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魔王の花嫁  作者: 真麻一花
本編
27/65

27 目指すは…2


 だから、納得がいかないのだ。そんな矮小な存在に、魔王が側に置くほど興味を持つ物か、と。


 魔王に対しての認識を、そもそも間違っているのかもしれない。美しいマーシアを愛玩するつもりだとしてもおかしくはない。

 ただ、フリーシャはあり得ないように思えた。魔王とは、そんな風に人間に心を許すような存在なのか。


 そこまで考えて、フリーシャはため息をつく。

 ひどく皮肉なことに思えたのだ。


 フリーシャは、己を城から連れ出してくれる人を待っていた。

 対してマーシアは、城の中で生き、国の望むままに身を任すことを受け入れていた。


 なのに、連れ出されたのはマーシアだった。誰も待っていないマーシアを魔王は連れ去った。

 望む者ではなく、望まぬ者を。


「私なら、よかったのにね」


 フリーシャは小さくつぶやく。

 それならば、私はそれを受け入れたかもしれないのに、と。

 ずっと城での束縛から逃れたいと思っていた。


 私なら、魔王と共に……。


 そこまで考えて、フリーシャは頭を振った。その考えを振り払うように。


 私は、ただ城を出たいわけではない。共にいるのは黒騎士でなければ意味がない。

 こんな事を考えるのはやめよう。


 フリーシャは目を閉じる。

 まぶたを閉じればくっきりとその姿が浮かぶ。


 私の黒騎士。


 存在しているのか、していないのか。それさえ分からないその人。なのに、確信を持って彼は自分を迎えに来るのだと信じられた。そして、その思いはフリーシャの中で日増しに強くなる。

 思い浮かべる面影は、最近鮮明さを増してきた。おぼろげな面影でしかなかった黒騎士が、今は目を閉じると鮮やかなほどにその姿をまぶたの裏に描くのだ。

 鮮明なその姿は、恐ろしいほどに美しい青年だ。思い描くだけで、圧倒的な存在感でもってフリーシャをこの上ない安心感で包み込む。

 信じられぬほどに整った面立ち、闇色の瞳は吸い込まれそうなほど美しく、フリーシャの心をとらえる。思い描くだけでとらわれるのなら、本当に出会えたとき、その瞳を見つめたらどうなるのだろうと思う。


『今は耐えよ』


 声が聞こえた気がした。いつか、どこかで聞いたことのある声。

 誰かが、私にそう言った。

 フリーシャがもう一度その声を思い返すと、まぶたの裏に描くその人の姿と重なった。

 ああ、これは、彼の声。


「……黒騎士」


 フリーシャは、よみがえるその声を大切に抱くように心の中で繰り返す。


『今は耐えよ』


 いつか彼は私にそう言った。

 苦しいほどに切なくて、そしてとても幸せな記憶に思えた。

 黒騎士の声まで思い出せたのはこれが初めてだった。

 彼はいる。

 その確証を得たように思え、思い出したその声に、そしてその言葉に幸せを感じた。




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