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 自分の部屋でじっとアドベントカレンダーを見つめたまま、今日の事を思い出して顔がにやけた。まさかあの人に、こんなすぐに再会できるとは思わなかった。


「汝の隣人を愛せよ」


 あのメッセージはやはり予言だったのだ。「隣人」つまり、二人の友人のおかげであの人に巡り会えたのだ。瞳が服を買いに行こうなんて言わなかったら、きっと出会えなかった。

 あの後何も言えずに花屋を立ち去って、二人に話したら、二人ともすごい喜んでくれた。

 やっぱりあれは運命の出会いなんだ……。


 私はまたドキドキしながらカレンダーをめくる事にした。明日……3日のメッセージはなんだろう。

 そう思って開くと、メッセージはなく、百合のイラストが書いてあった。クリスチャンは百合が好きな人が多い。葬式とかに百合を飾ったり、自分の娘に「百合」と名前を付けたり。

 だからこのカレンダーに百合が書かれててもそれほど不思議ではないのだが……。

 でも思い返せば、百合の香りに気づかなければ、あの店に気づかなかったかもしれない。百合の花こそが恋のキューピッドなのだ。


 百合の花を……飾ってみようか? もちろんあの店で買って。そうすればあの人と話ができるかもしれない。


「お母さん……。明日花を買ってきてもいい?」


 服を買ったばかりで今月の小遣いピンチな私は、母親に花代をせがんだ。庭でガーデニングをするのが趣味な母親は、嬉しそうにお金をくれた。やった。これで花を買いに行ける。

 明日が待ち遠しい……そう思いつつ、私は布団に入って目を閉じた。



 翌日。学校帰りに制服のまま店に行った。


「女子高生の制服なんて、最高の武器でしょ! まずは制服でせまって、相手が脈ありそうなら、勝負服でGOよ」


 とまあモテモテ女子の瞳からアドバイスされ、いつも通りの制服姿なのだった。ショッピングモール内のあの花屋の側までいくが、なかなか勇気が出て来ない。わずかに漂う百合の花の匂いに、あの人の事を思い出し、勇気を出して一歩足を進める。


「あ……あの」


「いらっしゃいませ……ああ、また着てくれたんだ。ありがとう」


 にこっと笑った姿が、好青年で可愛い。そのスマイルに早くも悩殺されつつ、しっかり私は見た。胸元に書かれたネームプレート。


『最上』


 最上さん。それがこの人の名前。下の名前がわからないけど……。でもほんの少しでも好きな人の事がわかって飛び上がるくらいに嬉しい。昨日はびっくりして、確認する間もなく逃げ出しちゃったから。


「母から……買い物を頼まれて……。家に飾る花なんですけど……。一緒に選んでもらっていいですか?」

「かしこまりました。お嬢さん。好きな花とか、色とかあるかな?」


 私の予算を確認しつつ、選んで行く最上さん。私は何も思いつかずにただ「百合がいい」としか言えなかった。

 最上さんは百合をメインにしつつ、清楚な花束を作り上げて、くるくるっとまとめ上げて行く。当たり前だがプロだから、選ぶ花のセンスもいいし、綺麗に花束をまとめあげてあっという間に作ってしまう。

 せっかく話しかけられたのに、何もおしゃべりできずに終わってしまう……。どうしよう……。

 困りながら手持ち無沙汰に、手近な花をじっと見ていたら話しかけられた。


「花が好きなの?」


「は、はい! 大好きです。……あまり詳しくないけど。綺麗だなって」

「花が身近にある生活はいいよね。心を豊かにしてくれるものね。また気軽に遊びにきてね」


 最上さんの営業スマイルは、イケメンすぎ。近くを通り過ぎる他の女性まで、ちらちらと見ていた。絶対この人モテる。……もしかして、もう恋人とかいるのかな?

 急に心配になってきた。私は出来上がった花束を受け取りつつ、俯いてしまった。


「どうしたの?」

「あ……あの……」


 いきなり初対面も同然な、店の店員に恋人がいるかどうかなんて、聞けるわけがない。でも気になる。どう言えばいいだろうと悩み、勢いに任せて言葉にした。


「最上さん……だったら、自分の恋人にどんな花を贈りますか?」


 いきなり唐突な質問だったかもしれない。一瞬最上さんもびっくりしていたが、照れた様に頭をかいた。


「う……ん。やっぱりその人のイメージにあわせたいかな……。今は恋人いないし、具体的に思いつかないけど」


 恋人がいない。思わず心の中でガッツポーズをあげてしまった。


「ん? 彼氏へのプレゼントに花を考えてるの?」

「いえ! 彼氏なんていません。ちょっと思いついただけです。私に彼氏なんているわけ……」


「そう? 可愛い女の子だし、彼氏がいてもおかしくないと思うよ」


 お世辞でも可愛いと言われればとても嬉しい。私はお金を払って慌てて帰った。名前を知った。恋人がいない事も確認した。可愛いと言われた。……これは恋愛フラグでしょう!

 私は夢見心地でたどり着き、母に花束を渡した。百合の花粉が服についたのか、花束を渡した後も、私の服から百合の香りがした。

 最上さんの香りだ……。想像しただけでどきどきだ。

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