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桜の唄〜この丘の上で〜

作者: 藤田文人

なんか“愛という名の奇跡”とかぶってる様ないない様な……ちょっとファンタスティックな物語、楽しんでいただければ幸いです!


……あなたへ伝えたい

この想いよ届けて

安らぎと愛する想い教えてくれた人よ……

 

……声が聞こえる。優しい歌声。

何も無いこの場所には、俺しかいないのに……。

「……ここには、何も無いぞ?誰もいないはず……」

不思議だった。

この場所、誰も来る事もない町外れの小高い丘。

昔からこの街に住んでいる者にしかわからないこの丘は、もはや俺だけの秘密の場所のはず。

間違っても知らない者が来れるはずがないのだが……。

しかし、歌声が聞こえる。

優しく、切ない歌声。

まるで語り掛ける様なその歌声には、今までに聴いたどの歌よりも心に訴える“何か”があった。

 

……届いてこの切なき想い

歌と風に乗せて

あなたの哀しみを

癒してあげたいの……

 

何故か胸に響く。

周りを見る。誰もいない。

(……たしかに、近くから聞こえる……そら耳なんかじゃない……)

俺は丘から街を見下ろす。念のため、下で誰か歌っているか確かめた。

(……いるわけないよな……聞こえるわけがない)

不思議と怖いとは思わなかった。

愛を歌っているからか?

いや、歌声に優しさが込められているからだろう。

……しばらくの間、その歌を聴いていた。

その切なくも優しい歌が、今の俺の心を癒してくれたから……。

 

……俺は最愛の友を亡くした。幼い頃からずっと一緒にいた親友。

高校を卒業し大学へ進んだ俺とは違った道を選んだあいつ。

プロのカメラマンを目指したあいつは、知り合いのプロカメラマンに弟子入りして各地を飛び回った。

もともと才能があったのだろう。コンクールで最優秀賞を受賞して、その世界で一躍注目を浴びる事となった。

その才能に目をつけた出版社の写真集の話を受けたあいつは、単身山へ登って行ったのだ……。

 

訃報は、あいつが山へ登ってから一週間後に知った。

崖からあやまって転落したらしい。

だが転落した後も生きていた様で、カメラには転落先の写真が数枚写されていたという。

……俺は慟哭した。

何故、助けを呼ばなかった!無線で助けを呼べば、まだ助かったかもしれないのに!

だが過ぎた事だ。

いくら叫んでも失ったものは返らないのだ……。

 

……哀しみは時と共に薄れてゆく。

俺は、それが悲しくてたまらなかった。

思い出に変わっていく事が、どうしようもなく悔しかった。

数年も経てば、この哀しみを忘れてしまうのか?

いい奴だった、と笑顔で語るのか?

そうなってしまう自分自身が悲しかった。

それが辛くて、誰も来ないこの丘へやって来た。この場所には何も無いから。

あるのは、遠い昔からここに根を下ろした桜だけ。

悲しい時、自分が弱っている時、俺は自然とこの場所に来ていた。

悠久の時を生きるこの樹に寄りかかり街を眺めていると、不思議と気持ちが安らいだから……。

俺は樹に寄りかかり街を眺める。この哀しみも癒してくれると信じて。

 

『……泣いても、いいですよ?哀しい時は泣いてかまわないのです……』

 

「えっ?」

誰だ?今俺に話しかけたのは?

『……愛しい人よ、その哀しみを癒してあげたい……』

周りを見渡しても誰もいない!

「だ、誰だ!?隠れてないで出て来いよ!」

俺は叫んだ。何がなんだかさっぱりわからない。

俺は不可思議な現象に怖くなった。

『……愛しい人よ、怖がらないで……私は、ここにいます……振り向いて下さい……』

後ろの方から声が聞こえる。俺は振り向いた。

「あ……」

そこには優しく微笑みかける女性の姿があった。

だが、その格好は古めかしいものだった。

着物というか浴衣に近い和服。しかし、何故か神秘的な印象を与えた。

『……愛しい人よ、その哀しみを癒してあげたい……』

女性は少し悲しげに俺を見ていた。

「……あ、あんた、いったい誰だ?」

その美しさのせいか、幾分恐怖は薄れた。でも気配など感じなかった。

あまりにも不思議な出来事に俺は何がなんだかわからなくなった。

『……私は、人々に桜と呼ばれる存在……遙か昔から、この場所で人々の営みを見てきた者です……』

桜と名乗った女性は、静かな口調で答えた。

『……愛しい人よ、あなたの優しさが、私に魂をくれた……魂無き存在の私に、心を与えてくれた……』

桜は俺のすぐ目の前に来ると手を伸ばし俺の頬に触れた。

『……あの人は言っています……俺のために悲しまないでほしい、と……思い出の中で生き続ける、と……』

柔らかな指が暖かかった。俺は桜の言葉にあいつの意志を強く感じた。

『……愛しい人よ、思い出にするのは……忘れる事ではありません……心の一番大切な場所に居てもらうのです……ですから、いつでもそばにいるのですよ……』

桜の言葉が胸に染みる。一番大切な場所にいる?いつでもそばにいる?

