26部屋目 地獄へようこそ
【廊下側】
☆メンバー5人(定員5名)☆
・幼女兄貴 :茶SSS 15kg
・ミツオ :銀SS 60kg
・ウニッコ :紫SS 58kg
・ヒョードル:黒S 53kg
・くるみ :白A 42kg
――――――――――――――――
計 228kg/250kg
【ダイレクト側】
☆メンバー4人(定員5名)☆
・薫 :青C 55kg
・汐音 :赤A 52kg
・柳 :緑A 70kg
・桐山 :青SS 58kg
――――――――――――――――
計 235kg/250kg
「ジョ、ジョニーさぁん。本当にそこ開けるんですか?」
『桐山よ。扉だけ眺めて帰る気か?』
「はい……できれば」
スマホの向こうで、幼女姿の兄貴がハッハッハと笑った。
僕ら四人が乗ったエレベーターは、まだ現実の一階だ。画面には、一足先に七階の廊下へ到着した兄貴たちが映っている。
その奥にあるのが、758号室の扉だった。
黒ずんだ扉には、裸の人間が折り重なるように彫り込まれていた。体をねじり、手を伸ばし、互いにしがみついている。その頭上では、顎に拳を当てた男の像がうつむいている。
「うわ……右肘がちゃんと左膝にある」
「ふーむ、ロダンの考える人か」
柳先輩が、僕の肩越しに画面をのぞく。
「全体は、地獄の門そっくりだね。ずいぶん凝った入口だ」
※:名古屋に地獄の門はあったんだ
※:758だからってw
※:日本だと上野と静岡にあるやで
※:地獄の所在地に詳しいとか、ウェルギリウス師匠やん
『さて、桐山』
「は、はいっ! ジョニーさん」
『758の中でなら、どれだけでもいいから【瞬間移動】を使って逃げろ。ラスト一回になったら、撤退を許す』
「そ、それまでは?」
『中で逃げろ』
「ふぇえ……」
※:逃げるのは許された
※:帰るのは許されなかった
※:安心と絶望を同時に与える上司
僕はスマホを持ち直し、三人へ顔を向けた。
「みなさん、準備はいいですか?」
「オホホ、もちろんよ~。ねえ、【鳳仙花】ちゃん!」
「イェーイ!」
大の字で存在をアピールする鳳仙花だが、さすがに今日は《自爆》しない。総力戦の前に無駄な消費は極力避けている。
柳先輩は、喚び出した【蕺】をなでていた。
「瘴気による毒対策もOKだよ、薫くん」
画面の向こうでも、兄貴たちは精霊を喚び、猪尾さんの【防火】と【蕺】で対策を済ませている。
「兄貴。僕らは万全だよ」
『うむ! いざ、行かん』
画面の兄貴が扉へ手をかけると、桐山さんも758のボタンを押した。
◆ ◆ ◆
ガギィンッ!
エレベーターが開くと、眼前で兄貴が悪魔の拳を受け止めていた。
「兄貴!?」
すかさず【強大防御】をかけるも、たちまち剥がされる。
幼女じゃない……! 【外形変化】を解いた、本来の兄貴が押し込まれてる!
「むうっ……ジェニファー!」
「んむ、待たせた!」
バルバリッチャの拳を【大旋風】で押し返した。その右から、竜顔の悪魔が爪を振るう。
兄貴が身をひねると、左では犬顔の悪魔が大きく口を開けていた。さらにもう一体が、背後へ回り込む。
――させるか!
「【強大防御】!」
再度放ち、犬の牙が青い光に阻まれた。
兄貴は振り向かず、その鼻面へ肘を叩き込む。
「ナイスだ、薫!」
「うんっ!」
僕は石畳へ踏み出し、次の防御を張った。
ほんの少し入るタイミングがずれたダケで、廊下から入った五人は十二体に囲まれている。
※:もう始まっとる!?
※:合流前に仕掛けやがった!
※:ジョニキ、大人に戻ってても押されてんぞ!
