13_新たな一面(1)
「ほう、おぬしが主の‥。ずいぶんと‥可愛らしいのぅ。主は女の趣味が変わったようだな。どれ、こっちを向いてみよ」
「は、はぁ‥」
わたしの顎をがっちりと掴み、右に左に向きを変えてじぃっと見つめてくる、やけに古めかしい言葉を使う少年。
彼もルールシエルの部下らしい。
ルールシエルが直接指示をする部下は3人いて、1人は変人で変態のダネルさん。
あとの2人が、今わたしを品定めするようにジロジロ見ているシャスさんと、感情の篭ってないビー玉のような瞳でこちらを観察しているシャンさんらしい。
2人はそっくりで案の定双子だと言う。
背丈も容姿もそっくり。
中性的な顔立ちをしているせいで、性別すら区別がつかない。
シャスさんは男でシャンさんは女だそうだけど。
なぜこの2人と一緒に居るかと言うと‥わたしが仕事をしたいと言い出したからだ。
1人で仕事をするにはまだ難しそうだから、2人のどちらかと一緒にやらせてもらうことになったのだ。
にしても‥厄介な呪いを受けてるルールシエルを団長に、その部下達も一癖も二癖もありそうだ。
「ちょっ‥あの、近いんですけど」
わたしよりちょっと高い位置から見下ろすシャスさんの顔が、異様に近いのは気のせいではないはず。
背を反らして距離を取ろうと試みたわたしに、シャスさんは大袈裟に反応した。
「おぉ、すまん。いや旨そうな匂いがするもんだからな、ついつい」
己の唇をペロリと真っ赤な舌で舐めるシャスさんに、ゾッと鳥羽がたつ。
薄く開いた唇の隙間から覗く鋭い犬歯は、人のものではないようにも見えた。
言い表せない恐怖のような感覚がわたしを襲った。
「、旨そうって‥わたし食べ物じゃないです」
「良い香りがするんじゃ。汚れのない純潔の香り。おぬし生娘じゃろ」
「匂いでわかるんですか?!」
セクハラもいいところだ!
羞恥で熱くなった頬をそのままに、非難するような口調で言うと、シャスさんは口角を吊り上げてくくっと笑った。
‥本当の意味で食われそう。
危ない光を瞳に宿したシャスさんが、わたしの顎を掴んでた手を下方に滑らせ頸動脈に指先を当ててくる。
身の危険をひしひしと感じる。
カチンコチンに固まったわたしを見下ろす双眼は、嬉々として輝いて見えた。
多分気のせいじゃない。
‥え、このままだとわたし色々とまずい気がする。
「ちょちょ、ちょっと待ってください‥っ」
「‥シャス、それくらいにしておけ。手は出すなと言われたのを忘れたか?」
さっきからだんまりだったシャンさんの一声で、シャスさんは心底残念そうにわたしから手を離した。
ホッと緊張が解けジリジリと後ずさるわたしを尻目に、シャスさんは大きなため息を吐く。
「シャン、お前は相変わらずお堅すぎじゃ。ただの戯れではないか。ちょっとした触れ合いだろう?新しく仕事を共にする仲間の顔をじっくり見ていただけじゃ」
な?と同意を求められても頷けるはずがない。
十分に距離を取ろうと思って窓際までささっと移動した。
わたしを見ていたシャンさんは、ほらみろとばかりの顔をシャスさんに向ける。
「完全に警戒されてるぞ」
「ふはははっ!生娘の反応は初々しくて可愛らしいからたまらんな!」
さっきから生娘生娘連呼して、セクハラもいいところだ!
「あの!き、生娘とか言わないでください、セクハラですよ!!」
「「せくはら?」」
見事なハモりを披露されて少し引く。
「セクハラって言うのは、職場とかで男性から女性に対して行われる性的、差別的な言動のことです!反対の場合もあるけど!」
「ほう、なるほどな」
わたしの説明に納得したように頷く2人を視界にいれたままため息が出た。
強気で言い返したけど気分はだだ下がり。
‥この2人とうまくやってけるのかな‥?
