表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の花嫁  作者: 真麻一花
本編
28/65

28 目指すは…3


 フリーシャの記憶の中には黒騎士の記憶がない。

 けれど「知っている」。

 それゆえ、妄想ではないといいきれない部分があった。

 けれど記憶の片隅でよみがえった黒騎士の声が、妄想ではなかったのだと感じられた。確かに彼の記憶が奥底にあるのだと思えて、フリーシャはうれしくなる。


 ええ、私の黒騎士。ええ。私は諦めない。今、この苦しみも耐えてみせる、乗り越えてみせる。だから、待っていて。私を守って。姉様を助ける力をちょうだい。

 あなたを思うことが私の力になる。


 フリーシャは彼に祈る。

 その存在はフリーシャにとって、御守りのような物だった。彼を信じることが力になっていた。支えだった。

 嫌な事があれば「いつか彼と共に……」と思うだけで耐えられた。辛い時は彼を想う。それはもう、癖のような物かもしれなかった。




『フリーシャ、一つ聞きたいのだが……』


 竜の声で我に返る。


『黒騎士とは、何者だ?』


 問われて、一瞬ひるむ。


「……私を迎えに来てくれる人よ」


 そういえばさんざん、彼の前では他人の気軽さで「黒騎士」「黒騎士」と気にすることなく叫んでいたが、黒騎士が何者かには、全く触れていない。フリーシャは、自分の事を話すのは少し苦手だった。

 何となく、白竜の王子とは意気投合した気分になっていたが、よく考えなくても出会ってから半日もたっていないのだ。


 なんと説明しようか。

 こう改めて聞かれると困る物で、なんと言えばいいのかとフリーシャは迷う。マーシアと二人だけの秘密の人を、初めて話すのだ。


『……恋人か?』


 黙り込んだフリーシャに、白竜が尋ねる。

 フリーシャは首をかしげた。


「さぁ……分からないの。彼が何者なのか、どこにいるのか。それすらも」


 でも、ずっと恋している。幼い頃から、彼が私の支え。思うだけで胸が温かくなるほどに。


『ならば、なぜ、そなたを迎えに来ると思うのだ?』

「……きっと、約束をしたのだと思うの。物心ついた時から、そう思っていたから。今でもそれを信じてる」

『……夢、か?』

「……夢……」


 フリーシャはかみしめるようにつぶやいた。そう、もしかしたら夢のような物かも知れないと、そう思えた。そして他人からしたら夢のような話でしかないのだろうとも。


「私の思い描く夢、私が見た夢……もしくは現実?」


 つぶやいてみるが、こうして言葉にすると、フリーシャ自身、この感情をどう表現すればいいのか分からなくなった。


「時々、私も考えるけれど、答えは出たことがないわ。でも、それが夢でも、現実でも、私にとってはそれが真実だから、信じているの」

『……そうか、つまらないことを聞いた。早く迎えに来るよう、私も祈ろう』

「ありがとう」


 フリーシャは白竜の優しさに、こっそりと微笑んだ。

 おそらくフリーシャの説明では、彼にはよく分からなかっただろう。本人でさえ、どう表現すればいいのか分からないような感情だ。フリーシャの確信は、他人が聞けば、ただの思い込みの激しい妄想だろう。

 そうとわかっていて、伝えられる言葉はどうしても少なく、うまく説明ができたとは思えない。

 けれど、白竜はフリーシャの言葉をそのまま受け入れてくれた。そしてそれ以上追求しなかったのは、彼の優しさに思えた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