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魔王の花嫁  作者: 真麻一花
本編
34/65

34 不安


 魔物が先頭を切り、その後にフリーシャを乗せた白竜が続く。


『フリーシャ』


 飛びながら白竜が問いかける。


『相手は魔物だ。信用するつもりなのか?』

「信用しても、しなくても、道案内がいた方が早く着くと思うわ。もし騙している素振りがあるのなら、そのとき手を打てばいい。真実なら、これでいい。この方が手っ取り早く姉様のもとに行けるから」


 フリーシャの覚悟は決まっていた。

 しかし白竜はそれをとどめようとする。


『ならば、仮に真実だとして、間に合えば、今度はそなたが魔王の花嫁だ。どうする気だ』


 フリーシャの心臓が、どくりと音を立てた。

 魔王の花嫁となってしまえば、自分はどうなるのか。

 心臓が、どくり、どくりと追い詰めるようにフリーシャを揺さぶる。

 脳裏にまず浮かんだのが、黒騎士のこと。

 彼を、諦めると言うことになるのか。

 思った瞬間、心臓が悲鳴を上げた。

 イヤだ、と、切実に思った。彼のことを諦めることなど出来ない。

 けれど。

 フリーシャは唾液を飲み込む。

 動揺している自分を感じていた。フリーシャは、ためらっていた。


「フリーシャ」


 ためらうフリーシャに追い打ちをかけるように、白竜がひどく低い声で答えを促した。

 息を深く吸う。

 答えは、変えられない。

 だから。全ては後だ。そう心を決める。

 私の感情にとらわれてはいけない。ホントか嘘かはもう考えない。話に乗った以上、後は見極めるだけだ。最優先は、姉様だ。

 フリーシャは、自らの黒騎士を想う心を遮断する。

 そして無理矢理に口端を上げると、フリーシャはあえてなんでもないように、軽く言ってのけた。


「どうにかするわ。それに、今、一番に考えなければいけない事は、姉様の安全だもの。私は、あの魔物が言った事は本当だと思っているの。姉様と私を間違えたのは、あれは騙すための手口には見えなかったもの。ならば、姉様が私の身代わりになってしまったのだから尚更、姉様の事を先に考えないと。私が間に合えば、本来の状態に戻るだけだもの」

『そなた、何を言っているのかわかっているのか?』


 明るく振る舞うフリーシャに反応して、白竜の声に怒りが混じる。

 私のために、怒ってくれている。

 それがうれしくて、けれど今は辛くて、苦く笑って気持ちを静める。そしてことさら明るく笑顔を作る。声が、少しでも明るくなるように。


「だって、姉様は普通の女の子だもの。私には力がある。それがたとえ魔王から与えられたものだとしても。それに契っておきながら、今まで放って置かれたぐらいなのよ。きっと何とかなるわ。……それよりも」


 フリーシャは言葉を切ると、進行方向に目を向けている白竜をじっと見つめる。時折目が、心配そうにフリーシャをとらえている。フリーシャは切実なほどの思いを込めていった。


「白竜の王子、姉様の事をお願い。私の事なんていいから、姉様の事を守ってね。もしもの時は、私の事はいいから、姉様を連れて逃げてね」


 しかし白竜が声を荒らげた。


『私は、そなたを見捨てるつもりはない。そんなつもりなら、そもそもこんな事に付き合ったりはしない』


 怒れる白竜に、フリーシャが嬉しそうに笑った。


「やっぱり、あなたは私の幸運だわ。安心して姉様を預けられるもの。あなたに会えてよかったわ」

『フリーシャ! あきらめるのか?! そなたが言ったのだぞ、あきらめるなと!』


 フリーシャは微笑んだ。


「私はあきらめているわけではないわ。ただ、最善の道を考えているだけ。最善の道を考えた時、必要ならば、望んだ道も捨てるわ。けれど、残った道の中での最善を探すわ」


 半ば自分に言い聞かせるような言葉だった。


『そなたの言う最善とは、そなたが花嫁になる事ではあるまいな?』


 低く唸るように言った白竜に、フリーシャは一瞬言葉を詰まらせた。




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