表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の花嫁  作者: 真麻一花
本編
26/65

26 目指すは…


「姉様!!」


 フリーシャは自分の叫び声で目を覚ました。


『どうした』


 白龍の声で我に返る。

 そろそろ夜が明ける。竜の背でついうとうとしていたらしい。

 とても寝心地が良いとは言えない場所だというのに、うたた寝してしまうとは、それほど疲れていたのだろうか。

 緊張の糸が張り詰めていて、フリーシャ自身はそれほど疲れている自覚はなかったのだが。


「ごめんなさい、ちょっと眠ってしまっていたみたい」

『大丈夫だ。眠れるのならもう少し寝ておいた方がいいかもしれない。寝不足では魔王のもとにつく前に倒れるかもしれない』

「ありがとう。もう大丈夫。だいぶすっきりしたみたい」


 フリーシャは気を引き締めた。

 確かに、休める時に休んでおいた方がいいだろう。けれど、一度目が覚めてしまうと、どうしてもそんな気分にはなれなかった。

 夢見が悪かった。未だ心臓がドクドクと早鐘を打つ。マーシアのことが気になって、無理に眠ろうとしても今度は眠れそうにない。

 それに、思った以上に体は疲れているようだが、協力して飛び続けてくれている白龍のことを考えれば、十分なほどだった。


 夢を見た。

 一人で震えているマーシアの夢だった。彼女は震えながらフリーシャを呼んでいた。


 姉様。必ず助けるから。


 フリーシャは改めて心に誓う。

 きっと間に合うから、そしたら、なんとしてでも助けてみせるから。


 フリーシャは遠くにかすむ山の頂を見据え、まだ見ぬ憎き魔王と、震えるマーシアを思う。

 しかし、魔王はなぜマーシアを花嫁にしようなどと考えたのか。

 腑に落ちなかった。マーシアを心配するにつけ、その疑問はつきまとっていた事だった。


 確かに、マーシアは美しい。人間の造作とは、ここまで美しくなるのだと驚くほどに。毎日見ていても、あらが見つからないほどに美しい。

 それでも、フリーシャは納得がいかなかった。

 フリーシャの知る魔王像と、どうしても結びつかないのだ。


 フリーシャは、自分の力が人間離れしていることを自覚している。もしや自分は魔物に近いのではないかと、魔術や魔物に関することにも興味を持って調べていた。氷の花嫁について知ったのも、その時だ。

 噂を聞いたり記述を見る限り、魔王は人間に対して興味がないのではないかと想像していた。

 興味がないと言うより、むしろ煩わしいと思っているのでは、というのがフリーシャの考えだ。

 魔王が人との関わりを持とうとせず、更に人との争いを避けるのは煩わしいだけではないかと。


 アトールが言っていた「話が分からない存在でもない」という言葉も、関わらずに済ませる手段ではないだろうか。

 確かに、魔王は人間と対話することで争いを避ける節が、ちらほらと文献にも見受けられた。

 それを「魔王は人間が恐ろしいのだ」と言ったり「人間を好きなのではないか」と言ったりする者もいるようだが、フリーシャはそうは思わなかった。

 そんな感情的な理由であるはずがないと、直感的に思っていた。


 魔王が人間を避けるのは、人間が虫を厭うような感覚に近いのではないかと思うのだ。

 魔王にとって人間とは、たかってくる蠅や蟻のような存在ではないかと。

 ちっぽけで、矮小な存在。追い払うことさえ厭わしい。しかし、自ら人間むしが寄ってくるような行動も取らない。そのために人間の言葉にも耳を傾けるだけの余地を残している、ただそれだけ。

 フリーシャの思う魔王像とは、そういう存在だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