4.銀行強盗
その日、聡美は新宿にある東京UFK銀行に来ていた。
窓口で手続きをしている。
そこへ目出し帽の何者かが二人入って来た。
一人が拳銃を取り出し、窓口の女性に銃口を突き付けた。
「金を出せ! さもなくば撃ち殺す!」
銀行員は目出し帽が置いた袋の中に現金を入れていく。
(私の前で銀行強盗なんて……)
「お前たち、動くなよ! 変な真似したらあいつの額に風穴が開くぜ!」
聡美は懐に手を入れた。
「おい、何してる!?」
もう一人の目出し帽が拳銃を取り出して聡美に向けた。
聡美の懐の中の手には拳銃が握られている。
「何が入ってる?」
聡美は拳銃を取り出した。
「そいつを置け」
聡美は強盗犯の指示に従って拳銃を置いた。
「こっちへ蹴れ」
拳銃を蹴る聡美。
「ニューナンプM60……お前、何者だ?」
「警察よ」
聡美は警察手帳を提示した。
「兄貴、有り金全部入りましたぜ」
「ごくろう」
強盗犯たちは立ち去っていった。
聡美は拳銃を拾い上げて懐へしまうと、銀行強盗のことを警察に通報した。
それから暫くして、所轄の刑事が現れた。
「通報して下さったのは?」
「私です」
「貴方は?」
「黒沢 聡美です」
「職業は?」
「公務員」
「犯人はどんな顔でした?」
「目出し帽を被ってたので分かりません。人数は二人で、拳銃を持ってました」
「これで四件目か……」
「四件目? 新宿署管内で以前にも銀行強盗事件が発生してるんですか? そしてそれは同様の手口……」
「貴方、何なんですか?」
「ああ、本庁の者です」
聡美は警察手帳を提示した。
「失礼しました」
「過去の三件の事件について教えていただけますか?」
聡美は聞いた。
所轄の刑事によると、三件とも今回と同様の手口で金を奪い取っていったという。
「つまり、覆面をしてて拳銃を突き付けて奪っていったわけですね?」
「ええ」
「そうですか。……取り敢えず、一件目の現場を教えていただけますか?」
「明和銀行西新宿支店です」
「ありがとうございます」
聡美は明和銀行西新宿支店へ行き、窓口で警察手帳を提示した。
「警視庁の黒沢です。先日、こちらで強盗事件が発生したようですが、少しお話を聞かせていただけますか?」
「あれは昨日のことです。目出し帽の二人組が拳銃を手に入って来て、私に銃口を向けて、袋にお金を入れろと要求してきました」
「いくら要求されたんですか」
「窓口で用意出来る有り金、全て持ってかれました」
「それは大変だったでしょうね。それで、他に何か気づいたことはありますか?」
「そういえば、事件直後にある口座に被害額の半分の金額の入金がありましたよ」
「その口座の入出金の記録を拝見出来ますでしょうか?」
「少々お待ち下さい」
銀行員がその口座の記録を印刷して聡美に見せた。
口座名義人は木崎 小五郎となっている。
「これ、拝借してよろしいですか?」
「どうぞどうぞ。犯人逮捕の役に立つなら持ってって下さい」
「ありがとうございます」
聡美は記録表をしまい、銀行を出て新宿署の捜査一課を訪問した。
「ああ、貴方は!」
「今、明和銀行の方へ行って話を聞いてきました。妙なものを見付けましたよ」
聡美は例の記録表を渡した。
「これ、事件直後に盗まれた現金の半分の額の入金があった口座です。妙だと思いませんか?」
「偶然じゃないですか?」
「では、他の二件も調べてみましょう。二件目の事件現場はどこですか?」
「新宿駅前の三和銀行です」
「三件目は?」
「りぞな銀行北新宿支店です」
「では、何かありましたらご報告にあがります」
聡美は新宿署を出ると、事件のあった二件の銀行の口座を調査した。
(やっぱり)
聡美は二件の銀行のある人物の口座の記録表を入手して新宿署に戻った。
「私の思った通り、二件の銀行口座に入金がありました。口座名義人は木崎 小五郎です」
「では、木崎 小五郎についてこちらで調べてみます」
「よろしくお願いします」
聡美は警視庁へと移動した。
警視庁捜査一課に一本の電話が入った。
電話の主は新宿署の刑事で、木崎のことについてだった。
新宿署員の話によると、聡美の調査通り木崎は事件のあった三店の銀行に口座を持っており、事件直後に被害額の半分の金額が入金されていた。そして、そのことについて問いつめたところ、木崎が容疑を認めたため、緊急逮捕をしたという。
が、しかし、共犯者については頑なに口を開かなかったのである。
「ということらしいんですが、警部?」
「荒川さん、ちょっと付き合って」
「え? どこか行かれるんですか?」
「新宿署のお手伝いにね」
聡美と洋子は表に出て車に乗り込んだ。
「それで、どこへ行くんですか?」
「明和銀行周辺を回ってちょうだい。その周辺の防犯カメラを片っ端から当たるわよ」
「了解」
洋子は車を発進させた。
事件のあった明和銀行周辺を回る聡美たち。
周辺で見付けた防犯カメラを片っ端から当たり、そのカメラの映像から一人の男を割り出した。
それは、明和銀行の銀行員、中村 敏男だった。
中村は金に困って、友人の木崎と共に銀行強盗を働いたというのだ。
その後、中村は新宿署に身柄を引き渡され、事件は解決となった。
因に、拳銃はモデルガンで、本物ではなかったそうだ。