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ヘクセリットの魔法騎士と紅月の悪魔  作者: 春野まつば
第1話 編入試験
1/41

パンツの色を当ててみよう①

 世界四大陸。その一つの大陸に魔法技術に長けた王国エルシュタットはある。王都エルシュタインではその高度な魔法技術から魔法騎士育成に力を入れており、およそ30キロほど離れた海岸沿いにエルシュタインが誇る魔法騎士育成学校へクセリット魔法学院がそびえ立っている。

 領土上ではエルシュタット所有の機関となるが、ヘクセリットでは各国からの留学生を受け付けており、事実上は独自の中立機関として存在している。

 一般的には魔法技術と学問の国としての認識が高いエルシュタインだが、もう一つ王国が誇るものがある。

 それがエルシュタット城横にそびえ立つ分厚い石壁を何重にも重ねた建造物。見るからに堅牢な巨大要塞は国内で犯罪を犯したものを幽閉するエルシュタイン牢獄である。脱獄者が一人もいないこととその見るからに難攻不落なようすから国民からは入ったら最後、二度と出ることのできない悪魔の石窯と呼ばれ、恐れられている。

 もう一つ、エルシュタットの民衆を震撼させたものといえばこの牢獄に収監された悪魔の存在だった。

 今から数年前の出来事になるが山を削り、海を割る、そんな恐ろしい悪魔のような者が国家反逆罪として捕らえられたとの噂は瞬く間に国中に広がった。

 何千もの兵を率いてやっとの事で捕らえたその者を人々は人の皮を被った悪魔に違いない、そう断言する者までいるくらいである。




 謁見の間、煌びやかな装飾の施された部屋。そこに敷かれた赤い絨毯の上には美しいブロンドの髪を揺らし可愛らしさもあるが気品を感じる顔立ちとサファイアのように真っ青な眼をした少女が立っていた。

 勿論、その先に伸びる絨毯の先には王座に座るエルシュタット16代国王と大臣の姿がある。


「して、リリア・ポップルウェルといったか。要件を聞こう」


 ずしりと重みのある声である。賢王と呼ばれ、王座についたその初老の男はその立ち居振る舞いからも王としての威厳を感じさせるそんな重圧を感じた。


「はい、恐れながら国王陛下。本日は陛下に願い事をしたく参りました」


 ふむ、と一言だけ漏らし王は顎に蓄えた立派な髭を撫でる。

 民衆の如何なる言葉にも耳を傾けるそんな慈愛も持ち合わせた賢王はリリアと呼ばれた少女に続きを話すよう促した。


「国王が捕らえた例の犯罪者、その身柄を引き渡して頂きたく思っております」


「例の犯罪者とは……?」


「国家反逆罪を犯した民衆が悪魔と呼ぶ者です」


「ーーならん!!」


 王の声が謁見の間の空気をビリビリと震わせた。

 あれほどまで堂々としていた姿は見る影もなく、どこか怯えたように肩を震わせている。


「陛下、私たちは別にやつを釈放しろといってるわけではありません。今、エルシュタットが抱えている問題の解決にもあの者の力が必要なのです」


「自分の国がどんな状態かはワシも国王。把握しているつもりだが、やつになにができる? あやつはただの罪人ではないか」


「いえ、悪魔と恐れられているからこそその力が必要なのです」


 王は眼前に膝をつく少女を鋭く睨みつけ、しばらく深く考え込んだ。

 そして、重い空気の元時間は流れーー


「ーー会ってみるか? お主は少々、やつを甘く見ているのかもしれん。実際に会い、話し、見て再びその言葉をワシに言えるかの」


「ありがとうございます」


 そう深く頭を垂れた少女の胸にはヘクセリット魔法学院の校章である白竜のピンが輝いていた。



 悪魔と呼ばれる罪人の牢獄へ行くには王の言葉とはいえ、手配に時間がかかる、そう言われ客室に通されたリリアは深く息を吐いた。

 ジャンケンで負けたとはいえ、王様と話すのなんて初めてだしめっちゃ緊張したじゃない。怒鳴られた時はどうしようかと思ったわ。

 さすが王城、ふかふかのソファーに腰を下ろしたリリアは密室の部屋をいいことにばふっと音を立てて身を投げた。


「なんであたしがこんなことをしなくちゃならないのよ。悪魔とか呼ばれてる罪人とか何されるかわからなくてめっちゃ怖いし、そもそもその悪魔の噂とかあたし全く知らないし、そいつを学院が引き取って騎士長は何がしたいのかしら……はぁ」


 誰に話すのでもなく、早口でリリアは独りごち、またまた深〜いため息をつく。

 顔をクッションに埋めたまま、リリアはちらりと机に目をやる。

 そこに並べられたのはなかなかお目にかかることのできない菓子やフルーツ。


「少し食べるくらいいいわよね」


 自分の中で嫌な役を引き受けた報酬と言い聞かせ、リリアンは焼き菓子を一つ口に運んだ。


「あま〜〜い。すごく美味しい。なにこれ? なんてお菓子なのかしら?」


 あまりの美味しさにほっぺの落ち、緩みきった顔でもう一つ、あと一つと手を伸ばしていくうちに机に並べられた菓子はあっという間になくなってしまった。

 口の周りに着いた菓子をハンカチで丁寧に拭き、ふぅと一息ついたところで木製の扉が小気味の良い音で叩かれた。


「ポップルウェル殿。準備ができましたのでお迎えに参りました」


 時間がかかると言われた割には思ったより早く、そして戦争にでも行くのかというほどの重装備の兵隊三名。

 もしかすると、時間がかかると言われたのは兵隊たちの装備を整えることだったのかとリリアは推測した。

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