6 師匠2
「まさか本当に姫君とは。しかし王女が魔力を持っているなんて話しは聞いたことがないんだが……」
考え込んだアトールがチラリとフリーシャを見て小声でつぶやく。そして問いかけてきた瞳に、フリーシャは答えた。
「ふりーしゃのちからは、みんなにないしょなのよ。おとうさまにも、ねえさまにもばあやにもいわないの」
フリーシャの言葉に、彼は「へぇ!」と、驚いたように目を丸くした。
「誰も知らないのかい?」
「うん。ふりーしゃだけの、ないしょなの」
初めて同じ力を持つ大人を前にして、フリーシャはうれしくなっていた。
そうして得意げに言ったフリーシャに、アトールがクスクス笑ってくれたため、すっかり気を許してしまったのだ。
「どうして内緒なんだい?」
「……」
たずねられて、フリーシャは困った。特に理由はないのだ。ただ、話したらいけないと思っていた。それを、どう言葉にすれば良いか分からなかったためだ。
「……わかんないの……」
「じゃあ、いつ頃から、こんな遊びが出来るな~ってわかったかな?」
「……ずぅっとまえよ。ねんねしてるときに、のどがかわいたなーっておもったら、かっぷがふりーしゃのとこにきてくれたの。びっくりしたの」
「じゃあ、誰も力の使い方は教えてもらってないんだね?」
「……そうよ?」
アトールの言葉に、フリーシャはよく分からないままうなずいた。アトールはしばらく考え込む様に口をつぐみ、それから、ゆっくりと言葉を探るように話し始めた。
「フリーシャ。よく聞くんだよ。フリーシャの力は、とっても大きい。今は、フリーシャを守るように取り巻いていて、きれいに隠れているけど。俺は、今、力を使っているのを見たから偶然分かったけど、そうじゃなかったら、並の魔術師や法術士では見破れないぐらい、きれいに隠れている。それがどういう意味かは、俺には分からない。でも、使い方を知らなかったら、とっても危ない力になっちゃうんだよ」
アトールの言葉は、フリーシャには難しすぎた。けれど、ただ一つだけ気になったことことがあった。
「あぶないって?」
「近くにいる人が怪我をしたりするんだよ」
フリーシャは思いがけない言葉に驚いた。そんな事は考えたこともなかった。いつも、こっそり遊ぶだけのものだったから。なぜそんなことを言われるのかわからず、でも、真剣なアトールの様子は嘘には思えず、もしと思うと恐ろしくなった。
泣きそうになったフリーシャに、アトールが慌てたように言葉をつなげた。
「大丈夫。使い方を覚えたら、フリーシャを守ってくれる力になるからね」
「おじさんがおしえてくれるの……?」
「ああ、おにーさんが、教えてあげるから、安心して良いよ」
その後、長らく「おじさん」か「おにーさん」かの攻防が水面下でさりげなく続いていたが、最終的に「先生」という呼び方に誘導される形で落ち着いた。