21 白竜6
フリーシャは、少し考えて、言葉を選びながら思った事を口にする。
「……だったら、きっと、もうすぐ呪いは解けるんだわ。あなたの言葉は温かいから。私は、あなたは優しいと思うもの」
『まさか』
白竜の王子が笑う。
「本当よ。あなたの言葉は、姉様のようにあたたかいわ」
白竜が目を伏せた。
『……悪いが、そのくらいにしてくれ。今更呪いが解けると期待するのは辛い。期待し続けて早十余年だ。あきらめていた方が気が楽なのだ。時折顔を見せるアトールに嫌みでも言いながら』
フリーシャは彼の言葉にどうしようもない不安を覚えた。白竜が諦めているのが分かる。そして逃げようとしているようにも見えた。それではダメだと思った。
期待は絶望の影を濃くさせる。期待をすればするほど、それが叶えられなかったときの苦しみは耐えられないほどになる。
フリーシャにはその心が分かる。だから、期待を持てというのは、フリーシャの身勝手なのかも知れない。
けれど、嫌だったのだ。身勝手なようで意外に優しいこの竜が、全てを諦めて人としての心をなくし、魔物に落ちるのは見たくなかった。
フリーシャは白竜に詰め寄る。
「あきらめたら、その先はなくなってしまうの。道を繋げたければ、諦めないで。苦しいけど、叶わなかったときつらいけど、でも、私はあきらめない。姉様を魔王から取り戻すし、あなたの呪いを解く手助けだって力一杯する。そして、私は黒騎士を迎えにいくんだから。私は、全部あきらめない。無理に思えても、あがけば別の道が見えるかもしれないから」
『ないかもしれない』
ぽつりと返された白竜の言葉は、ひどく重かった。
想いを込めた言葉は届かない。けれどフリーシャは力を込めて言葉を続けた。
「確かにないかもしれない。でも、その道を進む意義を見つけられるかもしれないじゃない。たとえ道が開かなくても、あがくことは無駄じゃない。私はそう思うわ」
『……竜になった意義か』
白竜が、苦く笑った。
フリーシャは、何か良いことはないかと考える。
私が諦めずにいられるのは……そう、恋だ。私には黒騎士がいる。黒騎士がいるからがんばれる。恋は、人の原動力だ。
フリーシャは、にんまりと笑った。
良いことを思いついた。
「……姉様、美人よ? その上、優しくて頭も良いし。そんなお姫様を助けに行くなんて、物語みたいで、かっこよくない?」
『……とらわれた姫を助けに行くために竜になったと?』
あきれたような白竜の返事に、我が意を得たりと、フリーシャは力を込めてうなずく。
「そう! そういうの、かっこよくない? それに、私にとって、あなたが竜になってここにいたことは幸運だわ。私が助けてもらえるのもあなたが竜になったおかげだわ。私は、あなたが竜でよかったもの。あなたにとって不運でも、私にとっては竜のあなたに出会えたことが幸運なんだもの。人間のあなただったのならダメだから。ねえ、それって、すごくない?」
白竜がぽかんとしてフリーシャを見つめている。コイツ、本気か、とばかりに。
「その上わがまま王子が十年経って、人間がまるくなって、優しくなったとかいいじゃない? それに竜が助けに来たら、絶対にかっこいいって思うわ。助けにきた竜と美姫が結ばれるなんて、本当に物語みたいじゃない? 姉様は蛇とかトカゲとか好きだし!」