第8小節
こうやって思い出していくとね、思い出せないことが多くて、悲しくなるんだ。
あなたと一緒にいられた時間、何一つだって忘れたくない、って思うのに。
‐第8小節‐
周りの女の子たち程には縮まらなかった、ヒロトくんとの距離。
でも、確かにヒロトくんは私の中で近い存在になっていたよ?
初めてメールアドレスを交換したのは、間違っていなければ、ヒロトくんの誕生日の前日。
それは二月の下旬。
ほとんど吹部の放課後の溜り場になっていた、昇降口手前の談話スペース、そこでヒロトくんと何人かで話をしていた。
……話はそれるけど、私の住んでいるところは都会なんかじゃないの。
バスも電車も1時間に1本。
それに料金が高い。
そして、冬場はたくさんの雪が降る。
私達の高校は、山にほど近い所にあるから、街中に比べても雪が多い。
重要な交通手段である自転車が乗れなくなる上に、歩いて駅まで行くのは少し大変だ。
だから冬限定で、バスが朝二本、夕一本、学校から駅まで送り迎えしてくれる。
私はチャリ通で冬場は家族の車で登下校。
ヒロトくんは電車通学で、冬場はバス、または、友達の家の車。
話は戻って……この日も私は自分の家の車、ヒロトくんは友達の家の車を待っていた。
「明日、ウチの誕生日なのー」
ヒロトくんは多少、世に言う、おねえ言葉なのかな?
男らしい言葉遣いじゃ決してない。
「そうなんだぁ。んじゃぁ誕生祝メールしてける♪」
「キタノ、ウチのメアド知ってたっけ?」
ふと、記憶を巡る。
「あ。そう言えば知らないかも」
「んじゃキタノのも教えてー」
ね、そんな感じだったよね?
ヒロトくんは私をいつの間にか"キタノ"と呼ぶようになっていた。
女友達がそう呼ぶように。
ヒロトくんの中では私はもう女友達の中の一人だったのかな?
ヒロトくんは、私の感じていた距離を感じてはいなかったのかな?
メアドを交換したと言っても、頻繁にメールをするようになるわけでもなかった。
私もヒロトくんもそんなにメールをする人じゃなかったから。
でも、そんな私が、ほんの些細な事でメールを送っていた人がいる。
もちろん、私の好きな人。
タクヤくん。
私の大好きな後輩くん。
私はタクヤくんと再会する。
それは三月の下旬。
春休みに、新入生説明会が行われたとき、吹部は歓迎演奏をした。
新入生が入ってくる玄関の前で。
そのとき、私はタクヤくんを見つけた。
そして、心の中で『友達、友達』って一生懸命繰り返していた。
だってね?
タクヤくんには長年の片想いが実を結んだ、可愛い彼女がいるって風の噂で耳にしたし、私は一度フラレていたから。
きっと自分の気持を見ないようにしていたの。
そして私はこの頃から、タクヤくんをなんとか吹部に勧誘しようと躍起になってメールを送り始めた。
そうやっていくうちに、私は自分の中のまだくすぶっている甘い思いに気付き始めたんだ。
どうして、思い出は色褪せていくのかな?
本当は、思い出にだってしたくないのに。
辛いことだけ色褪せて欲しいなんて言わない。
だから、神様、どうか思い出を消さないで。
正直に言うと、私は標準語と方言の区別がつきません(笑)でも会話の中では普段使っている言葉を使いたい……意味の分からない言い回しなどがありましたらご指摘下さいm(__)m修正or補足します!!