シャンさんはともかく、シャスさんは本気で危険な気がしてならない。
「まあまあ、そう固くならんで。ワシらは主の信用を得て今ここにおる。安心するが良いぞ」
胸を張って言い切るシャスさんは、さっき散々ルールシエルにわたしに手を出すなよと念を押されていたような‥
大丈夫かなあ‥
「さて、そろそろ仕事に取り掛かろう。今日はワシと共に行動してもらうぞ」
わたしの不安を意に介する様子もなく、ズンズンと近づいてきたシャスさんに手首を掴まれた。
あげそうになった悲鳴を飲み込み、自由な方の手を咄嗟に伸ばしてシャンさんの手を掴む。
「お?何をしておる」
「い、いや‥」
「‥‥‥」
「おい、何故シャンを掴む。離さぬか」
「あの、ですね‥」
「‥‥‥」
「おい、」
「えっとー‥」
「‥‥‥‥」
3人横一列に並んだ状態でわたし達はフリーズする。
沈黙の空気が流れて、シャスさんは眉をひそめてわたしを見る。
シャンさんはあからさまに迷惑そうな視線を投げてきた。
わたしがシャンさんの手を離せば良い話なんだけど‥
この手を離して1日シャスさんと一緒にいるのは、正直怖くて無理だ。
外見が問題なのではなく。
むしろぱっちりした瞳は可愛らしいし。
膝上までの短めのローブを羽織ってる身体は、見た目からして華奢だし、とても乱暴するようには見えないけど‥
なんと言うか、シャスさんは雰囲気からして野生味があって‥安心感に欠けてるんだ。
「えっと‥今日はシャンさんの仕事を‥一緒にさせてもらいたいなって、思ってて‥」
「シャンと?‥何故じゃ」
シャスさんは器用に片方の眉だけを上げてわたしを見た。
まったく、ルールシエルはなんで居てほしいときにいないんだ!
それらしい理由を探して視線を泳がすわたしに、シャンさんは短いため息をついた。
「‥良いだろう。シャス、今日は私が共に行動する」
相当困った顔をしていたのか、わたしの顔をチラリと見たシャンさんは、仕方なくといった風に了解してくれた。
パッとわたしの手首を離したシャスさんは肩をすくめてみせる。
「残念、ワシは怖がられてしまったようだのう。‥仕方がない、本日はシャンと共に行け?」
「あ、ありがとうございますっっ」
光を宿してないシャンさんの瞳は作り物のようで、何を考えてるのか解らないから気後れするけど‥同性だからか怖くない‥気がする。
「シャンさん、よろしくお願いします」
シャンさんは、手を離してペこりとお辞儀したわたしに無言で頷いた。
安心からか、自然と顔の筋肉が緩む。
ほっと胸を撫で下ろすわたしの、頭の先から爪先まで視線を這わせたシャスさんは閉じていた口を開いた。
「‥それにしても。間近で観ると一層幼いな‥‥着痩せするのか?」
「‥‥はい?」
シャンさんが言わんとしてることが解らず間抜けな返事をしてしまった。
「そんな幼児体型でどうやって主を落とした、と聞きたい」
「お、落とした‥?」
「胸も尻も気の毒な程に無いように見えるが?」
はあっ!?
気の毒って‥!?
ピシッと笑顔を貼付けたまま固まるわたしを、チラチラ見ながら笑いを堪えてるシャスさんが視界に入った。
「‥床が上手いようには見えないが。‥いや、無垢な顔して淫乱な性向なのかもしれないな」
誰が淫乱だよ!!
「く、ぷぷっ‥!」
肩を揺らして笑いを噛み殺しているシャスさんを見た後、視線を平行移動させてシャンさんを見た。
シャスさんは玩具を見るような目でわたしを見るし、シャンさんは見下したような視線を送ってくる。
敵意は無いようだけど、どう考えても好意的ではないのが明らかで。
‥どうやら2人ともわたしを快く思ってないみたい。
確信にも近いものを感じ、深いため息を吐きたい気持ちで潰されそうだ。
この世界でうまくやっていける自信が、まったくなくなった。
「もう‥ありえないわ‥」
仕事をもらえた初日から、気分は急降下する一方だ。
ずいぶん間が空いてしまいました:;




