45 出会い
運命の花嫁が生まれた。
それは、人間であるにもかかわらず、魔王と契りを交わしても変わらぬ存在の事をいう。
魔王は生まれたその瞬間だけ、その存在を感じ取ることが出来る。
だが、魔王は動かなかった。
運命の花嫁とは、得れば力になるとも伝えられていたが、同時に魔王を縛ると言われている。
運命の花嫁が生まれたことを、魔王は煩わしいとしか思わなかった。故に、動かなかった。いっそひと思いに殺してしまおうかとも考えたが、赤子一人ひねるのに動くというのも面倒で、そのまま捨て置いた。
それっきり、忘れられていた存在だった。
興味を覚えたのは数年後。
興味がわいたと言っても、足を運んだのは、ほんの気まぐれに過ぎない。花嫁になりうる子供はどのような物かという、退屈しのぎに近いもので、気に入らなければ、後々のために殺しておこうと考えていた。
魔王は花嫁が生まれた場所へ向かった。そこは、城からほど近い小国の城内だった。
決して弱くはないが、魔王の進入は阻めない程度の結界を抜け、子供の住まうであろうグライデルの王宮へと忍び込んだ。
今も花嫁がそこに暮らしているとは限らない。けれど、魔王はすぐにその存在を見つけた。
運命の花嫁が「そう」と分かるのは、生まれ出でたその瞬間のみ。故に、見つけたといっても、何らかの確証があったわけではない。けれど、魔王は確信した。その少女が運命の花嫁であると。
魔王の探し出した少女は、裏庭で小さくうずくまっていた。
小さな、ひ弱な生き物だと魔王は思った。こんな「物」が花嫁になりうる存在へと育つものかと思うと不思議にすら感じた。
小さなその生き物は、隠れるようにして小さくすすり泣いている。
「何を泣いている」
魔王はその小さな生き物を抱き上げた。
驚いたのはフリーシャだ。
突然浮き上がった自分の体と、どこからともなくやってきて自分を抱き上げた、大きな男の人に目を丸くしていた。驚いて涙も止まっていた。
全身が黒衣に包まれた見知らぬ大人が、無表情にフリーシャを見ているのだ。
フリーシャは幼いながらもこれが、異常であることが分かった。この人が「あやしい」人だという事も。
だが、フリーシャは笑った。とてもとても綺麗な男の人が自分を興味深そうに見ている。己が今まで泣いていたことも忘れていた。
抱き上げられたそこでの世界は、いつもより高く、違って見えた。なにより自分を抱き上げたその人の腕の中は、居心地がよかった。
少女は己を抱き上げる黒衣の男に信頼を寄せるかのように、小さな手を精一杯広げて抱きつき、その腕の中に自分の居場所を作り上げた。