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24 告白

 運命の24日、クリスマスイヴ。朝起きて私は最後のアドベントカレンダーを開いた。最後だからか少し大きめのイラストが書いてある。三人の賢者のイラストだった。イエスの誕生を祝って東方より現れし三賢者。

 とてもクリスマスらしいイラストだけど、なぜイエス様やマリア様ではないのだろう? そこだけ少し気になった。


 もう学校は冬休みに入っている。昼間予定がなかったので、私は夜に備えて念入りに準備した。ゆっくりお風呂に浸かって、丁寧に体を洗い、お風呂上がりのお手入れも完璧。瞳に選んでもらった服にあうバックを選んだり、どんな髪型がいいか考えたり。

 すごいドキドキするけれど、とても楽しかった。


「真耶……そろそろ出かけるわよ」

「今行く!」


 気がつけばもうイヴ礼拝の時間だった。私は礼拝が終わったらそのまま出かけられる様に、勝負服に着替えた。あまりに張り切っていたので親から「どうしたの?」と聞かれたが返事はしなかった。


 教会の前の木には、綺麗なイルミネーションが施されている。教会の中は広々として立派なパイプオルガンがあった。パイプオルガンの伴奏と、聖歌隊の歌声と一緒に賛美歌を歌う。

 クリスマスにちなんだ賛美歌は有名な物が多いから、私でも頑張って歌えた。私は祈る様に歌った。告白が上手く行きます様にと。


 ハンドベルの演奏があったり、牧師様の長い説教があったり。長いような短いような礼拝は1時間ほどで終わった。私は待ちきれなかった様に、すぐに教会から駆け出した。



 ショッピングモールには家族や恋人同士で歩く人がたくさんいた。時間は夜8時半過ぎ。まだイヴは終わらない。ここからが勝負だ。

 最上さんの花屋に行く前に、トイレによって身だしなみを確認する。髪をとかし、リップを塗り直し、息を整えて決意する。大丈夫。今日の私は、いつもよりずっと可愛い。由香と瞳も応援してくれた。神様もついてる。きっと成功する。だから勇気を出して。


「あれ? 真耶ちゃん。どうしたの?」

「すみません。お仕事中に、あの……手があいてからでいいので、後で少し話を聞いてもらえませんか?」


 クリスマスイヴは花屋には書き入れ時なのだろう。まだ客もいるし、とても忙しそうだ。それでも最上さんは私に優しく微笑んだ。


「う……ん。仕事が終わった後だと、遅くなっちゃって、真耶ちゃんが危ないよね。うん。後で休憩時間貰ってくるから待っててもらえるかな?」

「はい。大丈夫です」


「じゃあこのフロアにある、近くのコーヒーショップで待っててくれる」

「はい」


 最上さんはお客さんに呼ばれて仕事に戻ろうとして、少しだけ振り向いて言った。


「私服の真耶ちゃん初めて見たよ。可愛いね。似合ってるよ」


 私は顔が真っ赤になるのが押さえきれずに、恥ずかしさから立ち去った。コーヒーショップでそわそわと待つ間、どう告白したらいいのか何度も考えた。

 最上さんから見たら私なんて子供だと思う。だから焦って付き合ってとか言っちゃダメだ。まず好きだって気持ちを伝えて、ゆっくり振り向いてもらうんだ。

 じっと入り口を見つめていたら、最上さんが急ぎ足で入ってきた。


「真耶ちゃんお待たせ。休憩時間30分しか貰えなかったから、あまり時間がないのだけど、話って何かな?」


 どくん。どくん。鼓動が早くなる。どうやって伝えよう。ここで言ってしまって良いのだろうか?もっと人目のない静かな所で、目立たずに……。でも忙しい最上さんをいつまでも付き合わせられない。

 最上さんが向かいの席に座るのを待って、ぐっと手を握りしめて。私は思い切って口を開いた。


「あの……私……初めて会った時から、最上さんの事が……」


 声が震える、きっと顔だって真っ赤だ。最上さんもちょっと戸惑ってる気がする。でも、言わなきゃ。


「私なんて子供だし、最上さんには釣り合わないかもしれないけれど……。好きです。今すぐ答えが欲しいなんて言いません。ゆっくり私と付き合っても良いか、考えてもらえませんか?」


 言った。言い切った。ドキドキしながら最上さんの返事を待った。断られたら、嫌われたら、どうしよう……。最上さんは大きく驚いた後、突然頭を抱えて沈黙した。どうしたのだろう?


「あ……あの。最上さん?」

「ごめん……真耶ちゃん」


 振られる? そう思ったらじわじわっと悲しみがこみ上げてきた。


「真耶ちゃんを誤解させてたみたいで本当にごめん」

「誤解?」


 今度は私が困惑する番だ。誤解ってなんだろう、どうして最上さんはこんなに申し訳なさそうな表情をしてるんだろう。


「あのね……私。よく誤解されるけど、女なんだ。だからおつきあいとかできないんだ」


 予想の斜め上を行く答えに、私の頭は真っ白になった。

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