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魔王の花嫁  作者: 真麻一花
本編
44/65

44 姉の憂鬱


 人の気などお構いなしにいちゃいちゃし始めたフリーシャと魔王を見ながら、マーシアは呆然と立ちすくんでいた。


「……どういう、事?」


 尋ねるとはなしに、マーシアはつぶやく。側に控えるように彼女を支えている白竜が静かに答えた。


『フリーシャの黒騎士は、魔王だったのだ。……黒騎士を、あなたは知っているだろう?』

「魔王が、フリーシャの黒騎士……?」


 白竜の言葉を呆然と繰り返す。まさかという思いがまずわき上がった。そんな事があっていいはずがない。あの恐ろしい魔王がフリーシャの待ち続けていた黒騎士だなんて事があっていいはずがない。

 魔王だなんて。

 残虐非道で、人を虫けらのように扱うのが魔物だ。その魔物の王だなんて。そんな「モノ」が、フリーシャの黒騎士?


 こみ上げるのは不快感と、恐れだった。魔物は、人間とは違う感覚で生きている。言葉が通じるのに、通じない。魔物は、心を見ない。人の想いを解さない。

 マーシアはそれをこのたったの二日で痛感した。

 特に、あの魔王は、ダメだ。人間に到底理解できるような生き物ではない。感情という感情が一切感じられない。闇の深淵を映し出す、人と似た形をした、人にあらざる「モノ」だ。

 あんなモノがフリーシャを幸せに出来るはずがない。

 あれはまるで闇を纏った人形、気味が悪い「モノ」。まるで禍々しく美しい人形が動いているような気味の悪さ。そこに感情は皆無としか思えなかった。魔王に対峙した時マーシアが感じたのは、悪意すらなく、あるのは個人の興味と、それを満足させるために備わった残虐さ。そうと思わせる空気を纏わせた圧迫感と恐怖。

 あれはダメ……!!

 マーシアの理性も感情も、魔王がフリーシャの黒騎士であることを全力で否定する。


 なのに、視線の先ではフリーシャと魔王が並んでそこにいて、フリーシャがこの上なく愛おしそうに魔王を見ているのだ。

 ……フリーシャ。

 二人を見ているマーシアの胸の内に複雑な思いがこみ上げてくる。フリーシャは望む者を得た。得たのだ。そして視線の先に、マーシアが恐ろしくてたまらないと感じていた魔王の姿は、今はない。

 そこにいるのは、フリーシャを得て、穏やかに微笑む黒衣の騎士だった。


 気に入らない、と、マーシアは思った。

 大切なフリーシャを、魔王の花嫁にするなどと許し難いことだった。

 しかし、魔王はフリーシャの言うとおり迎えに来たのだ。そのお迎えでとんでもない間違いをしてくれたとはいえ。

 この憎き魔王は、フリーシャにとっては、間違いなく黒騎士なのだ。


 そして、魔王のあの冷酷な視線を真っ向から受け止めたマーシアだからこそ分かることもあった。

 魔王にとっても、フリーシャは特別な存在なのだと。


 この、恐ろしいほど魔物の気配に満ちあふれた場所で、恐ろしいほど似つかわしくない空気を醸し出しながら、はばかることなくいちゃついている二人を見て、マーシアはため息をつく。


 まるで一対で作られたかのような二人。

 そう、一対なのだ、と、マーシアは思った。悔しいけれど、魔王はフリーシャの半身なのだ。

 フリーシャは、一度たりとも、黒騎士が迎えに来るのを疑うことはなかった。幼い頃から、迎えに来ると言って信じていた。


 それが魔王だなんて、許せない。

 許せないけれど、受け入れるしかないのだろう。

 納得がいかずに険のある表情で二人を見つめるマーシアに白竜が語りかける。


『幼い頃に、フリーシャは既に魔王と契っていたと聞いた』


 その言葉にマーシアが露骨に侮蔑を込めて眉をひそめた。


「……幼女趣味?」


 魔王に対する悪意と怒りがこれ以上ないほどこもっていた。

 あながち間違いとはいいがたいきつい一言に苦笑いをしながら、白竜は来る途中で聞いた話を語りはじめた。フリーシャが幼い頃交わした約束を。



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