表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の花嫁  作者: 真麻一花
本編
48/65

48 出会い4


 そうして、人の身であったフリーシャの体に尋常ではない魔力を宿すことになった。


 フリーシャは運命さだめられた花嫁。

 ただの人間であったのなら、わずかな魔力を得て身も心も魔物に堕ちる。

 しかし、フリーシャは人の身でありながら、体も心もそのままに魔王の半分の魔力を得る。それは、人の身ではあらざる魔力だ。

 人間の社会で生きて行くには不要であり、危険な力でもあった。


 魔王は、不意打ちに起こった予想外の出来事に半ばあきれつつ、己のうかつさにため息を漏らした。

 何が最もうかつだったかというと、契りの口付けが成立したという事である。


 契りの口付けを成立させるには、いくら相手が望もうと、魔王自身が相手を花嫁と認めていなければ成立しない。

 にも拘わらず、成立してしまった。魔王は、この幼い子供を、花嫁として認めてしまっていたということだ。

 今契るのと、十年後に契るのとでは、花嫁の生態的に問題がある。魔王にとってはたかが十年の差、ほんのわずかな時間差ではあるが、それでも幼体と契るのはいささか不本意であった。


 とはいうものの、不本意ではあっても、不快ではない。これは、自分の物だという満足感は少なからずある。

 まあ、よかろう。

 諦めがちに、魔王は思う。出会い頭から、この少女には振りまわされっぱなしなのだ、それが一つ増えただけのこと。


 嘆息しつつも、腕の中で無邪気に笑う少女の存在はやはり小気味よい。

 魔王は、無意識に魔力が発動することのないよう、幼い花嫁に力の制約を施し、少女が魔物に襲われることがないよう、魔物用の目印を兼ねた護りをつけ、人間にはこの魔力の存在を見抜かれることのないよう、巧妙に隠した。

 魔王は腕の中できょとんとしている少女を見つめる。何が起こっているのか全く分かっていない。


「そなたには、大きな魔力が宿った。しかし、人として生きるにその力は不要。誰にも知られないように気をつけろ」


 意味の分かっていないような顔で、フリーシャは素直にうなずく。


「はい、きしさま」


 にっこり笑った顔に魔王は軽く不安を覚えた。なにしろ相手は幼児である。


「……否、迎えに来るその時まで忘れていた方が良かろう」


 ため息混じりのその言葉に、フリーシャは盛大に暴れて抵抗した。


「いや! わすれるのはいやなの! くろいきしさまのことをおぼえておくの!」


 魔王は、フリーシャが抗うのもかまわず、暴れるその小さな体を押さえつけ、魔王に関する記憶を全て記憶の底に沈めた。時が来れば思い出せるようにして。


 しかし、フリーシャの必死の抵抗は、小さなほころびを残していた。魔王の半分の力を得たフリーシャが真剣に抗ったのだ、魔王の封印も完全な物になり得なかった。しかし魔王がそれに気付くことはなかった。

 フリーシャは庭の隅で、眠るように小さく横たわり、魔王は去った。


 そして、フリーシャにおぼろげな記憶だけが残った。迎えに来ると約束した、その面影だけを鮮明にして。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