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魔王の花嫁  作者: 真麻一花
本編
8/65

8 師匠4


 フリーシャを取り巻く魔力は、不思議なほど安定しており、驚くほどきれいに隠れていた。

 アトールのもとで学ぶうちに、この状態がどれだけ希有な物なのかを知った。

 幼い頃に偶然アトールに見つけられた遊びも、万が一城の魔術師に見つかったとしても、フリーシャの力とは気付かれなかったかもしれないほどだ。


 フリーシャを取り巻く、無意識の護りの魔術。それは、どんな高位の法術士や魔術師にすら看破されたことがない。マーシアにかけてあった護りの術も、それを応用した物だ。その感知できない力は異常であった。

 その異常を見抜いたアトールもまた、異常なのだ。魔力の欠片も見えないような少女が、その魔力を使っている主だと、本来ならわかるはずがないのだ。


 アトールは、ちょっと力が強い魔術師だと言い張っているが、無理がありすぎた。学べば気付く程度のことを何を無理に押し通そうとしているのかは、わからないが。

 フリーシャに魔術を教えられる時点で、突出していると言っていいほどだ。

 アトール曰く、フリーシャが魔術を自在に扱えるようになったのは筋が良いことと、魔力が安定しているせいだそうだが、とんでもない。それだけでは無理だ。アトールの指導なくしては、あり得なかっただろう。


 時折暴走しかけたフリーシャの魔力を巧みに安定させてきた彼の技は、そうそう出来る物ではない。

 呪文は魔力を安定させる。故に大抵の魔術師は思い通りに魔力を発動させるために呪文や道具等を使うのだが、フリーシャは呪文すらなしで魔力を術として発動させてしまう。しかも普通では呪文なしでは発動させられないような事象さえも。

 もっとも、同じ事をして見せたのが、アトールなのであるが。


 これだけ強大な魔力を持つと、感情の安定しない子供ならばその力を持て余すのだが、フリーシャにそれがなかった。それは確かにフリーシャの能力であったのかもしれない。だがそれだけの力を持つ幼児に魔術をおしえるのは危険きわまりないはずなのだ。


 当時は当然のように彼の指導を受けていたフリーシャだが、今となってはアトールの厚意という言葉では納めきれないその決断に敬服すらしていた。

 そして、彼の能力もまた、フリーシャと同じように普通ではないことも暗黙の内に理解していった。


 それほどまでに魔術に長けた彼が、魔術を応用すらしない、一介の医者として町中で、素知らぬ顔をして生活している。一体何者なのか、未だに謎のままだ。


 フリーシャはそんな自分の師匠であるアトールの人の良さそうな笑顔を思い浮かべて、とんだ狸だと思う。

 乳母が無知なのを良いことに、しっかりとだまし込んで信用させたのだ。

 考えれば考えるほど怪しいのに、乳母は本気でアトールを信用しているようだった。

 信用という意味では、フリーシャも彼を信用しているのだが、かなりうさんくさい人だと踏んでいる。警戒していた幼いフリーシャを丸め込んで秘密を話させた手口は見事としか言いようがない。後にも先にも、あんなに簡単に人を信用したことはない。人の良さそうな顔をしていても、悪意に満ちた人はいくらでもいる。フリーシャは、幼い頃にはそれを知っていた。なのになぜあの時彼を信用してしまったのか、未だに理解ができない。


 乳母もかなり用心深いというのに、信用している。


 うさんくさいのに、私より信用があるとか、納得いかない。


 もっとも、そのおかげで今回フリーシャは城を抜けることを理解してもらえたのだが。

 何はともあれ、今回に限っては、師匠様々である。



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