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2.ストーカー殺人事件

 警視庁捜査一課。

 聡美が机に突っ伏している。

「荒川さん、暇だわ」

「でしたら、お昼行きません?」

「え、もうそんな時間?」

 聡美は時計を確認した。時刻は正午を過ぎている。

プルルルルル──電話が鳴り響く。

 洋子が応答する。

「はい、捜査一課!……はい、分かりました!」

「何の電話?」

「杉並区の路上で遺体が発見されたそうです!」

「行くわよ!」

 聡美と洋子は事件現場へと臨場した。

 鑑識が証拠採取を行っている傍ら、二人は遺体に対して合掌を行う。

「あれ?」

「警部、どうしました?」

「この人……」

「知ってるんですか?」

「間違いないわ。この人、埼玉県警本部捜査第一課警部の稲垣いながき 康夫やすおさんよ。何度か会ったことがあるから分かるわ」

「何で県警本部の刑事デカがこんなところで?」

「知らないわよ。事件の捜査でもしてたんじゃないの?」

 聡美が稲垣の遺体を調べる。

「財布には手つかずだから、物取りの線は無さそうね。だとすると、怨恨?」

「じゃあ、私は聞き込み行ってきます」

 洋子が去っていく。

 聡美は被害者の交友関係を洗い、洋子と警視庁で合流した。

「荒川さん、報告お願い」

「全くだめです。目撃証言等は得られませんでした。それと、鑑識からなんですが、被害者の死亡推定時刻は昨夜の十時頃だそうです」

「そう。時間が時間だし、仕方ないかも知れないわね」

 聡美は車のキーを取り出した。

「どちらへ?」

「埼玉県警よ」

 二人は埼玉県警へと足を運んだ。



 埼玉県警本部捜査第一課。

 聡美は小島警部補に声をかけた。

「稲垣警部の件で少しお話を聞かせて下さい」

「何だ? あんた」

 聡美は警察手帳を見せた。

「本庁の方ですか」

「稲垣警部が亡くなったのはご存知ですね?」

「ええ、さっき本庁から連絡がありました」

「最近、稲垣警部に変わったことってありますか?」

「いや、これと言って特にはなかったですね」

「では稲垣警部の周辺ではどうでしょうか?」

「そう言えば、ストーカーに悩まされてるって聞いた覚えがあります。捜査してもホシは分からなかったそうですが……」

「ストーカー、ですか」

 聡美が洋子の方を向く。

「ストーカーを捜してみましょう」

「ええ」

 二人は県警本部を出た。

 向かったのは、稲垣の自宅だ。

ピンポン──インターホンを鳴らす。

 しかし、誰も出てこない。

「いないんでしょうか?」

 聡美はドアノブに手をかけた。

「警部!?」

 ドアは開いた。

「ごめんくださーい!」

 聡美は中に入る。

「稲垣さん、お留守ですか!?」

 聡美が家の中を調べると、女性の遺体を発見した。

「なっ……!」

 驚きと惑う聡美と洋子。

 遺体はリビングで倒れており、首には何かで絞められたような痕跡がある。

「荒川さん、埼玉県警に通報」

「はい!」

 洋子が携帯を取り出して警察に通報した。



 埼玉県警本部の捜査員たちが現場へと臨場する。

「埼玉県警の杉山です。遺体の第一発見者の方々ですね?」

 刑事が警察手帳を見せた。

 聡美と洋子も手帳を見せる。

「警視庁の方がなぜ?」

「うちの管轄内で起きた事件の捜査で来たところ、この有様で……」

「そうですか」

 杉山刑事が遺体に向かって合掌した。

「杉山さん!」

 別の刑事が叫ぶ。

「どうした?」

「ゴミ箱にこんなものが」

「何だ?」

 杉山がその刑事からくしゃくしゃになった紙を受け取る。そこにはこう書かれていた。──私と一緒にならなければあなたを殺す。

「脅迫状か」

「もしかして、稲垣警部をストーカーしてる女が?」

「鑑識さん、被害者の死亡推定時刻は?」

「死体の硬直具合から見て、二日は経ってるかと」

「二日? それ本当ですか?」

「詳しくは検死してみないと分かりませんが、間違いないかと」

(犯人は男……? 稲垣警部は妻を殺したホシを突き止めたが、口封じに殺された?)

