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永久の契約  作者: 由乃
9/15

9_居場所(1)

暖かい温もりに包まれて目が覚めた。


このところ目覚めが頗る良い。


こっちの世界に来たばかりの時は身体が怠かったけど、それが良くなってからは逆に全身が軽くなったようにさえ感じる。


車もないし、電車もないし、空気が綺麗だからかな?


うっすらと開いた目に、カーテンに仕切られて光の入らない薄暗い部屋の天井が映った。


寝返りをうって横を向くと、枕に頬杖を突いてこっちを見るルールシエルと目が合った。


いつベッドに入ってきたんだろ‥?


わたしが寝たときにはまだ隣の部屋にいたはずだけど。


シパシパする目をゴシゴシ擦っているとやんわりと手を止められた。


「瞳が傷ついちゃうよ」


「んー」


ルールシエルは掴んだわたしの手を、そのまま自分の口元に運んでちゅっと口付けた。


「うぎゃっ」


慣れない恥ずかしい行為に奇声を発するわたしに、ルールシエルはくすっと笑ってチョコレートより甘い視線を送ってくる。


「おはよう、神無」


指を絡めて優しく握られ、ルールシエルのスベスベの頬に宛てがわれた。


「お、はよ‥。起きてたの?」


「1時間前くらいにね」


「起こしてくれればよかったのに‥」


「可愛い顔して眠ってる神無を見ていたかったんだ。それにまだ朝早いし」


「えー‥‥見られてるの恥ずかしいよ?」


むくりと起き上がるわたしに合わせて身体を起こしたルールシエルは、空いてる方の手で顔にかかる髪を掻き上げた。


どうにも色っぽい仕草だ。


「ルルって13歳なんだよね?」


「‥‥うん。どうして?」


「‥なんでもない」


13歳の男の子はこんなに色っぽい仕草をするものなのだろうか?


ぼやけた頭でそんなことを考えてると、わたしの手を離したルールシエルの手がこっちに伸びてきた。


「ー?」


「はだけてるよ」


ルールシエルの視線を辿って自分の格好を見る。


「うお‥」


今まで着ていたパジャマは長ズボンタイプだったから、ネグリジェなんて着慣れない。


1番上に付いてるリボンは解けてるし、小さな可愛らしいボタンは見事に全部外れてる。


膝下まであった裾も捲れ上がってかろうじて臀部を隠してる程度。


非常に見苦しい。


前が開いてたとしてもわたしのささやかな胸では谷間なんてできないし、隠すほどでもないかと思ったけど、目の前にいるのは一応男の子だから慌ててボタンを留めた。


器用にもルールシエルはリボンを直してくれている。


「ご、ごめん」


「いいよ。でも神無は無防備過ぎていけないね‥ほら」


「わっ!?」


わたしはぐいっと肩を押されてベッドに倒れ込んだ。


質の良いスプリングはわたしの体重を受け止めても軋まない。


「ルル‥?」


わたしの顔の横に手を置いて上から見下ろすルールシエルは苦笑いを浮かべた。


「隙だらけで心配だよ。僕のこと信頼してくれてるのかもしれないけど‥ね」


ルールシエルしか視界に入らない状況にドキドキするものの、この距離に多少慣れてきたものだ。


「心配って‥なにに?」


わたしは彼が何に対して心配しているのか純粋にわからない。


めくれた裾を片手で直しながら問うと、ルールシエルは呆れたようなため息をつく。


「神無。もしここにいるのが僕じゃなくて他の男だったら‥襲われてるかもしれないんだよ?」


「へ?襲われる??っぷ、あはははっ」


何を心配してるのかと思えば、わたしには無縁な話だった。


思わず笑ってしまったわたしをじっと見るルールシエルは眉を寄せている。


「ないない!だってこんな色気の‘い’の字もないわたしを襲う人なんていないでしょっ?」


ね?と同意を求めるように首を傾げて見せるとルールシエルは紫色の瞳を細めてわたしを見据え、胸の上にそっと手を置いた。


「ぅえっ?!」


服の上からやわやわと撫でられヒクッと身体が震えた。


も、もしかしてあまりにも小さすぎて‥そこに胸があるって気づかれてない?!


だとしたら悲しすぎる‥‥


「あ、あの‥ルル?」


「なに?」


「えっと‥そこは‥」


「そこって?」


ルールシエルはしゃべりながらゆっくりと手を動かしている。


手の平を使って円を描くように撫でられて、わたしはだんだんと変な気分になってきた。


身体の芯がぽうっと熱くなるような、不思議な感覚。


「ルルっそこ、一応わたしの‥っあ?!」


服越しに胸の先を刺激されてビクンと身体が揺れた。


自分でも反応しちゃう意味がわからなくて焦る。


「ルル!そこ小さいけど一応胸なんだよ‥!?」


「知ってるよ?柔らかいよね」


「はあ?!」


清々しく言い返してくるルールシエルに対して、カーッと顔に血液が集まった。


ちょっ、知っててやってるの?!


「やめてよ、セクハラー!!ルルのへーんーたーいーー!」


足をバタバタさせて暴れるわたしを笑うルールシエルの笑い声はクスクスと実に楽しそう。


熟れたリンゴの様に真っ赤になってるだろうわたしとは対称に、ルールシエルは至って冷静だ。


‥なんかすごく悔しい‥!