「フッ……知らぬのか? 『この門をくぐる者、一切の希望を捨てよ』と言うだろう」
低い声に、僕は顔を向けた。
先日の配信を終わらせた声。マラコーダが前に出る。
「歓迎してやろう。――地獄へようこそ、諸君」
繁縷の【狙撃】を腕で払いながら、こちらを見て笑う敵のボス。
「フッ。我らは悪魔だぞ? バカ正直に、仲間が揃うまで待ってやるとでも?」
「うむ、ではこちらも言ってやろう。――薫たちは、門をくぐってなどおらん! ならば希望はあるな」
※:草
※:んもー、ジョニキってば、マクベスみたいなこと言うー
※:希望は別便でお届けしております
兄貴がバルバリッチャの腕をつかみ、横から迫る爪へとぶつけた。強引にも思える技だが、途中で受ける攻撃は僕が止める。
その間に、桐山さんがエレベーターの扉へ異世界つっぱり棒を差し込んだ。
「丈一の相手は、そのまま四人で続けろ」
マラコーダが命じる。
「残りは新しく来た者にも回れ。倒した者から、他へ行って潰せ」
「ほな、ワイ! 青い弟ちゃんをもろとくでー!」
金ピカのスーツが、ウニッコさんの前から飛び出した。スカルミリオーネの爪を、事前に張っていた【強大防御】が弾く。すかさず張り直し、兄貴の後ろへ下がる。
「おおっと。やっぱ、そのガード邪魔やなあ!」
「そう簡単にはやられないよ……!」
ジェニファーの風は、リビコッコの【ウィンドカッター】を相殺している。
と、黄色い看板が、視界の端で光った。
――マラコーダがいる限り、マレブランケの力は3倍。
文字を囲む縁が、ピカッとまた光る。
明らかに間隔は狭まっているが、確かめている余裕はない。
「ジョオォニイイィー! うぬの相手は、我らだぁ!」
巨漢悪魔のバルバリッチャが踏み込む。
兄貴はその拳を受け流したが、竜の爪が逆側の肩へと伸びる。すかさず【強大防御】して弾かれた爪を、兄貴がつかんで一本背負い。「フンッ!」とバルバリッチャにブツける。
「うむ。頼むぞ、薫!」
「うん!」
※:ジョニキと薫子様で五体受けてる!
※:あの兄貴にガード差し込めるの、やっぱデカい
※:副長のタックル、743の時と全然ちゃうやんけ!
僕らで五体。
ミツオさんの手元で、【繁縷】が針を構えた。
「そこだよ、繁縷」
「承知!」
ピシィッ!
【狙撃】された針が、マラコーダの肩へと飛ぶ。
「フッ……。つまらぬ裁縫針だな、銀よ!」
マラコーダは造作もなく払いのける。
お返しとばかりにマラコーダから放たれた【シャドウ】を、ミツオさんは半身になってかわす。繁縷も肩の後ろへ引っ込んだ。
その向こうでも、柳先輩の【蔦】と兵藤くんの【シャドウ】が、それぞれ悪魔を食い止めている。
――合流しても、まだ押されてる!
「ひゃあああっ!」
悲鳴は桐山さんだった。
「ピヨヨーン! 逃がさないピヨーン!」
寸前まで桐山さんのいた場所へ、鳥の足が突き刺さる。
「ピョ?」
キョロキョロと、首だけ回す鳥悪魔。
わりと離れた場所に【瞬間移動】した桐山さんを見つけるや、ファルファレルロは羽ばたいて向きを変えた。
「そっちかピヨー!」
「コッチ来ないでぇー!」
※:逃げるのうっま
※:さすが鬼ごっこSSSの不憫
※:でも息つく暇ねえぞ
「おやおや、聖女様。私、なかなか近づけませんねえ!」
猪尾さんの【天使の盾】へ、ピエロ姿のアリキーノが鉤爪を叩きつけた。
白い盾が砕けたところへ、千桜さんが指を向ける。
「オーホホホ! 聖女様へのお触り厳禁よ〜!?」
シュボボボボー!