「杉山さん、その脅迫状を鑑定に出して下さい。犯人の指紋がついてるかもしれません」

「今井、これ科捜研に回しとけ」

「分かりました」

 今井と呼ばれる刑事が紙を受け取って現場を出て行った。

「杉山さん、この事件、犯人は男ですよ」

「どうして?」

「殺された順番です」

「殺された順番?」

「害者は稲垣警部より前に殺されています。恐らく、ストーカーというのは稲垣警部の奥様のストーカーで、そのストーカーが奥様を殺害し、それを稲垣警部が突き止めたが、口封じに殺された、そういう筋書きでしょう」

「証拠はあるんですか?」

「私の推測です。気になさらずに」

「まあ、その線も視野に入れて捜査しましょう」

「荒川さん、行くわよ」

 聡美と洋子は稲垣家を出る。

「警部、これからどうするんですか?」

「東京へ戻るわ」

 聡美が車に乗り込む。

「あ!」

 洋子は慌てて運転席に乗り、警視庁へと戻った。



 警視庁捜査一課に連絡が入ったのはその日の夕方だった。

 埼玉県警の捜査で、稲垣の妻に好意を寄せている男性が三人浮上したというのだ。

「そうですか。では、明日、お伺いします」

 そして翌日、聡美と洋子は埼玉県警を訪れた。

「稲垣夫人に好意を寄せていた男性が三人いるとのことですが……」

小島こじま 孝之たかゆき三島みしま 結城ゆうき小暮こぐれ 洋一よういちの三名です。これからその三人に会いに行くところです」

「では同行します」

 聡美と洋子は杉山と共に小島の自宅へ向かった。

ピンポン──インターホンを鳴らすと、男が家から出て来た。

 杉山が警察手帳を見せる。

「埼玉県警の杉山ですが、稲垣 文恵さんをご存知ですか?」

「ええ。彼女、どうかなさいました?」

「三日前に殺害されました。死亡推定時刻はその日の正午です。その時間、あなたはどこに?」

「職場にいましたけど?」

「お仕事は何をされているんですか?」

「同業者です」

「は?」

 小島は三人に警察手帳を提示した。

「その時間、僕は交番勤務でした」

「そうですか。因にどこの交番ですか?」

「越谷の蒲生交番です。文恵は高校時代の恋人でした。今でも好意を寄せています」

 洋子が証言のウラを取るために携帯を取り出して蒲生交番に電話した。

「あ、もしもし、蒲生交番ですか?……小島さんのことでお伺いしたいんですけど、小島さん、三日前のお昼はそちらにいらっしゃいましたでしょうか?……そうですか。分かりました。ありがとうございます。……え? 私ですか? 警視庁の荒川と申します。では」

