46 出会い2
「あなたは、だあれ?」
にこにこと笑いながら恐れもせずに問いかけてくる少女に、魔王が笑った。
恐れを抱くどころか、腕の中で落ち着いてしまった小さな生き物の存在が妙に小気味よく、心地よかったのだ。
これが私の運命られた花嫁か。
面白い、と魔王は思った。
興味など引かれるはずもないような、ひ弱で小さな生き物。
だが、これは確かに己の花嫁となり得る人間なのだと感じていた。
少女は魔王を見つめていた。何者かという問いかけに、魔王は答える。
「私は、そなたを迎えに来る者だ。そなた、名は何という」
「ふりーしゃよ。あなたは?」
少女の問に、魔王は答えなかった。
「フリーシャ。大人になれば、私と共に来るがいい」
その言葉に、フリーシャは首をかしげた。
「くろいきしさまは、ふりーしゃをおしろからつれていってくれるの?」
黒い騎士さまという言葉に、魔王は笑う。
「来るか?」
フリーシャの顔が輝いた。
「いまがいいわ、いま! くろいきしさまといっしょにいくの! みんないじわるだから、ここはきらいなの」
たった今も、そうした嫌がらせから逃げてきていたのだった。
期待に瞳を輝かせつつ、縋るように魔王の服を握りしめる少女に、魔王はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「今は耐えよ。そなたは人の身だ。そなたが人としての生を受け入れるため、幼きそなたを連れて行くことは叶わぬ」
とたんに少女の顔が曇った。
魔王は知っていた。人の身と魔物とでは寿命が違いすぎる。人の身でありながら、幼い頃より魔物として生きるのは、たとえ魔王の花嫁とはいえ、その命を歪めやすい。どんなに望まれようとも、少女の願いを叶えるわけにはいかなかった。
なのに、この少女が望むのなら、叶えてやりたいなどと思ってしまう。
運命の花嫁とは、おもしろい物だ。このひ弱な生き物はその表情一つで、どうしようもなく魔王の興味を引き立てる。腕の中で悲しげに顔をゆがめた少女を見れば不快に感じ、連れて行けないと言ったその言葉すら撤回したくなるのだから。
魔王は己の中の不可解な心の動きがこの小さな少女に左右されていることがずいぶんと滑稽に思えた。
「……いまが、いいの」
そう言うと、少女は自分を抱き上げているその人にしがみつき、顔を埋めて泣いた。
これが運命の花嫁か。少女を見ながら魔王は不可解な感情にとらわれる。こうして泣かれるのは不快なのに、この少女の存在は心地よい。一人の少女に一度に感じる快と不快。
魔王は己の中の不可解な感情に戸惑っていた。