俺は、その言葉に打たれた。

「……あいつは、幸せだったのかな?悔いは無かったのかな?」

俺は聞いていた。どうしても知っておきたかった。

人はいずれ死ぬ。

しかし、やり残した事があっては死んでも死に切れないんじゃないのか?

あいつはまだ若い。これから活躍するところだったんだ。

悔いが残ってるんじゃないのか?

桜は、静かに口を開いた。

『……彼は、幸せな人生だと言っています……何故なら、最後に最高の……おそらく、生涯最高の一枚が撮れたと……それに、あなたと出会えた事にも感謝しています……彼は幸せだと言っていますよ……』

桜はそう言って優しく微笑んだ。

『……愛しい人よ、悲しむだけでは前に進めません……それでは、彼も悲しみます……自分のために無駄な時間を使わないでほしい、と言っています……』

俺は座り込んだ。

嘘か真かわからない。でも、桜の言葉には嘘偽りなど微塵にも感じなかった。

彼女は、本当に桜の精なのだろうか?

「……ありがとう……気分が、少し楽になったよ……」

俺は桜に感謝の言葉を言って街を見下ろした。

この景色はいつ見ても変わらない。

人々の暮らしは日々変わっているというのに、上から見るとたいして変わった様に見えない。

(……俺のこの思いも、遠くから見るとちっぽけなものなのかな?)

桜の花びらが舞い散る。まさに桜吹雪といった具合に降り注ぐ。

『……愛しい人よ、悲しい時は泣いてもいいのです……でも、悲しみを引きずってはいけません……今を生きる者は、前に進まなければならない……それが、志半ばで倒れた者への礼儀……彼を想うなら、いつまでも悲しみに暮れてはいけません……』

桜の言葉は優しかったが、悠久の時を経た者にしか放つ事の出来ぬ、そして有無を言わさぬ威厳があった。

桜は俺の前にしゃがみ込むとそっと抱きしめる。

『……愛しい人よ、今は……その哀しみを癒して下さい……この胸で、その心の傷を癒して下さい……』

抱きしめられた俺は、何故か堰を切った様に泣き出していた……。

優しく、包み込む様な温もり。深い安らぎと愛情の中で俺は泣いた。

そして、哀しみとの決別を誓った。

顔を上げた俺を見て微笑む桜。俺の気持ちを知ったのだろう。

桜は頷くと俺の頭を撫でた……。

 

ようやく落ち着きを取り戻した俺は、街を見下ろし変わらぬ景色に思いを寄せた。

桜も俺の隣で街を見ている。

彼女は遙かに遠い昔から、この場所で街を見下ろしていたのだろう。

彼女の目には今の街はどう映っているのだろうか?

『……愛しい人よ、私はあなたを愛しています……私は、あなたを癒す風になりたい……』

桜の告白。その言葉には、先ほどの威厳などなかった。

『……愛する事は素晴らしいですね?……人は、愛によって強く逞しく魂を成長させる……私は、あなたと共に魂を成長させたい……』

桜の言葉は優しかった。求めるよりも与えたい。そんな気持ちで溢れていた。

『……愛しい人よ、私はあなたを求めません……あなたの迷惑にはなりません……ですから、おそばに置いて下さい……』

不思議だ。何故、彼女は俺を愛するのか、よくわからなかった。

しかし、俺は断るつもりなど毛頭なかった。

「……こちらこそ、よろしく頼むよ……」

俺は、桜の手を取るととびっきりの笑顔で答えてみせた……。

 

桜は、散るからこそ美しい……俺にとってはそんな言葉は到底信じられない。

たしかに、桜は散っても美しい。

でも、枯れるわけじゃない。実際、俺には散らぬ桜がそばにいてくれるのだ。

恋愛関係とは決して言えないが、桜がそばにいてくれる事に俺は、何故か愛する事の素晴らしさを実感する事できた……。

いかがでしたか?……よくわからなかった?作者もよくわかりません(ウソです)この話、けっこー好きだったりします。続編、考えてみようかなぁ……???まぁ、感想なんてものをいただけたらうれしいです!あ、よかったら他のものぞいてみて下さい(^0^)/ではでは、サラバじゃ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 桜の存在がちょっと良く分かりませんでしたね。友人の言葉を受け取れたと言う事は、あの世と関係を持つ何かなのですかね? 最後の方、桜の告白までの展開をもう少し長くすると良かった気がします。少し展…
[一言] 面白かったです。個人的には長くても良かったと思います。 話はなんだか在り来たりな感じですが、そんなんでも作者の力でひと味違った感じで凄く良かったです。 これからも頑張って下さい。
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