 電話を切り、懐にしまう洋子。

「警部、ウラが取れました」

「ありがとう」

「では、我々はこれで失礼します」

 三人は会釈をすると、小島家を離れた。

「次は三島さん宅ね」

 車に乗り込み、三人は三島家を訪ねた。

ピンポン──インターホンを鳴らすと、男が家から出て来た。

「どちら様ですか?」

 三人は警察手帳を提示した。

「稲垣 文恵さんをご存知ですね?」

「はい。……彼女、何かしたんですか?」

「三日前の正午にお亡くなりになりました」

「えっ!?」

「それで、その時間、あなたがどちらにいたかお聞きしたいのですが……」

「それを訊くってことは、殺人事件ですか? 僕はやってませんよ」

「どこにいたんですか?」

「自宅で仕事してました。僕、在宅ワーカーなんで」

「そうですか。それを証明してくれる方は?」

「一人暮らしなのでそれは……」

「分かりました。また何かありましたらお伺いします」

 三人は会釈をすると、三島家を離れた。

 次に向かったのは、小暮のアパートだ。

 インターホンを鳴らす。

 部屋から男が出て来る。

 三人は警察手帳を提示した。

「稲垣 文恵さんの件でお話を聞かせてもらえないでしょうか?」

 小暮とおぼしき男は、部屋の中に戻り、窓から飛び出して逃走した。

「待て!」

 三人が追いかける。

「小暮!」

「待ちなさい!」

 三人は小暮に追い付き、その場で取り押さえた。

「どうして逃げた!?」

「すみません! 彼女の家に無断で侵入したのは謝ります! だから見逃して下さい!」

「それ、いつのことですか?」

「三日前の正午です」

「それは確かですか?」

「はい」

「その時、文恵さんは?」

「死んでました。本当です! 僕が発見したときは既に! それで、怖くなって逃げたんです! 本当です! 僕は殺してません!」

「本当だろうな?」

「本当です! 信じて下さい!」

「とりあえず、住居侵入罪で逮捕な」

 杉山が小暮に手錠をはめた。

「じゃあ、自分は小暮を署に連行するんで、事件の捜査はお二方にお任せします」

 杉山は小暮を連れて去っていった。

「警部、どうします?」

「小暮の証言が本当なら、残るは三島なんだけど……」

「指紋でも提出してもらいましょうか」

「真犯人だったら提出してくれないわよ」

「それもそうか」

「取り敢えず、三島さんのところに戻るわよ」

 二人は三島家を再度訪ねた。

ピンポン──インターホンを鳴らすと、三島が出て来た。

「またですか。今度は何です?」

「家の前にこれが落ちてました」

 聡美は千円札を三島に渡した。

「なぜこれが僕のだと?」

「あれ、違いました? 家の前に落ちていたから、てっきり貴方のかと」

「違いますよ」

「ではこれは遺失物ということで手続きをしておきますね」

 聡美は三島から千円札を返却してもらった。

「では、またお会いしましょう」

「もう来ないで下さい」

 二人は三島家を後にした。



 科捜研に足を運んだ聡美と洋子の二人。

 研究員に稲垣宅から見付かった脅迫状についていた指紋と、先ほど入手した三島の指紋を照合してもらっている。

「ぴったり一致しました」

「ありがとうございます」

「出ましたね、証拠」

「ストーカー行為で立件出来るわね」

 二人は三島家を訪問した。

「今度は何です?」

「貴方、稲垣夫人にストーカーしてましたね?」

「え?」

「稲垣家で発見された脅迫状から出た指紋と貴方の指紋が合致しました」

「そんな、指紋なんていつの間に……?」

「お認めになりますか?」

「はい。すみませんでした」

「そうですか。では、貴方をね、埼玉県迷惑行為防止条例違反で逮捕します」

 聡美は三島に手錠をはめ、車の後部座席に座らせた。

 洋子が運転席に乗り込んで車を発進させる。

「因にお聞きしますが、稲垣夫人を殺害したのは貴方ですか?」

「いいえ。僕を犯人にしたいなら、僕が絞殺したという証拠を見せて下さい」

 にやりとほくそ笑む聡美。

「何が可笑しいんですか?」

「秘密の暴露。それは真犯人しか知り得ない情報です」

「はい? どういうことですか?」

「稲垣夫人の死因は公表されていません。彼女が絞殺されたというのは、犯人しか知り得ないんですよ」

「優秀な刑事さんですね。僕が殺しました。後悔はしてませんし、反省もしません。全て彼女が悪いんです」

 車は県警本部に到着した。

 聡美は三島の身柄を埼玉県警に引き渡した。

 その後、三島は殺人および脅迫、並びにストーカー行為で逮捕されたという。また、稲垣 康夫殺害の件も三島は認めた。


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