第13小節
あなたがそばにいない未来なんて考えたくもなかったよ。
あなたがいなければ、きっと寂しいんだろう、と思っていた。
でも、私バカね。
あなたがいなくてもなんとかやっていける自信もあったの。
‐第13小節‐
「今、セイノとうまく行ってないんだー」
ヒロトくんとそんな話をしたのは夏の厳しい暑さがおさまった頃だったかな。
「え、気付かなかったぁ。なんでゃ?」
その時帰ってきた答え。
本当、くだらない。
覚えていますか?
私はヒロトくんに言われるまで忘れていました。
「県大会ん時?ウチがセイノに指揮台運ぶの手伝ってって言われてシカトしたじゃん?あん時から」
本当、信じられない。
私は二年のクラス替えで、セイノと同じクラスになっていた。
セイノは、なんて言うか、ちゃんと周りの事まで目が届く、頼りがいのある子だと思う。
んでも、性格がキツイっていうか、時折、ビックリするくらい自意識過剰な、行きすぎた考え方をする。
今回もその性格が発揮されたのだろう。
「謝ったらいいんね?」
部内で衝突があるのはやっぱり良くはないと思ったから、そう言った。
仲が良いのに越したことはないし。
「でも、ウチ悪くなくね?」
「なんでー」
ヒロトくんがシカトしたからセイノは怒ってるんでしょ?
そう思ったけど、ヒロトくんの言い分を聞くと、
「あっちが先に酷いこと言ったからシカトしたんだよ?ウチ謝る必要ないじゃん」
と言うことらしい。
なんでもヒロトくんは理由が分からないのに謝るのは嫌なんだそうだ。
まぁ、理解できなくもない。
酷い事の内容は忘れてしまったけれど、確かに誰でも怒ってしまう事だった気がする。
だから、ヒロトくんが謝らないっていうのも分かるけど、セイノからは絶対折れないという確信があった。
セイノはプライドが高い。
執念深いって言ったほうが正確なのかな?
良く言えば意思が強いとも言えるのか、いつの間にか機嫌を直しているなんて、絶対に考えられなかった。
仲直りするにはヒロトくんから謝るしか方法はなかった。
あの話の後気付いたのだけれど、セイノの近くにヒロトくんは絶対に行かなかった。
私はクラスでセイノと行動することが多かったから、必然的にヒロトくんは私の近くにもいないことになる。
折角ヒロトくんとの距離が縮まりかけていたのに、また距離が広がってしまったような気がした。
結局、この時はヒロトくんがセイノに謝った。
ヒロトくんがセイノに謝罪メールを送ると、あっけなくセイノは許してくれたらしい。
今思うと、セイノとヒロトくんの歯車は、この時完全に元通りにはなっていなかったんだ。
ここから数ヵ月、セイノとヒロトくんはまた前のように仲良くやっていく。
セイノは前からよく、サヤカちゃんの事についてヒロトくんに色々指図していた。
セイノは極端なほどサヤカちゃんを心配し、それにサヤカちゃんの相談にも乗っているみたいだった。
そして同時にヒロトくんの悩みを聞いていた。
ヒロトくんとサヤカちゃんがうまく二人でいるにはセイノがいなくてはならないように見えた。
だから、今、セイノとヒロトくんがこうなってしまったのは、きっと当然のことだったんだ。
このころ私はタクヤくんとなんとか話す機会が欲しくて、色々と考えをめぐらせていた。
そして思い付いたのが同窓会。
その時の委員会の人達とは仲がよかったから、同窓会を企画してもまったく不自然じゃない。
すぐにもタクヤくんに会いたくて、中学の時からの友達で、委員会のメンバーでもあったミナに協力を仰ぐと、ミナも乗り気になってくれた。
ミナは中学、高校と一緒に吹部で活動してたからすごく仲が良い。
ミナと手分けして委員会のみんなに連絡をとって、十月の半ばに同窓会を開くことになった。
同窓会のためにミナと服を買いに行ったり、ダイエットをしようかと相談したりした。
久しぶりにタクヤくんと長い時間一緒にいられる。
そう思うとタクヤくんに会える日が待ちきれなかった。
そうやって待っている時間さえ本当にキラキラしていた。
そしていよいよ同窓会の日。
買ったばかりの服に袖を通し、慣れない化粧をした。
少しでも可愛く見えるように。
少しでも私の姿がタクヤくんの中に残るように。
ドキドキしながら同窓会の場所に行く。
私の所では、高校生が大勢で集まるといったら、バイキングかもんじゃ焼きなんだけど、その日はもんじゃ焼きの店で同窓会。
メンバー総勢13人が揃い、中に入って、席につく。
この時ね、隣にタクヤくんが座ってくれた。
嬉しくてたまらなかったなぁ。
だって、隣には好きな人がいて、しかもおんなじ鉄板の上の物を食べるんだよ?
ドキドキして仕方なかった。
でもね、やっぱり私はあんまりタクヤくんと話せなくて。
ミナがタクヤくんや他の人と話しているのにおまけで加わるくらいしかできなかった。
その後二次会でカラオケにも行った。
その時も隣にタクヤくんがいて。
あぁ、もうヤバかったんです。
だってカラオケだから、ラブソングとか歌っちゃう訳ですよ。
タクヤくんが私に向けて歌っていた訳じゃないけど、なんだかいつもより切なく心に響いた。
一緒にいられなかった時間を埋めようと、もう必死でタクヤくんを見つめてた。
これから会えなくても、タクヤくんの顔をすぐに思い出せるように、ずっと見つめてた。
あっという間に幸せな時間は終りを告げる。
結局、私はタクヤくんの隣にいただけだった。
それでもそれはとっても幸せな時間で。
タクヤくんを好きな気持ちがまた大きくなった気がした。
なかなか会えないし、そんなに仲が良いわけでもない。
毎日の中でタクヤくんを意識しないでいることも多くなってきていた。
でもこうやって会って、少し言葉を交すだけで、やっぱり好きなんだ、って実感した。
自信なんてとっくの昔に崩れ去ってしまった。
思ってた以上にあなたがそばにいないのは辛いよ。
あなたがそばにいた温もりを憶えているから、なおさら辛いの。
想像していたよりずっと、私はあなたを必要としていたの。
いつもより長めなのですがどうでしょうか?読むの大変でしょうか?大丈夫なようならこれからはこのくらいの長さでいきたいと思います。今回の会話、ちゃんと理解できますか!?なんとなくいつもより会話多めなんで心配です(;´д`)