22 白竜7
うきうきと語るフリーシャに、白竜ががっくりと肩を落とす。
『……爬虫類と一緒にしてくれるな』
「確かに、お兄様になる人が爬虫類はいやだわ」
はたと気付いたフリーシャに、白竜が遠い目をしてつぶやく。
『爬虫類が好きな絶世の美女か。だんだん想像しがたい方向に行っているな……』
なにやら良からぬ想像をされている気がして、フリーシャは憤然として抗議する。
「爬虫類が好きでも、姉様は、どんなお姫様でも敵わないぐらいすてきな方よ。それより、白竜の王子。一つ重要なことを聞き忘れていたわ」
浮かれた声を出していたフリーシャが、突然真剣な顔になり、白竜も少し身を正す。
『なんだ』
「あなた、年はいくつなの?」
またもや思いがけない肩すかしにがっくりきて、竜は面倒くさそうに応えた。
『二十七、八ぐらいだと思う。それがなんだ?』
「それなら大丈夫ね! 五十過ぎたおじさん王子だったらどうしようかと思っていたの! あ、五十過ぎていても、優しくて美形でダンディーなおじさまだったら良いんだけど。でも、若くても容姿に自信のない方は絶対にお姉様の隣に並んで欲しくないわね。お姉様の隣に並ぶと卑屈になっちゃう。白龍の王子、ここも重要ポイントよ。あなた、そんな竜の姿してるから、佇まいからしてかっこいいのよね。だから、あなた自身もかっこいいと決めつけていたけど。容姿に自信は?」
白龍は、完全にあきれた様子で、答えるのもいやそうに、けれどフリーシャの押しに負けて渋々返事をする。
「顔で女性に嫌われたことはないな。ただし、子供の頃の話しだ。今はどんな風貌になるのかは想像もつかない」
「ならいいわ! 人となりも顔に出てくるから。人並みの顔立ちをしていたら、あなたなら、きっと十分にかっこいいわ」
フリーシャは、満足そうににっこりと笑った。
「じゃあ、白龍の王子、二人で姉様を助けて、あなたは姉様の心をつかむのよ?! 私も手伝うから、あなたは呪いを解くためにがんばってもらって、姉様は、マージナルに嫁ぐのよ。あなたがマージナルの王子でよかったわ。マージナルなら、お父様も文句言わないはずだもの。そしたら私も安心して黒騎士を探しに城を出られるから」
次々と垂れ流されるフリーシャの勝手な将来設計を聞きながら、竜が苦笑いする。
『大切な姉様の人生を、そう勝手に決めて良いのか?』
「決めてなんかないわ。希望を持っているだけ。だって私は竜の王子のこと気に入ったんですもの。あなたのような人がお兄様になれば嬉しいもの。姉様があなたを気に入るかどうかなんて、知らないわ。そこは、あなたのがんばり次第、相性次第だわ。でも、なんとなく姉様はあなたのことを気に入りそうな気がするの」
『よくわからないが、そんなものか?』
「私と姉様の好みは近いのよ。姉様が幸せになれそうもないと思ったら、こんな希望は持たないわ。いくら私に都合がよくても。私は、姉様に幸せになって欲しいだけ。誰でもいいなんて思って欲しくない。私は、姉様に見合う格好いい、姉様を守るだけの力を持っていて、姉様を大切にしてくれる人なら誰でも良いんだもの。その中で、竜の王子なら、私はいいかなって思っただけなの」
『……ずいぶんと基準が高いような気がするが……』
一般的に、そういうのは「誰でもいい」とは言わないと、少々世間知らずな白竜にもさすがに分かったのだが、フリーシャは力を入れて断言する。
「いいえ。最低限よ。これでもかなり条件を譲歩しているわ。これ以下は、絶対に許さないわ」
『……とりあえず、その条件をクリアしていると思ってもらえたことを光栄に思う事にしようか……』
ため息混じりに白龍がつぶやいた。
「そうね」
フリーシャが笑うと、白龍も笑った。