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翌日から毎日アドベントカレンダーをめくるが、メッセージはなく、プレゼントとか、靴下とか、ツリーとか、クリスマスっぽいイラストが続いていた。
この先どうしたらいいのかな……。もうすぐクリスマス。最上さんとクリスマスデートとかできたら良いのにな……。
想像しただけでニマニマしてきた。
7日の日曜日。珍しく私は礼拝に参加した。運命の出会いはきっと、アドベントカレンダーがもたらしてくれたのだ。それならキリスト様にすがれば恋がかなうかもしれない。こんな気持ちで礼拝に行くなんて、邪かもしれないけど、すがる思いで礼拝に行く事にしたのだ。
「最近全然来なかったのにどうしたの?」
小さい頃に教会でお世話してくれた、顔なじみの教会員のおばさんが嬉しそうに言った。
「クリスマスが近いから……しばらくこようかなと思って」
「そう。どんな理由でも、また会えて嬉しいわ。いつでもいらっしゃい」
このおばさん以外にも、何人もの人にそう言われた。教会には家族ぐるみで何年も通う人も多いし、同じ教会に通う仲間同士が、親戚の様に親しい。それがくすぐったくて、ちょっとうざかったりもするけど、嬉しくもある。
「じゃあ今年は、イヴ礼拝にも参加してね。今年は私もハンドベル隊で演奏するのよ」
あるおばさまにそう言われてはたと気がついた。
クリスマスイヴの夜。日本人は恋人達の日だと思ってるだろうが、クリスチャンは毎週日曜日午前中の礼拝とは別に、イヴの夜に礼拝もやるのだ。
イヴは恋人といちゃこらする日じゃないぞ! というわけだ。
ど……どうしよう。クリスチャンでもない私としては、やっぱりクリスマスイヴは恋人とすごしたい。できれば最上さんと……と思うのだが。
しかしここで願掛けを破って、イヴ礼拝をさぼったら、神様に怒られて恋愛成就しないかもしれない。
私は悩んでしばらく保留する事にした。まだ最上さんとそれほど仲良くなったわけでもない。イヴに一緒にすごせるかもわからない。ならば今から悩むのもばかばかしい。
それよりも。今はこの恋を成就させるために努力するのが大切だ。
礼拝の後にお昼を食べて、午後何もする事がない。気持ち的にそわそわしすぎて落ち着かない。私は休みの日だというのに、制服を着て街へと出かけた。
「こんにちわ。あれ? 日曜日に制服? 部活帰りかな?」
「そ、そんな感じです」
瞳に制服で迫れと言われてたので、つい制服できてしまった。この前の勝負服はここぞという時の為にとっておきたいし、他におしゃれな服とか思いつかない。
制服は楽だ。
「今日は何にする? また花束かな?」
今日は母親に花代はもらってない。とても豪華な花束なんて買えない。どうしようっと困って花の値札をみる。
「あの……。花って花束じゃなくて、1本からでも買えるんですか?」
「売ってるよ。一輪刺しとかも可愛いし、気軽にお家で楽しむのにいいんじゃないかな」
いくつか値札を見たが、花1本なら、数百円くらいのお手頃な物も多く、小遣いで買えなくもない。一度にたくさんよりも、少しづつ何回も通いたい。
「あの……。私のイメージで一輪選ぶなら、どんな花がいいですか?」
「君に? そうだな……」
最上さんが真剣に花を見渡す姿が凛々しくて、ドキドキ見つめていると、すっとピンクのガーベラを取り出した。
「可愛いガーベラが似合いそうだね。これなら一輪挿しもできるし、値段もお手頃じゃないかな」
さすが最上さん。学生のお財布事情もわかってる。ガーベラは1本160円。これなら時々買いにきても何とかなる値段だ。
「じゃあ……それください……」
「ありがとうございます。……ところで、一輪挿し用の花瓶とか、うちにある? ちょっと小ぶりの綺麗な瓶とかでもいいのだけど」
そう言われて私は首を傾げた。自分で花を飾らないのでわからなかったのだ。困っていたら最上さんはちょっと待っててと言って、奥へ入って行く。もどってくると手に小さい陶器の花瓶を持っていた。シンプルでちょっと野暮ったい形で、色もついてない、全然おしゃれじゃない。でも素朴な優しさを感じた。
「趣味で陶芸やってて、これ作った奴なんだ。素人の下手な花瓶だけど……良かったら使ってくれる?」
「最上さんが作ったんですか? すごい!」
最上さんはとても恥ずかしそうに笑っていた。好きな人の手作りの品。それが例え客へのサービスであったとしても、とてつもなく嬉しい。
「このガーベラが枯れる前に、また新しいの買いにきますね」
「いつでもどうぞ。待ってるよ」
最上さんは嬉しそうに返事してくれた。別れ際に勇気を出して聞いてみた。
「あ、あの……、最上さんは……24日って予定ありますか?」
きょとんっとした顔をしつつ、最上さんは言った。
「今月の24日? 仕事だからここにいるよ。クリスマスに花を買う人も多いし、忙しい時期だからね」
確かに店内は普通の花以外にも、クリスマスらしい、ツリー用のもみの木や、ポインセチアが目立って飾られている。クリスマスに花束を贈る人だって多いに違いない。
当然の事だが、社会人は簡単にイヴに休めないのだ。
「じゃあ……夜遅くまでお仕事ですか?」
「店は8時にしまるけど、その後少し作業あるし、何時に帰れるかな……」
イヴ礼拝は7時から。いつも一時間くらいで終わる。そこから急いでここに着たら……。9時前には店につけるだろう。
仕事が終わるのを待って、思い切って告白してみようか。いきなり過ぎるかもしれないけど。あの勝負服を着ていこう。
決意を胸に私は帰って行った。