14 出発2
湖に着く頃には、日が暮れかけていた。
馬を下りるとフリーシャは体を伸ばした。
ほんの少しの休憩の他は、ずっと馬上で過ごしたのだ。とは言っても、座っている場を安定させたり、日常の手抜き的な魔力の使い方は得意だ。そう考えると、本来うけるほどのダメージはなかっただろうが。ただ、それでも同じ体勢はきつい。
けれど、こういう魔力の使い方が得意なだけ良かったと思うことにする。普通ならば、むしろそんな事に魔術を使用することの方が面倒な物らしい。
イメージして、力を形にすればいいのに、とフリーシャは簡単に思うのだが、どうやらそういう物ではないらしい。
フリーシャが苦手なのは、むしろ一般的に簡単と言われる、呪文を唱えて、一定の当てはまる形の魔術を行使する方だった。
にしても、どうせなら空を飛べたり移動できたりすればいいのに、と思う。
けれど、移動は空間の扉を開かなければならないらしい。目的地に扉がなければならないとも言っていた。
自然の理を無視した物は、魔力よりも体への負担が大きすぎるからとアトールは教えてくれなかった。
空を飛ぶのは割と簡単にできたりするのだけれども、早く飛ぶとか、思い通りに飛ぶとか、それを維持とか、どれも出来ず、残念ながら根本的に使える代物ではない。
せっかく魔力だけはいっぱいあるのに。使えない。
とはいえ、出来ないことをうらやんでも仕方がない。
フリーシャは城で培った得意技を駆使する。諦めることと気持ちの切り替えは得意とするところだった。
後ろ盾のない妾腹の姫など、とてもではないがまともな扱いは望めないのだ。耐えること、諦めることが必然的に強いられた。
諦めるというと、語弊があるかもしれない。心から望むことに希望があるのなら、フリーシャは決して諦める気はないのだから。
欲しいものは望んで良いと、アトールから学んだ。
力がないのならないなりに使える手段はある物だ。だから人の目を欺こうが、だまそうが、どんな手を使ってでも手に入れようとするだろう。
ただ、優先順位と、必要なことと不必要な望みとを、分けて考えるのが得意なのだ。
「よく頑張ったね」
フリーシャは馬の体を拭きながらねぎらう。けれどねぎらいながら、ねぎらうフリーシャ本人が倒れそうだった。
思った以上に疲れていたらしい。
休んでいる暇はないが、アトールが休めと言った場所でもあったし、何より、後丸一日馬で走らなければいけないと思うと、少しは休まなければ体が持ちそうもなかった。
焦りはある。常につきまとっている不安も。
ここにまで来た以上、もういくら考えても、自力では間に合わないのだ。なんとかなると言ったアトールの言葉に縋るしかないのだ。
そう自分に言い聞かせる。
フリーシャは、込み上げる不安を見ないようにした。焦れば選択を誤る。感情にとらわれれば見える物も見えなくなる。
目的のための最善は見誤ってはならないのだ。