「おーっとぉ!?」
炎を浴びながらも、アリキーノは横へ跳んだ。二人の脇へ回り込もうとする。
「鳳仙花ちゃん!」
「うぉっけーい、令嬢!」
ドパーン!
【爆破】が炸裂し、ピエロを押し戻した。
その隙に、猪尾さんが再び白い盾を張る。
その横では、ウニッコさんが二体を相手に【魔弾】を放っていた。
ドンッ! ドゴンッ!
長爪のグラッフィアカーネがよろめく。反対側から迫っていたカルカブリーナも、胸を押さえて踏み止まった。
ウニッコさんの踵が、反動で地面を擦っている。
配信で見た【魔弾】は、ドラギニャッツォの上半身を吹き飛ばしていた。
だけど、ここでは――。
「カルカブリーナ! そっちから押さえやがれ!」
「命令すんな、長爪! 言われなくても分かってる!」
二体の間へ、ウニッコさんは続けざまに【魔弾】を放った。
紫の光が弾けるたびに悪魔の体が揺れる。しかし、押し返せない。二体は左右へ開きながら、じりじりと距離を詰めていく。
「聖女ちゃん、その道化をお願いね」
「ウニッコさん……!」
僕も指を向けかけたが、目の前で兄貴の【強大防御】が砕けた。
すぐに張り直すが、僕自身の防御も剥がれる。
「ほーれ弟ちゃ〜ん。ワイを忘れてへんか〜?」
「ぐっ……」
スカルミリオーネが、金色の袖を揺らして迫る。
くそっ……。どこもかしこも手が離せない!
大魔法なら【強大防御】の方が断然効率はいい。しかし、ただのパンチやキックの場合、それをいちいち防いでいたらジリ貧だ。
――でも、防がなきゃやられる!
「ふふ」
ウニッコさんの声は、いつもと変わらなかった。
「二人とも、ワタシの相手をしてくれるのね?」
「2対1なら勝つんだよ!」
「たしかに、数は多いわねえ」
長い尻尾が、ゆっくりと横へ動く。
彼女は二体から目を離さず、沼の方へ一歩、足を引いた。
「ウニッコさん、そっちは……!」
「ええ、聖女ちゃん。知っているわ」
カルカブリーナが踏み込む。
その横から、グラッフィアカーネもウニッコさんの脇腹へと腕を突き出した。
「もらったぁ!」
ウニッコさんは、素早く身をひねった。爪をかわし、その腕を脇に抱え込む。もう片方の腕では、カルカブリーナの腕を捕まえていた。
「何のつもりだ、テメェ!」
長い尻尾が、カルカブリーナの足首へも巻きつく。
「1対2で相打ちなら、こっちが勝つわね。お分かり?」
ウニッコさんの両手の指先が、紫に光った。
「【魔弾】・フルパワー!」
ドゴオォンッ!
悪魔たちの向こうで、岩の岸が砕けた。
その反動で、ウニッコさんの体が抱え込んだ二体ごと後ろへ吹き飛ぶ。
「離せ、クソッ!」
グラッフィアカーネの長い爪がウニッコさんをザクザク引っかいた。
派手に五本の傷を刻むも、決してロックは外れない。
ドッボオオォン!
コールタールの黒い飛沫が高く上がった。
「うおおお!」
「ぐああああ!!」
「――勝ちなさい、みんな」
水面をかいたグラッフィアカーネの爪が沈む。
続いて、カルカブリーナの腕も、ウニッコさんの尾と共に見えなくなった。
やがて、紫の光が水面を突き抜けて消えていく。
※:ウニさん!!
※:二体持ってった……!
兄貴が、沼へ一度だけうなずいた。
「ありがとう、ウニさん」
迫るバルバリッチャの拳を受け流し、不敵に笑う。
「1対2で相打ちペースならば……。最後は3人残って、こちらの勝ちだな」




