4_夢と現実の間
『カンナ、カンナ。ごめん‥もう時間がないんだ‥ごめんね』
夢うつつに聞こえてきたこの声はルールシエルの‥?
あったかい布団とルールシエルの柔らかい毛並みの誘惑に抵抗して目を開けようと思うけど、なかなか難しい。
無理、起きれない‥。
身体がひどく重い気がする。
そもそも今が現実なのか夢の世界なのか、判断できない。
『カンナ、ごめんね‥』
眠ってるわたしに何度も謝るルールシエル。
どうしたの?
そんなふうに謝られたら不安になるよ?
わたしは心配になって起きようと瞼に力を入れた。
‥‥が、うまく力が入らない。
え‥?
起き上がろうと腹筋に力を入れたけどそれもできない。
いつも何気なくやってる開眼という作業ができないとなるとわたしもだんだん焦りが生じてきた。
まるで金縛りにあったかのようにわたしの全身は硬直してる。
恐怖という感情が湧かないのは、わたしの頬に擦り寄るルールシエルの存在があるからだろうか。
状況は良くわからないけどとりあえずルールシエルが傍にいるなら安心、と力を抜いたわたしの唇にチクリと痛みが走った。
「‥‥!」
ルールシエルの鋭い歯がわたしの唇を傷つけたみたい。
噛み付かれたことがないから驚いたけど、それ以上にびっくりしたのはルールシエルの舌。
ルールシエルの舌がわたしの血をペロペロと舐め、そのまま唇を割って口内に入り込んできた。
力の入らないわたしは、ルールシエルのされるがままになっている。
おい、ルルの変態っ
口に舌入れるのはさすがにやめてっ
わたしは心の中で精一杯ツッコミを入れるけど全く意味がない。
少しして好きなようにさせてたルールシエルの舌に違和感を覚えた。
さっきまで小さいザラザラした舌がわたしの舌にチョンチョンと当たってただけなのに。
いつの間にかわたしの舌に擦り付けるように動いてるそれは明らかに人間のものになっていた。
ちょっと待って‥!!
これは絶対おかしいよね?
まだまともにキスすらしたことないのに、とか他人の舌の違和感とかを感じてるうちに、ひしひしと危険感が募ってきたわたしは内心願った。
やめてっ早く、早くどっか行ってよ変態っ‥!
なんでこんなことされてるのわたし!
夢?!夢なら早く覚めて‥!
ルルはどこ行った?!
鼻先に当たる自分以外の人の息遣いに恐怖を感じはじめたわたしの気持ちが通じたのか、密着してた唇が軽く音を立てて離れていった。
そっと息を吐く変態じみた人間らしきその人の唇が、柔らかくてちょっと気持ち良かったとか思ってしまったわたしは末期かもしれない。
「神無‥。君はこれで僕のものだ‥」
‥‥誰?
澄んだソプラノボイスがわたしの耳元で吐息まじりに囁く。
少女か少年か、まだ区別がつかないその声は妙に艶っぽくて鳥肌が立った。
身体が鉛のように重たいのは心なしかさっきよりひどくなってて。
動かしたくてもピクリとも動かせないのは変わらない。
その人はわたしのぐったりとした身体を起こしてその胸に抱いた。
キスの次はハグか‥
ギュッとわたしの身体を抱きしめる腕は、見えないけどなんとなく華奢なイメージがわく。
その人の胸にわたしの耳がピッタリと触れてて、規則正しい鼓動がリズムを刻んで聞こえてきた。
人の温もりはきっと警戒心を和らげる作用があるんだと思う。
さっきまで感じてた不安とか恐怖心とかがすっきり消え去ってしまった。
眠りにつく前のまどろみにいるかのような感覚がわたしを包む。
夢であってほしいけど‥
これが夢ならわたしは欲求不満な変態かも‥‥
はっきりしてた意識まで危うくなってきたわたしが最後に聞いたのは。
「契約成立、だね」
満足げに呟いた美声だった。
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