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今日から学校と仕事、始まります。①莞

山岸君は喧嘩が苦手

作者: 孤独

「僕は喧嘩が苦手だ」


これは死んでしまう僕のお話だ。



「その当時を語ると」


非力かつ軟弱、言葉もロクに使えず、無念よりもその通りの情けなさだけがある。


「僕は酷いに会っていた」


子供の頃、自分が悲惨の中にいる時。手を差し伸べる大人がいるだろうか?友達がいるだろうか?僕はいなかった。

親は僕を真似るように、言葉をロクに使えなくて、怖がりで、人に従うだけの存在だった。


誰も自分の苦しみ、苦味を知ってくれない。泣いてばかりで……何も解決しない。時に泣く、負ける、弱い、それだけしか伝えられなかった。そんなことが悪いとされた。


「でも、忘れた」


僕を助けられるのは僕ではなかった。僕にそんな勇気も、力も、ありはしない。


「コレと出会えたから」


僕が警察の人に渡したのは、その当時に入手したモデルガンだった。


「初めて悪い事をしたのは。父さんの財布からお金を盗んでコレを買ったことだよ」


正当防衛を目的にしたわけじゃない。僕の、弱さを無くすための道具だ。原始人が初めて武器を手に取った気持ちだった。

僕は喧嘩が苦手だった。体力がない。当然、そんな人に助けなんてない。助ける意味がない、羽虫のようだからだ。



「そんなに悪い事より、酷かったでしたか……?鯉川さん」

「そりゃあね。今まで38人もの人間を殺してるのよ。山岸くん。この重さを理解できる?」

「別に僕が気に入らなかった人数です」


モデルガンとはいえ、急所に直撃すれば重大な傷を負うのだ。山岸は自分の弱さを乗り越えるため、武器を使った。多少、周りが使う武器よりも強いものを選んだくらいのことだ。武器を当然の使用に驚いた周囲に対し、山岸は疑問しかなかった。自分と同じ事をして何を驚くのだろう?

初めて自分を恐れてくれたこと、自分が優位に立てること。


その快感と希望、救いの手に。今までの苦が消し飛んだ。


”動くな”なんて言葉は出なかった。周りと違い、脅しという選択肢もなかった。ただ、こいつで痛い思いをさせたい。もっと苦しい表情をみたい。

もうダメだと思わせたい。引鉄を何度も引いて、相手の1人が蹲っても撃ちまくる。すると周りは1人がやられるところを確認して逃げていく。やっぱりそうなのか、助けは周りにはいない。”止めてくれ”と、僕のように言葉を使った。僕は蹴ってみた。覚えている?いつか、僕がやられたことなんだ。


「だからって殺すのは、悪なんじゃない?」

「悪?」


そして、覚えた知識は色々とあった。もっと強い武器があればより僕は安全を手にできる。意見を通せる。さらに強力な武器がなければ、仕返しに来た軍勢に太刀打ちできなくなる。恐怖させることを絶やさせてはならない。

次第に山岸はモデルガンよりも強力な物を求め、制作するまでに至り、生きる意味を知る。その過程で返り討ちができる程度の武器から、その場で終わるほどの武器までに手を伸ばした。終わりの見えないような悪循環。殺してきた人数は知るだけで、38人となっている。


「悪って……。まさか、その逆の正義を信じるんですか?」

「警察ですもの。あいにく、私達が正義って日本の決まりなの」


その山岸の悪循環を止めたのは目の前にいる鯉川婦警。彼と違い、彼が憧れるようなスーパーヒーローみたいな、身体能力の塊の婦警。彼女みたいに最初から強かったら、こんなことにまで発展しないんだろう。別の道があったはずだ。ただし、


「そんなのはないですよ。悪は平常、自分が気に入らない奴、出来事、その全てが悪に収まる」


彼女に敗北し、捕らえられた山岸が、強くなって意見を言えた。武器を持たずとも、怯えることなく言えるようになったのだ。

僕は強くなれたんだ。


「はぁ~~。ま、警察の組織はそー思われてもおかしくないわね」


ただ、山岸を捕らえた鯉川婦警は溜め息をついてから、


「私はね。悪と思われる正義は持っているつもりはないわ。だいたい、悪と正義を同列かつ同義にしないで」


お説教は苦手かな、鯉川は感じる。たまに出てくる凶悪な犯罪者を捕らえるための特殊部隊の1人も兼ねている。

警察の絶対的な正義は必要なかった。


「私の正義は、全員の幸せを守る正義なの」

「……………」

「あなたのような危険人物を捕らえることだって正義。あなただって、私に止められてよかったんじゃない?無理だろうけど、一体何百人を殺して満足できるの?」

「…………………………」

「それは満足じゃなく、生きるためになったんでしょ?」


自分が思っていたことをこうも簡単に覆された言葉に、武器を探した。……でも、なかった。

彼女を倒せる武器じゃなく、自分が通った道を示すための武器がなかった。銃じゃない、ナイフじゃない、スタンガンじゃない、薬品じゃない。これは僕の中にあるものじゃないか。


