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魔王の花嫁  作者: 真麻一花
本編
38/65

38 対峙2


 ひどく青ざめた顔をしていたが、そこにいるのは、紛れもなくフリーシャが愛するマーシアだった。

 間に合ったのだ。

 フリーシャは泣きそうなほどの歓喜を胸にゆっくりと息を吐く。

 マーシアがフリーシャに向かってかけてきた。

 ふわりと懐かしいマーシアの香りに包まれ、気がつけば、フリーシャは彼女の腕の中にいた。


「姉様」


 マーシアがフリーシャを抱きしめている。


「なぜ、こんな危ないことを!!」


 フリーシャを抱きしめるその腕が震えていた。強く抱きしめられながら、フリーシャはそっとマーシアの震える背に両手を添えた。

 胸が詰まる。

 気丈なマーシアがこんなに震えるほど恐ろしい思いをしていたのだと。なのに、心配するのはフリーシャのことなのだ。

 ごめんなさい。

 うれしくて、申し訳なくて、マーシアのことがひたすらに恋しくて胸が苦しかった。

 フリーシャを強く抱きしめながら、がちがちと震えてマーシアが言う。


「私のことは良いから、早く逃げて」

「……姉様。ご無事でよかった……」


 フリーシャは、大丈夫と伝えるように、マーシアを抱きしめる手に力を入れた。

 なんと言えばいいだろう。なんと謝れば。

 こんなに私を思ってくれている姉様を巻き込んでしまった私は、どうすれば許されるだろう。


「ごめんなさい、姉様。こんな目に遭わせて……」


 フリーシャは、少しだけマーシアから体を離す。震えるマーシアが、問いかけるようにフリーシャを見ていた。

 苦しかった。いっそ、このまま全てを隠して黙っていたい。けれど、言わなければいけない事だった。

 自分の罪を背負う覚悟を決めて。そしてそれは出来るだけマーシアに心配をかけさせないように伝えなければならないのだ。

 フリーシャはマーシアをまっすぐに見つめた。


「姉様。私は大丈夫です。姉様がこんな目にあったのは、私のせいだったの。怖い思いをさせてごめんなさい」


 そこまで言うと、たまらず、フリーシャは苦しさに唇を噛んだ。どう言えばいいのか、何から伝えればいいのか。

 しかしどれをとっても、マーシアにひどい巻き添えを食らわせたという事でしかなく、いたたまれない思いにさいなまれる。


「何を言っているの?」


 マーシアの戸惑う瞳を見つめながら、フリーシャは躊躇う。伝えるというだけの事が、こんなに苦しいとは思わなかった。


「魔王は、姉様と私を間違えたんです。姉様をこんな目に遭わせてしまったのは、全部私のせいだったの。魔王が姉様を花嫁と間違えたのも、私のせい。私が、姉様に魔王の印をつけてしまっていたからなの。ごめんなさい」


 フリーシャはどんな苦境にあっても自分を思い続けてくれたマーシアを前に、どう謝って良いかも分からなかった。申し訳なさで胸がつまる。涙がこぼれた。


「間違い……。魔王の印……? フリーシャが、魔王の花嫁……?」

「……魔物が、私を攻撃してこないのが、その証拠です」


 把握しきれずにつぶやくマーシアに、フリーシャは覚悟を決めてうなずく。

 マーシアの顔が、いっそうひどく強ばった。


「なんてことを……!! なぜここに来たの! フリーシャ、逃げて! 早く逃げて!」


 叫びながら必死の形相でフリーシャに詰め寄るマーシアにフリーシャはこみ上げてくる涙を抑えられなかった。


「姉様……!」


 危険を背負わせたのはフリーシャと知って尚、そして、この場にあっても尚、マーシアが心配するのはフリーシャのことだった。

 フリーシャの中にせめぎ合ううれしさと、感謝と、そして、罪悪感。

 万感の思いを込めて、フリーシャはマーシアを抱きしめた。




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