第7小節
『私はサヤカちゃんみたいに弱くないよ。』
そうやって強がりすぎちゃったのかな。
私がもっと弱いとこ見せてたら、離れないでいてくれた?
‐第7小節‐
「サヤさぁ、すっごいヤキモチ焼くんだよねぇ」
そんな話を聞いたのは秋頃だったかな。
そりゃそうだ。
だってヒロトくんは男の子といるのより断然、女の子と一緒にいる時間の方が長かった。
「キタノも気にされてるらしいから気を付けた方がいいよ」
「えー。あたしも!?ありえねわぁ」
その時は笑い話。
でも、サヤカちゃんに少し同情した。
私はそんなんじゃないのにな、って思いもした。
私には人の彼氏を奪い取るような趣味はないし、ヒロトくんは恋愛対象じゃないし。
そうは言っても、私が彼女だったら確かに嫌だな、って思ったから、意識してヒロトくんと一緒にいないようにした。
それはヒロトくんとの距離が縮まらなかった、もう一つの理由。
「あんまりそうやって女の子にやんない方がいいんじゃないのぉ?」
ある時ふざけ半分にヒロトくんに言った。
でも、ヒロトくんは、
「このぐらいよくね?ウチなりに結構気ぃ使ってんだけどなぁー」
って、なんか、なんていうか…。
ヒロトくんがそう言った時、私にはとっても辛そうに見えたんだ。
辛い思いしながら付き合うのってなんか違うって思った。
ヒロトくんがサヤカちゃんを好きならそれでいいじゃないか。
サヤカちゃんはヒロトくんの特別なんだから、それで十分じゃないか。
私は付き合っても束縛なんかしたくないって強く思った。
そして、春休み。
定期演奏会に向けての合宿があった。
その合宿中にミーティングが開かれたの。
吹部ってそんなもんだよね?
女ばっかで、しかも音楽って精神的にもぶつけなきゃいけないから、何かと人間関係が難しい。
定期に向けて、自分達はどうしたいのか、そんなことが話し合われた気がする。
ひと事じゃないんだけど。
私は部長だったから真剣に話し合っていたよ?
真剣すぎて、サヤカちゃんの体調の変化になんて気付かなかった。
私が気付いたのは、ヒロトくんが話し合いの輪の反対側から、サヤカちゃんに声をかけに行ったから。
だって、ヒロトくんがみんなの前で、それが当然のようにサヤカちゃんの所に向かうんだもん、目が行かない訳がない。
「サヤ、大丈夫?」
優しく問掛けるヒロトくんの声が聴こえた。
コレが、恋人同士なのかと思ったの。
恋人同士だから、心配でたまらないんだね。
ヤキモチでは決してなくて。
ただ、ただ、憧れた。
夜。
合宿所の食堂はみんなの溜り場だった。
勉強をしたり、部の仕事をしたり、話をしていたり。
そんな中、ヒロトくんとサヤカちゃんは食堂と繋がっている調理場にいたの。部員の何人かが皆のために夜食を作ってくれているところだった。
そこに、二人はいた。
私はただ羨ましかったの。
だから、友達と一緒に二人をからかった。
だってお泊まりだもの。
だって高校生だもの。
テンションは上がるし、そうやってからかうのは結構あることでしょ?
でも度が過ぎたの。
段々サヤカちゃんの口数が減っていった。
マズイ…、友達も思ったんだと思う。
その場からみんなで退散した。
結局、謝りもしなかった気がする。
そのあとサヤカちゃんは廊下の隅で泣いていて、友達に慰められていた。
悪かったなぁ、って思ったけど、同時にヒロトくんは、大変だなって思ったの。
別にサヤカちゃんが嫌いな訳じゃなかったよ?
サヤカちゃんは体も、精神的にも弱くて。
好きな人に支えてもらっている姿はとても羨ましかった。
でも、なにか違うような気がし始めていた。
『私はあなたの負担になりたくない』
その一心だった。
でも、私がもう少し弱かったら……あなたは離れて行かなかったかな?
どうしたら、今も一緒にいられたのかな?
テストがあったので一休みしてました。これからも更新は遅れ気味かと思います。期待しないで待っていていただけたらとても嬉しいです(´∀`*)