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3.金銭トラブル

 警視庁捜査一課。

 聡美はお昼のお弁当を食べている。

「今日はお弁当ですか?」と、洋子。

「彼が作ってくれたのよ」

「え、警部って彼氏いたんですか?」

「いるわよ、悪い?」

「別に。……彼氏、か。私も欲しいな」

「貴方には聡がお似合いだと思うわ」

「おじさんはだめですよ」

「冗談よ。きっといい人が見付かるわ」

プルルルルル──電話が鳴る。

 洋子は応答した。

「はい、捜査一課。……はい、分かりました」

 受話器を置く。

「警部、杉並区で殺人事件です」

 聡美は弁当を慌てて平らげ、洋子と共に事件現場へと臨場した。

 現場は杉並区に建つ小中高一貫の私立黒皇こくおう学院。

 遺体の発見場所は宿直室で、被害者はこの学校の高等部の社会科教師、桂木かつらぎ 道幸みちゆきだ。

 凶器は見付かっていない。

 死因は腹部刺傷ししょうによる失血死。苦しそうな表情をしているのが見て分かる。

 所持品は携帯、財布、免許証、タバコ、ライター、腕時計、これらのものが持ち去られていないということから、物取りの線は低いと考えられる。

 死亡推定時刻は深夜一時。第一発見者である同僚の三上みかみ 浩輔こうすけの話では、昨日から今日にかけて被害者は宿直だったそうだ。

「警部、内部の犯行でしょうか?」

「まだ捜査しないと何とも言えないわ」

とりあえず──と、聡美は三上の方を向く。「三上さん、貴方、午前一時ごろは何をなさってましたか?」

「何時だと思ってるんですか? 寝てましたよ」

「そうですか」

 その時、高等部の生徒がやってきた。

「刑事さん、兄が亡くなったって本当ですか?」

「貴方は?」

 彼の名は桂木かつらぎ 菊男きくお。被害者の弟である。

「兄はどうして?」

「何者かに刺し殺されたのよ」

「そ、そんな……!」

「菊男くんって言ったっけ? お兄さんがお亡くなりになったのは、日付が変わったころなんだけど、貴方はどちらに?」

「刑事さんは僕を疑うんですか?」

「いえ、形式的なものなので」

「そうですか。一時ごろは家にいましたけど」

 聡美はその証言を不審に思った。

(この子、どうして時間を?)

「そうですか。お兄さんに最近、何か変わったご様子はなかったかしら?」

「いいえ」

「お兄さんはどんな人物?」

「グータラでお酒好きでエキセントリックなダメ人間です。そんな兄だけど、いざ亡くなってみると……」

 涙をこぼす菊男。

「ごめんね。もういいわ」

 菊男はとぼとぼと去って行った。

(他の人たちにも話を聞いた方がいいわね)

 聡美と洋子は宿直室を出た。

「警部、どうします?」

「警備室に行くわよ」

「警備室?」

「監視カメラの映像の確認をね」

 二人は警備室を訪ねた。

「もしかして刑事さんですか?」

「ええ、そうです。今日の午前一時前後の映像を全て拝見させていただけませんか?」

「準備します」

 警備員が映像をモニタに映した。

 午前一時前後のそれらの映像には異常は見当たらなかった。

「何も映ってませんね」

「そうね」

 警備員は映像を止めた。

「もうよろしいですか?」

「はい」

 聡美と洋子は警備室を出る。

(犯人はどうやって侵入し、脱出したのか……)

「警部、私思ったんですけど、弟くんが犯人なんじゃないでしょうか」

「理由は?」

「警部の日付が変わったころという質問に対して、彼こう答えてましたよね。”一時ごろは家にいましたけど”」

「それがどうしたの?」

「だっておかしくないですか? 警部は一時とは言ってないのに、彼は一時だと発言した。秘密の暴露だと思います」

「その点に関しては同意見だけど、証拠がないわ。凶器でも見付かれば別だけど……」

 その時、ドスンという鈍い音が聞こえてきた。

 駆け付けてみると、高等部の体育教師が校舎の前に血を流して倒れていた。

「荒川さん、救急車お願い」

 聡美は屋上を見上げた。

 人影が見えた気がした。

「荒川さん、ここはお願い!」

 聡美は急いで屋上へ駆け付けたが、そこはもぬけからだった。

 地上では鑑識が遺留品の採取を行っている。

「警部! そこに何かあるんですか!?」

「さっき人影が見えたのよ! たぶん突き落とされたんだわ!」

「それで、その人影には!?」

「来たときには誰もいなかったわ!」

 聡美は屋上を見渡す。

 隅には柵がないため、簡単に人を突き落とすことが出来る。

 聡美は地上へ戻り、被害者に合掌をした。

「荒川さん、ガイシャの身元は?」

かおる 京子きょうこ。高等部の体育教師です」

 そこへ所轄の刑事がやってくる。

「黒沢さん、道幸殺害に使われた凶器を発見しました!」

 刑事が袋に入った血まみれのナイフを見せる。

「これをどこで?」

「薫 京子という体育教師の荷物にありました。発見したのは菊男という生徒会長です」

「そうですか」

 聡美は菊男の下を訪ねた。

「あ、刑事さん……」

「菊男くん、お兄さんを殺害したのは貴方ね?」

「なっ……! 何を言ってるんですか!? 僕が兄を殺すわけないでしょ!?」

「一時ごろ」

「へ?」

「私が、日付が変わったころ、そう訊ねた時、貴方は一時ごろと証言したわ。どうして道幸の殺害時刻が分かったのかしら?」

「そ、それは……!」

「薫 京子さんを屋上から突き落としたのも貴方ね? 動機は口封じ。その後、貴方は薫さんの荷物から道幸殺害に使われたナイフを見付けている。間違ってたら訂正お願い」

「くっ……そうだよ! 僕だよ!」

「道幸さんを殺した動機は?」

「金銭トラブルですよ。兄さん、僕にお金借りて、返しもせずにお酒ばっかり飲んで……。だから殺してやったんだ!」

「夜の学校へはどうやって侵入したの?」

「兄さんを殺そうと思って夜までずっと宿直室にいたんですよ。監視カメラに僕の姿なんて映ってなかったでしょう?」

 菊男は両手を前に出した。

「逮捕、するんですよね?」

 聡美は菊男に手錠をかけて警視庁へ連行した。


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