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真耶はじっとアドベントカレンダーを睨んだ。
あれは「運命の出会い」だったのだろうか? もしかしてこれは予言書とかではないのだろうか。ばかばかしいと思いつつも、ついつい次が気になる。
今日もフライングで明日の窓を開けた。
「汝の隣人を愛せよ」
……なんだ、がっかり。やっぱりキリスト教じゃん。全然未来予測じゃないし。私は期待はずれの気分でそのまま寝た。
翌日学校につくと、友達の由香が声をかけてきた。
「おお……昨日は大遅刻だったのに、今日は……ちゃんと時間通り。偉い偉い」
「偉くない」
由香はすらりと長身の、少しクールな美少女だった。ほっそりモデル体型は女子が羨むほどなのだが、本人は服装に無頓着だ。それでもユニクロ着ても、おしゃれに見える体型が羨ましい。
由香は私の頭をぽふぽふと撫でている。なぜか私を子供扱いするのが好きらしい。
「由香は今日部活いいの?」
「マネージャーの仕事は……一区切り。また放課後……」
由香は野球部のマネージャーをしている。クールに見える由香だが、実は野球部のエースに片思いしてる事は、親友同士の秘密だ。
「おっは〜♪」
そういいながら私達にダイビングハグをかましたのは、もう一人の親友の瞳だった。由香とは全く違うタイプの美少女だ。由香がクールビューティーなら、瞳はキュート&セクシー。身長は普通くらいだけど、ナイスバディと、くるくる変わる愛らしい表情の彼女に、他の男達の視線も釘付けだ。
きっと男子達は「俺もハグしてくれ……」とか思ってるんだろうな……。
「おは……。瞳。元気。良い事あった?」
由香が何事もなかった様に聞くと、瞳は上機嫌で答えた。
「今年のクリスマスイヴ、医大生とのデート決まったわ」
ニヤリと笑う瞳に雌豹の匂いを感じる。「目指せ玉の輿」を目標に、日頃から努力してきてる瞳としては、「医者の卵=医者の嫁」という至ってわかりやすいネタに食いついた。
「よかったね」
「真耶? どうしたの? いつもなら「このビッチめ」とかって視線で私をいたぶるのに」
「私そんな汚い言葉言わないし、そんな視線で見ないし」
まあ……モテすぎて羨ましいと思うのは確かだけど。
「でも何かあったんでしょう……」
瞳の愛くるしい目でじっと見つめられて、私は観念した。瞳の直感は鋭く、どれだけ逃げてもすぐに見透かされるのだ。
それでアドベントカレンダーの事と、昨日の男の話をしたら、瞳がおおはしゃぎし始めた。
「運命の出会いなんて素敵!! もしかしてまた会うかもしれないじゃない。可愛い服着て会いたいじゃない。今日の放課後服買いにいきましょうよ」
ものすごい飛躍である。出会えるかもわからないのに、再会の為に服を買いに行くなんて。しかしモテ女の瞳は、日頃からチャンスを逃さない為に、こういう弛まぬ努力をしているのかもしれない。
「私も……。行く……。真耶の可愛い服、見たい」
「部活は?」
「休む。だいじょぶ。他にもマネージャーいるし」
こうして親友三人と放課後に服を買いに行く事が決まった。なんでこんな美少女二人に挟まれて、フツメンの私が混ざってるのか……。二人と比較されていたたまれない気持ちになるのだが、なぜか二人に懐かれているので仕方がない。
そして放課後。駅前のショッピングモールへと私達は向かった。服装音痴の由香ももちろん、私もあまり人ごみは好きではないので、一人でこういう人の多い洋服屋に買いに行く事がない。
大抵瞳が私達二人を引っ張ってきて、素敵にコーディネートしてくれる。ちゃんと初めに予算も聞いて、その予算で買えそうな店を探してくれる所もすごい。
「く、くやしい……由香には何着せても似合いすぎる……。わざとダサい服きせても似合うなんて……」
瞳が遊びで毎回「これないわー」って服を由香に着せるのだが、天然モデルの由香が切ると、なぜか様になってしまう。私は悔しがる瞳の姿を笑い、由香はぼーっと首を傾げている。いつもと同じ三人のお遊びだ。
「さて、今日の本題。真耶の服よね。……やっぱり冬っぽくもこもこした感じがいいんじゃないかな? 真耶って小動物っぽい可愛さがあるし」
「うん。小さくて可愛い」
「小さいいうな!」
女子高生の平均よりずっと背が低い事を、私が気にしてると知ってるのに、二人はずけずけこんな事を言ってくる。本当に……友人か君たち。
「白いもこもこのケープとか着せたら可愛いわよね……。ケープの下は緩やかなワンピース。清楚に青系かな。ちょっと重ね着して、裾からレースとかひらひらさせて。服が甘いから足はブーツでしめて……。イメージはクリスマスの天使!」
なにそのハードルあげ。私に天使とか無理だし。とかいうものの、瞳に押されて無理矢理試着させられてしまう。
「きゃー!! 可愛い!! 私、スタイリストの才能あるかも!」
瞳が自画自賛するのも少しだけ納得してしまう。
緩やかなラインの服は、起伏のない体型をカバーしてくれるし、もこもこしたケープが女の子らしく温かそうで、思わず抱きしめたくなる服装だ。すごい、女の子してるのに、嫌みがない。森ガール? ってこんな感じかな。キメキメなおしゃれじゃない、ゆるい感じが私も気に入った。
……しかし……。
「さすがに全身フルコーデは予算オーバーだよ……」
確かに可愛いのだが、バイトもしてない私の小遣いはすくない。いちおうお年玉貯金を崩してきた物の、全身買い替えるほどのお金はない。
「大丈夫!」
瞳がにんまり。
「問題ない……」
由香が真顔で頷く。
「ケープは瞳が、ブーツは私が買う。瞳と相談した」
「ええ!! ちょっとまって、それじゃあんまり……」
確かにケープとブーツを抜いて服だけなら、持ってきた小遣いで足りるのだが……。
「私達からのクリスマスプレゼントよ。友情に感謝しなさい。真耶もモテ女子への階段を登っちゃいな」
二人から笑顔でごり押しされてお買い上げ。二人の友情に感謝でいっぱいだ。
「二人ともありがと……」
恥ずかしそうにそう言ったら、二人に抱きつかれた。
「真耶! やっぱ可愛い!」
「ん……真耶は可愛い。……正義だ」
なにこの百合娘達。百合百合しいよ。私美少女にモテるのだろうか?
「さーって。買い物も終わったし、甘い物でも食べに行きましょう♪」
瞳が上機嫌でショッピングモール内を歩き始める。私もついて行こうと歩き始め、ふと甘い香りに気がついた。昨日のあの男性からかすかに漂った、あの香りだ。
思わず振り向くと小さな花屋がある。ゆっくり近づくと、その香りが百合の花の匂いだと言う事に気がついた。百合の花は匂いが強い。結構遠くまで漂って来る物だ。
「いらっしゃいませ!」
爽やかに呼びかけた、花屋の店員さんにびっくりした。昨日私を助けてくれたあの男の人だった。