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4、5、6、7

 翌日から毎日アドベントカレンダーをめくるが、メッセージはなく、プレゼントとか、靴下とか、ツリーとか、クリスマスっぽいイラストが続いていた。

 この先どうしたらいいのかな……。もうすぐクリスマス。最上さんとクリスマスデートとかできたら良いのにな……。

 想像しただけでニマニマしてきた。


 7日の日曜日。珍しく私は礼拝に参加した。運命の出会いはきっと、アドベントカレンダーがもたらしてくれたのだ。それならキリスト様にすがれば恋がかなうかもしれない。こんな気持ちで礼拝に行くなんて、邪かもしれないけど、すがる思いで礼拝に行く事にしたのだ。


「最近全然来なかったのにどうしたの?」


 小さい頃に教会でお世話してくれた、顔なじみの教会員のおばさんが嬉しそうに言った。


「クリスマスが近いから……しばらくこようかなと思って」

「そう。どんな理由でも、また会えて嬉しいわ。いつでもいらっしゃい」


 このおばさん以外にも、何人もの人にそう言われた。教会には家族ぐるみで何年も通う人も多いし、同じ教会に通う仲間同士が、親戚の様に親しい。それがくすぐったくて、ちょっとうざかったりもするけど、嬉しくもある。


「じゃあ今年は、イヴ礼拝にも参加してね。今年は私もハンドベル隊で演奏するのよ」


 あるおばさまにそう言われてはたと気がついた。

 クリスマスイヴの夜。日本人は恋人達の日だと思ってるだろうが、クリスチャンは毎週日曜日午前中の礼拝とは別に、イヴの夜に礼拝もやるのだ。

 イヴは恋人といちゃこらする日じゃないぞ! というわけだ。

 ど……どうしよう。クリスチャンでもない私としては、やっぱりクリスマスイヴは恋人とすごしたい。できれば最上さんと……と思うのだが。

 しかしここで願掛けを破って、イヴ礼拝をさぼったら、神様に怒られて恋愛成就しないかもしれない。


 私は悩んでしばらく保留する事にした。まだ最上さんとそれほど仲良くなったわけでもない。イヴに一緒にすごせるかもわからない。ならば今から悩むのもばかばかしい。

 それよりも。今はこの恋を成就させるために努力するのが大切だ。


 礼拝の後にお昼を食べて、午後何もする事がない。気持ち的にそわそわしすぎて落ち着かない。私は休みの日だというのに、制服を着て街へと出かけた。


「こんにちわ。あれ? 日曜日に制服? 部活帰りかな?」

「そ、そんな感じです」


 瞳に制服で迫れと言われてたので、つい制服できてしまった。この前の勝負服はここぞという時の為にとっておきたいし、他におしゃれな服とか思いつかない。

 制服は楽だ。


「今日は何にする? また花束かな?」


 今日は母親に花代はもらってない。とても豪華な花束なんて買えない。どうしようっと困って花の値札をみる。


「あの……。花って花束じゃなくて、1本からでも買えるんですか?」

「売ってるよ。一輪刺しとかも可愛いし、気軽にお家で楽しむのにいいんじゃないかな」


 いくつか値札を見たが、花1本なら、数百円くらいのお手頃な物も多く、小遣いで買えなくもない。一度にたくさんよりも、少しづつ何回も通いたい。


「あの……。私のイメージで一輪選ぶなら、どんな花がいいですか?」

「君に? そうだな……」


 最上さんが真剣に花を見渡す姿が凛々しくて、ドキドキ見つめていると、すっとピンクのガーベラを取り出した。


「可愛いガーベラが似合いそうだね。これなら一輪挿しもできるし、値段もお手頃じゃないかな」


 さすが最上さん。学生のお財布事情もわかってる。ガーベラは1本160円。これなら時々買いにきても何とかなる値段だ。


「じゃあ……それください……」

「ありがとうございます。……ところで、一輪挿し用の花瓶とか、うちにある? ちょっと小ぶりの綺麗な瓶とかでもいいのだけど」


 そう言われて私は首を傾げた。自分で花を飾らないのでわからなかったのだ。困っていたら最上さんはちょっと待っててと言って、奥へ入って行く。もどってくると手に小さい陶器の花瓶を持っていた。シンプルでちょっと野暮ったい形で、色もついてない、全然おしゃれじゃない。でも素朴な優しさを感じた。


「趣味で陶芸やってて、これ作った奴なんだ。素人の下手な花瓶だけど……良かったら使ってくれる?」

「最上さんが作ったんですか? すごい!」


 最上さんはとても恥ずかしそうに笑っていた。好きな人の手作りの品。それが例え客へのサービスであったとしても、とてつもなく嬉しい。


「このガーベラが枯れる前に、また新しいの買いにきますね」

「いつでもどうぞ。待ってるよ」


 最上さんは嬉しそうに返事してくれた。別れ際に勇気を出して聞いてみた。


「あ、あの……、最上さんは……24日って予定ありますか?」


 きょとんっとした顔をしつつ、最上さんは言った。


「今月の24日? 仕事だからここにいるよ。クリスマスに花を買う人も多いし、忙しい時期だからね」


 確かに店内は普通の花以外にも、クリスマスらしい、ツリー用のもみの木や、ポインセチアが目立って飾られている。クリスマスに花束を贈る人だって多いに違いない。

 当然の事だが、社会人は簡単にイヴに休めないのだ。


「じゃあ……夜遅くまでお仕事ですか?」

「店は8時にしまるけど、その後少し作業あるし、何時に帰れるかな……」


 イヴ礼拝は7時から。いつも一時間くらいで終わる。そこから急いでここに着たら……。9時前には店につけるだろう。

 仕事が終わるのを待って、思い切って告白してみようか。いきなり過ぎるかもしれないけど。あの勝負服を着ていこう。

 決意を胸に私は帰って行った。

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