「ほら、僕にだって簡単に襲われてる。もっと本気で抵抗しないと逃れられないよ?」


「や、本気でって‥、そんなことしたらルルが怪我、するかもしれないしっ」


「こんなときに僕の心配?‥余裕だね」


ルールシエルは口角を少しだけ引き上げるような不適な笑みを浮かべた。


やばい、やばいっ!


この表情をしたルールシエルは危険だ、と数日間で学んだんだ!


「だ、だってさ、わたし童顔だし幼児体型だし?全っっ然色っぽくないからっ!き、キス、以上にはなにもされないだろうなって‥」


ルールシエルは、わたわたと慌てるわたしを見下ろして満面の笑みを浮かべた。


「そうでもないよ?無垢な神無は心も身体もすごく魅力的だから。‥余計、自分勝手に汚したくなる」


「よ、汚‥?、あ!ちょっと!」


ルールシエルは、シュル‥と自ら結わいたリボンを解いた。


首元に顔を埋めたルールシエルは、わたしが制止する前にちゅくっと音を立てて吸い付く。


「いたっ‥!」


「‥悪い虫避けくらいにはなるかな?」


「むむむ虫よけ??」


ルールシエルは顔を上げて、ペロッとピンク色の舌で自身の唇を舐めた。


「わ、ひ、卑猥っ」


思わず正直な感想を述べると、ルールシエルはクスリと笑った。


「色々と教えてあげたいけど、もう‘来た’みたいだしまた今度にするよ」


「??」


コンコンコン!と鋭いノックがされたかと思うと、ルールシエルが返事をする前によく通る声が室内に響いた。


「失礼いたしますわ!朝ですのよっ起きてくださいまし!」


「?」


首だけ捻ってそっちを向いたわたしは、口をあんぐり開けて魅入ってしまった。


声の主は入口近くで仁王立ちしてこっちを見ている。


ズンズンズンとベッドまで近づいてきた、ルールシエルと瓜二つの容姿をもつ美女は。


きゅっと括れた腰に手を当ててこっちを睨んでる。


「じょ‥女王‥女王様‥?」


自分の状況をすっかり忘れるほど、彼女の存在は強い。


ボソッと呟くと、華美やかなオーラを放つ美女はきょとんと大きな瞳を丸くした。


カールした睫毛を瞬かせてわたしを見つめる。


これでもかと巻かれた金髪は、ルールシエルのと同じく柔らかそうで、ふっくらした唇はグロスがのってぷるぷるしている。


ミルクの様に白い肌は頬だけ桃色に色づいていて、曇りのない空色の瞳はガラスでできてるみたい。


シックな服装なのにオーラがすごい。


「ふっ。‥あられもない格好で何を言うかと思えば」


上から目線な言い方だけど、わたしを見下ろすその目に負の感情は感じられなかった。


「ちょっと?いつまで幼気な少女を押さえ付けてるつもりでして?!貴方が少女趣味でも一向に構いませんが、男女の営みは日が沈んでからにしてくださる?」


美女の尖った視線は、今までわたしをいじめていたルールシエルに移り、辛辣な言葉を投げた。


いや、営みとか、そんなんじゃないんだけど‥!


「昼夜問わず発情してるのは4つ足で歩く動物と同じですわよ?あぁ、発情周期があるだけ動物の方がましかしらね」


すごい美人だけどきっついなーと人事の様に聞いていたわたしは、無意識に服を直しながら2人を観察してみた。


こんなにそっくりってことは‥姉弟?


姉弟揃ってこれほど美形ってことは、両親もきっとそういうことだよね。


顔が良くてスタイルも良いなんて‥不公平すぎる。


「‥言葉に気をつけたほうが良い。自分の立場を理解してるならね」


事も無げな態度をとるルールシエルに対して、こめかみをヒクつかせた女王様は、ツンと顎を上げさっさとベッドを整え始めた。


わたしはどうしたら良いんだろ‥


戸惑うわたしを差し置いて、ルールシエルは乱れたバスローブをさっと整えベッドを降りた。


ルールシエルは起き上がってどうしようかと考えあぐねてるわたしの頭をひと撫でして言った。


「神無、そこに居るのが昨日話した侍女だよ。僕の身内だから、遠慮無く好きに使うと良い」


「え?あ、はい‥?やっぱり身内なんだ。すごく美人さんだもんね」


「‥うん。‥じゃあ神無をよろしく。今日は戻らないから」


言いながら、バスルームへと消えるルールシエルの後ろ姿を睨んでいた美女は、はあーっと大きく息を吐いてベッドの角に腰掛けた。


美女の揺れる髪から香る、甘い香にスンスンと鼻をならすと、ぷっと笑われてしまった。


目元が和らぐとさっきまでのトゲトゲしさが嘘みたいだ。


ベッドの上で両足を投げ出して座るわたしとは違って、スカートから伸びる脚を揃えて浅く腰掛ける様子は、育ちの良さを表してるようだった。


「‥ごめんなさいね、第一印象最悪でしたわよね?あたくし、兄様の前だとどうしても‥。言い訳みたいですけど、見苦しいところをお見せしたこと、申し訳ないと思ってますのよ?」


ただの女王様キャラかと思ったら‥ツンデレ美女だった!!


唇を尖らせて上目使いで見てくる美女に、キュンと心を奪われた瞬間。


こんなギャップに男は落ちるんだろうな‥


1人納得していると、ふと会話を思い返して違和感を覚えた。


‥ん?


さっき、‘兄様’って聞こえた‥?


‥まさかね。

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