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雨の日にひとりでいることはできない

作者: 蒼井 雨

朝起きるとひどい雨が降っていた。それは濁流の中にいるような雨で、大きな滝の側にいるみたいにアスファルトが白くけぶっていた。私は窓についた大量の水滴を眺め、今日が何の予定もない休日であることを思いだして困った。

私は雨の日にひとりでいることが、できない。

よく晴れた日にひとりで家にいることはできるのだ。眩しく容赦なく外に差す太陽から免れたことに安堵して、せわしなく動く外の世界から取り残された怠惰で贅沢な至福に浸ることができる。しかし、雨の日は違う。

雨は孤独を浮き彫りにする。

前に雨の日にお風呂に入るのが好きだと言っていた友人がいた。温かなお湯をはった湯船に浸かりながら屋根を叩く雨音を聞くのが好きだと。雨の中を泳いでいるようで好きなのだ、とその人は言っていた。私には到底できないと思う。そんなことをしたら、私は溺れてしまう。

いつだって私は孤独につきまとわれていた。小さい頃、私が留守番をしていた時に夕食の買い出しに行った母親の帰りが遅くなったことがあった。伝えられた時間を30分過ぎても、1時間過ぎても帰ってこない。私はとても心配になった。何があったんだろう、事故でもあったんじゃないか。死んじゃってたら、どうしよう。小さかった私は途方にくれた。知らない人の家のように思える自宅のソファーで小さくなりながら、ぼろぼろ泣いた。泣き過ぎて水分がなくなってもう何もでなくなった。

大泣きした後の倦怠感に浸っていると、母親がようやく帰ってきた。ごめんね、寂しかったでしょうと言ってお土産の少女漫画雑誌を差しだした。学校のみんなが持っているのに家にはなくて憧れていたものだ。

「いらないもん。」

何の跡も残っていない乾いた顔で怒る私に母親は困惑していた。怒りとは全く別の、自分を支配する何かに、私は名前をつけることができなかった。

強く屋根に叩きつける雨音を聞きながら、私は用事もないのに出かけるための身支度をした。こんなに強く降りつけて雨は痛くないんだろか、と思った。服を身につけ、髪に櫛を通す。鎖骨にかかる少し内側に弧をかいた毛先を濡れるんだろうな、と見つめた。

雨靴を履きいてコートを着て、傘をさす。どんなに完璧に装備をしても私はいつも雨に負けてしまう。

それでも雨の日が好きだ。泣いてしまうほどに。


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― 新着の感想 ―
[一言] いつしか待つことに慣れて、待ち人来ずとも待ち続けている。でも、不意に待っていることを思い出してしまう。心の空白にどうしようもなく、うろたえてしまう。そんなこと、私もあります。
[一言] わたしも雨の日は決して、嫌いではありません。雨の日にお風呂に入ることも好きです。雨音を聞きながら入浴をしていると、心が落ち着くんです。 でも、雨の日が孤独を浮き彫りにする、というその気持ちも…
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