実際にそれをやってのけた人物が目の前にいる。
「な、なんなんだよ? マジでお前…」
「…悪魔くん」
再び、素早く胸ぐらを掴まれたフレデリックは得体の知れない者とあった恐怖に震える足で無理やり立たされた。
ルークは胸ぐらを掴む手にグイッと力を込めて拳を振り上げる。
「ポイントを俺に譲渡しろ。しなきゃ死ぬまでぶん殴る。したら許してやるよ」
「ひ、ひいいいいぃぃぃ!!」




