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魔王の花嫁  作者: 真麻一花
本編
7/65

7 師匠3

 当時のことを、フリーシャはよく覚えていた。

 特に、「おじさん」がしつこく「おにーさん」と言い張るのを、不思議な人だと思ったことを、とにかく覚えていた。


 その後、こっそりと魔術を教えてもらっている内に乳母に知られる所となり、乳母の助力もあって、もっと時間を取って教えてもらうことが可能になった。

 数年前に、とうとう姉のマーシアにも知られてしまい、ずいぶんそれについては叱られた。そんな大事な事を内緒にされていたのが気に入らなかったらしい。

 何より市井の魔術師を不審に思っていたのだろう。けれど、アトールとも顔を合わせるうちにマーシアも結局はフリーシャに協力をしてくれた。


 乳母もマーシアもフリーシャの気持ちを優先し、アトールのことはもちろん、魔力を持っていることについてもその胸一つに納めてくれた。

 乳母からすると、魔力など持っていると分かれば、優遇される可能性もあるが、どちらかというと更に周りの風当たりが強くなる可能性が高いという判断があったのだろう。フリーシャが知られたくないと思っているのなら、その方がいいと思ったのかもしれない。


 そして、何よりも、乳母がアトールに師事することを許した理由がひとつあった。アトールに出会ってフリーシャの笑顔が増えていたのだ。いつもすみで小さくなっていた少女が笑うようになっていた。

 その笑顔は奪いがたく、乳母には練習を止めることが出来なかった。


 アトールに出会ったおかげで、フリーシャは見聞を広めることも出来た。幻術を覚えてから、こっそりとアトールにくっついて町に出るようになったのだ。

 市井の生活を知る事が出来たのが何よりも、フリーシャにとって良い経験だった。

 城内の大人たちの関係がいかにおかしい物かと気付くことが出来たのだから。


 当たり前だったことが当たり前でなくなり、おかしいものがおかしいと分かるようになった。

 常識が根本的に覆ったのだ。


 そして、フリーシャが王女であったがために、気付くこともあった。

 フリーシャは法術士や魔術師を見かける機会が一般人に比べると格段に多い。そして城に仕える彼らは、その中でも選りすぐりの者たちだ。なのに彼らの魔術や法術レベルは、アトールの魔術のレベルより格段に劣っていた。

 アトールの魔術は、類を見ないほど上位の物だ。アトールの技術、魔力共に、相当に高等な物であろう事を、フリーシャは肌で感じた。

 にも拘わらず、その力は生活する上で、全く使っていない。アトールもまた、隠れた術士だったのだ。

 彼より高位の魔術師を、フリーシャは見たことがない。


 力を使えるようになってから、フリーシャは自らが無意識に使っている魔術がいくらかあることに気付いた。そのうちのひとつが、自分を隠す力だ。アトールが最初に言った魔力を隠す力は、同時に、フリーシャ自身を隠す力でもあった。印象が薄かったり、見ても気付かなかったりする類いの物だ。

 あの日、フリーシャの魔力に気付き、そしてフリーシャを見付けた。それ自体が、アトールの力の大きさを示していた。


 アトールでなければ、フリーシャの力は見抜けなかっただろう。


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