5.お化け屋敷
その日、休暇をもらった聡美は、彼氏の倉田 康夫と遊園地でデートをしていた。
「やすくん、次は何?」
「そうだねえ……新しく出来たお化け屋敷でも入ってみる?」
「オッケーよ」
聡美と康夫はお化け屋敷へ行くことにした。
お化け屋敷に着き、中へ入るその刹那。
「きゃああああ!」
女性の悲鳴にびっくりする聡美。
大方、入場者がお化けにびっくりして悲鳴をあげたのだろう、そう思うことにした聡美だったが、次の一言でそれは変わる。
「し、死体──っ!」
(死体?)
聡美は急いで駆け付けた。後から康夫もやってくる。
「どうしたんですか?」
「ひ……ひ……人が死んでるんです!」
腰を抜かした女性が指差した先を見ると、首の無い死体が血塗れで転がっていた。
康夫は遺体から目を逸らす。
「やすくん、警察に電話して!」
「あ、ああ……」
康夫は警察に通報をした。
そこへ騒ぎを聞きつけてやってくる係員。
「いったい、何があったんですか?」
聡美は係員に警察手帳を見せた。
「警察です! たった今、殺人事件が発生しました! 直ぐにこのお化け屋敷の出入り口を封鎖して下さい!」
「かしこまりました!」
係員は駆け出していった。
聡美は第一発見者の女性に警察手帳を見せた。
「警察の者ですが、少しお話を聞かせていただけませんか?」
「えっと……何を話せばいいのでしょうか?」
「先ずお名前を教えて下さい」
「古橋 光代と申します」
「遺体を発見した時の状況を教えて下さい」
「嫌! 怖い!」
「……なぜお一人なんですか?」
「それなら答えられるわ。彼氏と来て入ったんですけど、怖くて私を置いて先に逃げてしまったんです」
「怖い、というのは、遺体、ですよね?」
「え、ええ……」
そこへやってくる数人の鑑識と刑事たち。
「えっと……、通報をされたのはどなたですか?」
「僕です」
康夫が口を開いた。
「貴方が第一発見者?」
「いや、僕じゃなくてあの人です」
康夫は光代を差した。
「その隣にいるのは?」
聡美が刑事に気付き、こちらへやって来た。
「貴方は?」
「黒沢 聡美です」
「お仕事は?」
「公務員です」
刑事は遺体を見る。
「これはまた惨いことを……」
合掌する刑事。
「刑事さん、頭部はどこへ行ったんでしょうか」
「さあ……って、これは警察の──」
「私も警察官です」
聡美は刑事に警察手帳を見せた。
「ん、警視庁!? 失礼しました!」
「で、頭部は……」
「これから付近を捜索します」
「見付かるといいですけど、犯人が持ってるって可能性も視野に入れた方がいいのでは?」
「そうですね」
じゃあ──と、去っていく刑事。
「聡美、君はどうするの?」
「私は遊園地内で聞き込みをするわ。じゃ」
聡美は小走りでお化け屋敷を出た。そして、来客に聞き込みをした。
人の頭部が入りそうな大きな鞄を見かけなかったか、という質問だが、誰一人見たと言う人物はいなかった。
聡美は現場へと戻る。
現場には先ほどの刑事がいた。
「黒沢さん、先ほど遊園地のゴミ置き場からガイ者の頭部を発見致しました。ガイ者は女性で名前を影山 明美と言います。年齢は三十歳。このお化け屋敷のスタッフです」
「係員のアリバイは?」
「確認したところ、今日はガイ者と二人での勤務で、もう一人の方にアリバイはありません。本人は入り口にいたと仰ってますが……」
「ちょっと待って。二人だけじゃお化け屋敷の営業は成り立たないんじゃないですか? お化け屋敷ってお化け役のスタッフがいるはずでしょ?」
「それは全部ロボットがやってます」
「なるほど。それで、凶器の方は見付かったんですか?」
「それもゴミ置き場で血のついた鋸が見付かってます」
「指紋は検出出来ましたか?」
「いいえ。しかし手袋痕が付着してました」
「そうですか」
聡美は考える。
(お化けはロボット、スタッフはガイ者含めて二人だけ、もう一人にはアリバイ無し……犯人はあの人かしら? でも、証拠がないわ)
聡美は係員の下へ移動した。
「貴方、手袋をお持ちですか?」
「手袋? ああ、持ってますよ。今日は寒いですからね」
「ちょっと拝見出来ませんか?」
「いいですよ」
係員がポケットから手袋を取り出した。
「これ、暫くの間、拝借出来ませんか?」
「え?」
「被害者の首を切り裂いた鋸から手袋痕が検出されたんです。この手袋と同一の物か調べさせて下さい」
「僕を疑ってるんですか?」
「渡せない理由でもあるんですか? もしかして、貴方が?」
「……すみません。僕が殺しました」
「なぜ殺害したんですか?」
「頼まれたんです。百万やるから殺してくれって」
「誰に?」
「知りませんよ。僕の携帯に匿名でのメールだったので。それで、お金に目が眩んで……」
係員は聡美に両手を差し出した。
「すみません、私は管轄外なので……」
刑事がやって来て手錠を取り出した。
その手錠を係員にかけて連行していく刑事。
「やすくん、早く出ましょう?」
「そうだね」
聡美と康夫はお化け屋敷を後にした。
そして、その後の捜査で、殺人依頼のメールの差出人が逮捕された、と警視庁への報告も入ったという。