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「真耶……。バザーでリース買ってきたわよ。今年の綺麗なんだから見て見て♪」
はしゃぐ母の声をうっとうしそうに聞き流しながら、今年のリースをみた。去年と同じじゃん。同じ奴使えば良いのに。と思うのだが、それではダメらしい。
「教会のバザーで良いものが他にもあったのよ。これ真耶の部屋に飾ったら?」
母がそう言って取り出したのは、大きめで少し厚みのあるイラスト。カラフルな色使いで、クリスマス風のイラストが書かれているが、よくみると絵の色んな場所に1〜24までの数字がちりばめられていて、切り込みがあり、数字の所がめくれる様になっている。
アドベントカレンダーだ。クリスマスを毎日ワクワク待つ子供達の為のカレンダー。12月1日から始まって、毎日その日の数字を開けて行き、全部開けるとクリスマスイヴになる。
この厚みだと、たぶんイラストとかメッセージがあるくらい。もっと大きいのだと、お菓子とかが入っていたりもする。
「アドベントカレンダーなんて子供じゃないんだし……」
「あら可愛いんだから、自分の部屋にポスター代わりに張れば良いじゃない」
確かに色使いが明るくて、絵本みたいにほのぼのとしたタッチは、気分転換に飾る程度には可愛かった。
「今年も待降節がきたんだからリースを飾らなきゃね」
母は嬉しそうに買ってきたばかりのリースを玄関の扉に飾った。
私は佐々木真耶。今年16歳になった高校生だ。そして私の両親はクリスチャンだった。クリスマスも、イースターも、ペンテコステも祝う。
そしてクリスマスの祝い方も普通の日本人とは違った。
2014年12月25日は木曜日で、同じ週の日曜日は21日。この21日の礼拝が特別なクリスマス礼拝だ。その他にイブの夜に礼拝があったり、クリスマス前に洗足木曜日とか色々行事はあるのだが。
クリスマスの始まりはまず待降節だ。待降節からクリスマスの間の期間の事もアドヴェントと呼んだりする。
これは今年だとクリスマス礼拝の21日から4週間前の日曜日。つまり11月30日からとなる。アドヴァンとになるとリースを飾り、公現日と言われる1月6日にしまう。
世間のミーハーなクリスマスより、遥かに長くリースは飾られるのだ。
嬉しそうな母を私は冷めて目で見ていた。私はクリスチャンじゃない。子供の頃にお菓子につられて日曜礼拝に通ってた頃もあったが、中学になる頃には、部活や友達付き合いが忙しくて、日曜日に礼拝に行く暇もない。
私もクリスチャンになる気がないし、親も強制しないから、別にならなくても良いのだけれど、こういう年中行事には巻き込まれたりする。
そして私は母が買ってきたアドベントカレンダーを自分の部屋に飾った。じっと見てるうちに、1枚めくってみたくなる。今日はまだ11月30日。でもあと数時間なのだから、めくってしまっていいかと1日の部分をめくった。
「運命の出会いがあるでしょう」
私はちょっと意外だなと思った。てっきりクリスマス関連のイラストか、聖書の一節とか、そんなのが書いてあるかと思ってたのに、まるで占いみたいな言葉が書いてある。
「明日は……何かあるのかなぁ」
朝のワイドショーの売らないコーナー並みの気分で、明日良い事あれば良いなと思った。
翌日。いつもより30分寝坊した。我が家の朝食がパンなら、トーストかじりながら走りたいくらいだが、あいにく我が家は米派だ。
慌てて少しだけ朝食を駆け込むと、家をでて走る。遅刻したら、また学年主任がうるさくて嫌だなぁ……っと思うから、ついつい周りも見ずに走ってしまう。
「危ない!」
そう聞こえたかと思ったら、後ろから腕を掴まれて引かれた。目の前を車が通り過ぎる。もし腕を引かれてなかったら……と思うとぞっとした。慌てて振り返って頭を下げる。すぐ側からかすかに甘い良い香りがした。
「ありがとうございます」
恐る恐る顔を上げると、人懐っこい笑顔とぶつかった。黒いダウンとジーンズ姿。服装はカジュアルだし、見た目も若い男性に見える。
でもなんとなく落ち着いた雰囲気が20代くらいなのかな?とも思った。
男の人なのに甘い香り……。香水とも違う。花のような香り……。少女漫画の世界じゃないし、薔薇しょって登場とかそんな事ないのに……どうして/
「ちゃんと前だけじゃなく横も見るんだよ」
その人はくしゃくしゃって笑顔で笑いながら、私の頭をぽんぽんと叩いてその場を去って行く。私は遅刻するとかもう、すっかり忘れて、去って行く男の人の背中を見つめていた。
明るくて、優しくて、ちょっと大人で……。素敵だな……とも思った。でもどこの誰かまわからないし……。もう会えないのかな?
「運命の出会いがあるでしょう」
今日のアドベントのメッセージはこの事かな? そう考えながらドキドキした。