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ヘクセリットの魔法騎士と紅月の悪魔  作者: 春野まつば
第1話 編入試験
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サバイバルに潜む悪意②

 実際に試した方が早いだろう、とセリルはルークの後方を指差す。

 数メートル離れた先の壁に人の頭ほどのナメクジが蠢いているのがわかった。


「ルーク、あれを退治してみてくれないか?」


 言われた通りに巨大ナメクジに近寄って短剣を突き立てる。ナメクジは紫色の液体を飛び散らした後にピクピクと痙攣し、霧となってルークのブレスレットについた水晶に吸い込まれていく。

 水晶に映し出された数字が0から2に変わった。


「こんな弱っちいのにもポイントがあるのか? 簡単なもんだな」


「そうでもないさ。そいつはスクリームスラッグと言って絶命するときに仲間を鳴き声で呼ぶ修正がある。普段は温厚だが、敵意を向けられれば群れをなして毒液を飛ばしてくる。今回はちょうど発声器官を突き刺したため大人しく死んだみたいだな。知っていてやったんじゃないのか?」


「ちくしょーそんなことなら鳴かせとけばよかったじゃねーか。大量にポイント稼げるぞ」


 セリルは少し驚いたようにルークを見た後、ふふと小さく笑った。


「おもしろいやつだな、お前は。ルーク、学院長に私がした質問は覚えているか?」


「あぁ、譲渡と強奪についてだったな」


 セリルはこくりと頷き、自分の水晶をルークに見せた。


「学院長の言葉では譲渡は可能。今、私のポイントは0ポイントなわけだが、お前のポイントを譲渡してもらえないか?」


 まぁ、たった2ポイントだしいいか、とルークはセリルの言葉に頷く。


「で、どうすればいいんだ?」


「やり方は説明がなかったからわからないが、まずは声に出して言ってみてくれないか?」


「わかった。…セリルにポイントを譲渡」


 ルークの水晶から霧が吹き出し、セリルの水晶に吸い込まれていく。

 ルークの水晶は0と表示され、セリルの水晶には2と表示が変わった。


「どうやら譲渡は言葉では意思を示せばいいみたいだな。これで私は今、ルークから所持ポイントを譲渡されたわけだ」


「あぁ、ジジイが言った通りで確かに譲渡はなんの得にもならないな。譲渡した側は全部持ってかれちまうわけだし」


 セリルは首を振る。


「私が試したいのはこれだ。ルークに1ポイント譲渡」


 先ほどと同じように今度はセリルの水晶から霧が吹き出し、ルークの水晶へと吸い込まれていく。表示は互いに1となった。


「やはり譲渡はポイント数を指定できるみたいだな」


 納得したようにセリルは自分の言葉に頷いた。


「なるほどな。確かに競い合う間では得することはないが、協力者同士では違うみてーだな」


「その通りだ。高ポイントの魔物ほど倒すのは楽ではないが、協力すれば大分負担は減る。普通、ポイントは止めをさした者にしか入らないが、譲渡を使えば協力者も損をすることはない。裏切りが生じなければという前提があるがな」


 セリルはじっと探るような目でルークは見る。

 ルーク自身、そこらの魔物に苦労するとは思えなかったが、食料のこともあり、取り敢えずはセリルと行動を共にすることを決めた。


「裏切らないさ。干し肉のこともあるしな」


 ぷふっとセリルは吹き出す。


「お前は単純でわかりやすいな。賭け事も弱いだろう」


「弱くねーよ! ちょっと運が悪いだけだ」


 内心、痛いところを突かれてイラついたルークをさらにセリルは笑う。

 やっと空気が和んだように思えたその時、


「ぎぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 けたたましい悲鳴が二人の耳に届いた。


「近いな」


 そう言ってルークが駈け出すと、セリルも後に続いた。

 いくら少しは目が慣れたとはいえ十分な暗闇の中をランプも使わず、凄い早さで駆けていくルークの後ろ姿を見ながら、セリルは関心すると同時に少しだけ驚きの表情を見せる。

 しかもだ、悲鳴が聞こえたのはほんの一瞬。加えて洞窟内で音がそこら中の壁に反響して聞こえたはず。

 だが、ルークの足取りに一切の迷いはなかった。それが当てずっぽうで走っているのか戦闘に対する嗅覚がルークを動かしているのかは知る由もないが、辿り着いた先には確かに先ほどの悲鳴をあげたであろう受験者が冷たい岩の地面に顔を沈めて倒れていた。


「…やはり起きたか」


 倒れた受験者の身体を見て、小さくセリルは呟いた。

 何かの魔法で攻撃されたのか、受験者の死体には大小様々な大きさの穴があけられている。うつ伏せに倒れたということは背後から攻撃されたのか…不意打ち?

 明らかに魔法でできた傷から見るに相手は人間だろうと推測できる。

 そこまで死体から判断し、セリルは死体の腕を持って水晶を見る。

 表示は0ポイント。


「それ、魔物仕業じゃねぇーよな?」


「だろうな。魔物に襲われてこんな傷のつき方はしない」


 確認するように聞くルークにセリルははっきりと魔物の可能性を否定する。


「学院長が言っていただろう。奪う行為は殺しても行うことはできない。無理やり譲渡した後に殺すことはできるがな」


「カツアゲした後にシメるみたいなもんだろ? にしたって殺す労力こそなんの得にもならないと思うんだが……」


「殺しは恐らくそいつの趣味嗜好だろうな。この死体がうつ伏せに倒れているのも譲渡を無理やりさせた後、逃がしてやるとか言って後ろから何かを撃ったんだろう」


 

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