「私に捕まったのが運のツキよ。少しは自分のしてきた道を正しく思える場所に紹介してあげる」

「え?」

「日常を守るには武器や力に頼るのは確かよ。あなたにはこれから、使われないための武器を沢山作って欲しい。あなたのように弱かった人を守れる武器を作りなさい」


防犯関係の職種であった。


「刑務所じゃないの?僕……それから死刑かと」

「刑務所?死刑?はぁ~~?馬鹿じゃないの?あんな生易しい現実ないから!あんなの罪を償う場所じゃないし、私達の税金で存在してるのよ!死刑を決めるまで何年掛かって、どれだけの金が掛かるか分かる!?法律があなたなんかを助けるのよ!私だってね、あなたみたいな凶悪犯を”殺す”じゃなくて、”倒す”だから苦労するの!」


鯉川婦警は警察関係の人だが、そうでないのかもしれない。たぶん、見えている根っこは自分の考え。僕のように自分の意味を出しているだけ。


「監視は付けさせてもらうわ。そーゆう専門の人がいる。おかしなことをすればその場で射殺されるから」

「…………」

「いい!?罪を洗うんだったら、精一杯自分で人生を生きなさい!生きることは地獄だって、言われてたりするの!殺人鬼のあなたがこれからどんな道で社会で生きられるか、想像なんか遥かに超えるから!」



しゅんっと、今の現実の高さ。甘えていた敷居に何も言えなくなる。



「頑張りなさい。私の顔を次見た時、そこで終わりよ」


喧嘩は苦手だ。口喧嘩もだ。何も言えない。

ただ、それは必要もないと鯉川婦警と出会えて分かった。喧嘩は必要ないことなのだ。辛いことがあるのは普通だって、分かった。

武器だと手に持ち、それを使うことばかりを考える。殺人鬼になった経験、鯉川婦警に止められた経験、そして、もうウル覚えになったここまでの経緯。



「衣服型のスタンガンを開発しようと思う。危険人物が触ってきたら、即感電する物を目指す」



まだまだ道は険しいけれど。僕の知識と技術が活かされるその日まで歩き続ける。それが、僕の罪がほんの少しだけ忘れられることだろうと、信じながら。

悪に進んでいく。





◇ おまけ ◇




「鯉川さんの到着はまだか!?」

「パトカーや白バイを見かけていない!」


車で逃走中のマークしていた凶悪犯、山岸を追いかけるパトカー3台。拳銃を所持していたとしても、それらの使用については上の許可が降りなければ、人に対して使えないというリスクがある。極めて危険なケースの判断というのは会議室にいる人間には分からない。


「お前達!鯉川友紀を知らないんだな!」

「えっ!?」

「あの”超人”。”韋駄天”の異名を持つ、鯉川友紀にバイクは必要ない!遅くなるだけだ!」

「そんな馬鹿な!なんですか、そんな人!」


山岸は警察の包囲網が完成する前に高速道路に乗り込んだ。これでは大惨事は確実の現実。さらには完全な逃走を許してしまう恐れもある。

しかし、追いかけるパトカーに連絡が入る。


『こちら鯉川!マークしていた車に追いつきました!』

「こ、鯉川さん!!今どこですか!?捜していたんですよ!」

『え?あなた達の隣だけど?』


そんな嘘だろうという連絡に、車を捜す警察の者達。ここは高速道路、最低でも80キロは出さなきゃいけない場所。車で捜したらどう考えても見つからない。しかし、それよりも明らかに不自然かつ異常現象に驚く。


「やっほー!あとは私に任せなさい!」

「ふ、ふ、普通に車と並走してるーーー!!?」

「高速道路で走っている!!?」


知らぬ者たちにとっての衝撃はハンパないだろう。文字通り、人間を超越している身体能力を備えた存在なのだ。


一対一サシでやるわ。あなた達は下がってなさい」

「わ、分かりました!では、一般人が邪魔にならぬようしっかりと守ります!」

「そうしてくれると助かるわ。次のサービスエリアに敵を嵌めるから、あとのことは任せるわ」


口と口のやり取りでメッセージを伝え合った。その後、すぐに鯉川の脚力はさらに跳ね上がる速度を叩きだす。並走をぶっちぎり、さらに先へ行く山岸の車に並ぶどころか追い越した。


