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やさしいことば

作者: 可宮マサキ

 大丈夫?

「や、あの時はびっくりしたし何か大袈裟に聞こえたかもしれないけど本当はそんなことなくって。薬も貰って来たんだ、ちゃんと手当てすれば平気そうだし、何かあったらまた来なさいって」

 そっか、良かった。お大事にね?


 大丈夫?

「ごめん、心配かけたよね。あのまま診てもらってきたからそんな大事でもなかったんだ。見た目ほど痛む訳でもないし動かせない訳でもないし」

 それなら良かった、気を付けてね。


 大丈夫?

「うん、むしろこっちが驚かせたよね。むしろあの後どうなったのか気になるくらいで。そのまま休んじゃったからさ」

 こっちは何ともなかったよ。一番大変だったのはあなたでしょ、みんなで大丈夫かな大丈夫かなって話してて。

「何日かは様子見だな」


 大丈夫?

「大丈夫、そんなに悪い訳じゃないから」


 大丈夫?

「……うん、へーきだよ」




 大丈夫?

 大丈夫?

 大丈夫?

 大丈夫?


『……何て返事をして欲しいの?』


 本当に大丈夫だと思うの?

 そんなことを返したらいくつかのあの善意はどんな顔をするんだろう。

 そんな嘲笑うような疑問が生まれては浮かぶ前に消えた。嘲笑っていたのはそんな言葉を掛けてきた善意へ対するものなのか、色々なことをわかっていてそんなことを考えてしまう自分自身に対してなのか。


 ちゃんとわかっている。彼らのそれが上辺だけだなんて思っていない。本当に善意と厚意で、労られておきながらこんなことを考えている自分の方が歪んでいる。

 だからまかり間違ってもこんなことを返してはいけない。

 けれど感情は止めようと思って止められるものでもないから、誰にもこんなことをぶつけないでいる限り考えるだけなら私の自由で勝手だ。

 無邪気で純粋な善意は時に重い。

 善意だということがわかっているから、それがどんなに負担だとしても皮肉で返したりしてはいけない。

 心配を向けてくれる相手にこれ以上心配を与えてはいけない。

 大丈夫と訊ねられたら、大丈夫と返す以外には何も言えなくなった。

 そして、大丈夫と返してしまう時は、大抵は誰もが大丈夫ではないことの方が、多いと思う。

 気持ちに余裕があればそんな自分は仕方ないなと苦笑して終わる。

 気持ちに余裕が無い時は、そんな些細な言葉にも苛立って色々考えて、苛立ちを覚えてしまう矮小な自分を嫌悪した。


   * * *


 よお、といつもの調子で声が掛かる。

 ああまたか、と笑顔の下で身構えた。もう一言で済まそうと決めて口上も決めていた。

「具合はどうだ?」

 …………。

「ん?」

「……少し驚いたけど、思ってたほど酷くは、ない。薬もあるから、使ってる」

「そうか」

 ああ、私は大丈夫じゃなくていいのか。

 気遣っていることも気づかせない気遣いに、少しだけ心が安らいだ。

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