「!?」


サービスエリアに山岸は寄るわけもない。ただし、鯉川は嵌めるといった。つまりは強制的に武力行使。腕力行使。

追い越した後、円を描きながら再び山岸の車と並走、垂直となるように突っ込んでいく。


「とりゃああぁ!!」


圧倒的速度を有する脚力からの飛び蹴り。車が一発で横に転がりながら直進する。



「な、なんだぁぁ!?」


山岸の車はサービスエリアで止まっていたトラックに直撃し止まった。仰天は止まった時、山岸になくなった。どんなに恐怖しようと、これまでやってきたように。


「こ、殺してやる!」


車を自ら壊し、外に出てくる山岸。彼が持っているのは禍々しい巨大な連射銃と、夥しい電流を発生させているスマホであった。


「あれが取り上げる武器ね。”科学”は2つか……」


あれだけの速度で動きながら、緩急をしっかりと耐えて山岸の出方を止まって見た鯉川。80キロ以上の速度から0というストップまで速いのは、気付きにくいが恐るべきことである。報告を知っている鯉川は、山岸が所有している2つの改造された武器の危険性を理解している。

なるべく、一般人を巻き込まず山岸を倒すのは先手必勝。


「ずるいね、凶悪犯!」


山岸から感じる、命の頓着のなさ。殺人を厭わない決意を秘めた瞳。覚悟のハンデは大分ある。

鯉川に向けられる銃器。引鉄に迷いはなく、放たれる弾丸の幕は人間を逃さないという殺意が積まれた配置だった。瞬間、標的は蜂の巣となる連射性能。鯉川は自慢の俊足、快速、反射の全てを集中し、凶悪な弾幕に突っ込んだ。

当たるその直前。


綺麗に180度に曲がったI字開脚。時間にして、0.005秒の所作を鯉川はしていた。


鯉川の正面にあった弾幕が上がった。まともな人間には鯉川に弾が逃げていったと思えるが、それほど見えないほどの速さで弾のほとんどを蹴り飛ばした技。メチャクチャな速度で繰り出された攻防一体の技。山岸が次の引鉄を引く前に、鯉川は間合いに入った。

引鉄もすぐに弾幕が生まれるわけじゃない。また、



ガギイィィッ


伸びている銃口を蹴り上げて武器を奪った鯉川。


「!」


だが、その攻撃がそこまで警戒していなかったスマホの機能の条件を満たしてしまった。鯉川の反応は出来事を忠実に予測することでより高く、速く行なわれていた。予期せぬ出来事に対しては素早く正確な攻撃がとれない。スマホが流れる電撃をモロに直撃する鯉川。



「ぶはぁっ!?」


全身が丸まるように折れる鯉川。一方、カウンターに成功した山岸は逃げるか、あるいは鯉川と戦うかのどちらかを瞬時に考えた。


「っ!」


こいつは、……強い!!勝ち目は…点ない!



武器を手にし、多くの殲滅を行い、自分自身も多くの経験を積んでいた。その経験とは慎重なものであり、自分を良く知っていた。武器を持たなければ何もできない。このスマホが備えている電撃では鯉川を倒せない。蹴り飛ばされた連射銃はまだ宙へ待っている。危機に出会えた時、人は自分も知らない癖を曝け出す。

殲滅こそすれど、真っ当な喧嘩をしたことがない山岸は痺れて、動きが鈍くなった鯉川を相手に。背を見せながら走った。



「はっ……はっ……」



ポケットにナイフがある。昔からのモデルガンもある。それでも心許ない。鯉川が化け物過ぎる。まず、死なないし。倒せる気がしない。

逃げろ。逃げるんだ。

思考がやってのけたわけではなく、山岸が忘れていた弱き日の生き方、逃れ方だった。



「っ……戻った!」


だが、山岸が走ったくらいでは逃げ切れるわけもない。すぐに痺れから解放された鯉川は猛ダッシュで山岸の背中を掴んだ。



「!離っ」



武器を持ってこそ、凶悪犯だった山岸。その全てを奪われた彼はほぼ普通の人でしかない。鯉川にとてつもない速度でバックドロップを決められる。



「がはあぁっ!?」



一気に昇天。凶悪犯に深刻なダメージを与えて捕獲してみせる。これが鯉川の手腕。


「彼、生きてますか?」

「手加減する余裕なかったわよ!殺しちゃったかもしれない!」


多くの凶悪犯は武器を持っている。ほぼ並の身体能力を持つ人間には、鯉川の一撃は重く。意識不明の重体に陥ることも度々ある……。




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