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幼女兄貴(SSSランク)と僕とダンジョン ~思いついても真似できない、十年磨いた水魔法の攻略配信~  作者: 葦原エイ
第一章 幼女兄貴救出編

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15部屋目 生き汚さのすすめ

 大量の水はすっかり引き、急速に夜が白み始めた。108の夜明けである。


「ありがとうね、ナックラヴィー」

「えっへん!」


 僕はナックラヴィーを2本指でよしよしして、アストラルに還した。


「はあ~、負けたわ……」


 玄武様は、再びダークエルフ女児の姿になっていた。


「でも、帰るまでが遠足でしょ? 魔力も戻ってきたし、いま【ブリザード】したらアナタお仕舞いだけど?」

「大丈夫です。玄武様はそういうことしないんで」



※:ヒエー!

※:全幅の信頼やな

※:そらマジ切れしとったら即可愛がり(当亀比)やし

※:バーさんを本気で怒らせたら大したモンだ



 玄武様は失笑した。


「そうよねぇ、戦い終わればノーサイド。いろんな人間と遊びたくて1階に構えたんだもの。多少の煽りは、お楽しみの範疇よ」



※:ゆうべはお楽しみでしたね(意味深

※:ああこれアレだ、孫帰ってきたときの田舎の婆ちゃんだわ

※:オレら孫だったのかw

※:俺が、俺たちが孫なんだ!!



「だけど意外ねぇ。アナタみたいな子が激怒パターンに挑むなんて」

「確実なクリアを優先させました。申し訳ございません」

「ああ、理由を知れば納得よ。大事な人たちのためなんでしょ? 痛いほど分かるもの」

「それは……玄武様も?」

「ええ。大昔のワタシは、仲間を守る強さに憧れた、小さな【夜顔】(ムーンフラワー)だったのよ」


 玄武様は、消えゆく月に目を細めた。


「群れのみんなを助けたくて、苦労の末に玄武のオーブを手に入れたわ。念願叶って、その後はみんなを守りきれた。けれども、心は弱いままでね。『月日』という最強の敵は、緩やかにワタシ以外を流し去り……、別れを見過ぎちゃったのよ」


 玄武様は寂しそうに笑った。


「気付いたら、ワタシひとり。――もちろん、異界(ここ)の始まり頃に思うままの道を進んだこと、後悔はしてないわ。四神っていう、それなりに長い腐れ縁もできたしね。けれど、他とは違う時間軸を生きつつ、なおも他者と関わるのは……、孤独を覚えるの。良き出会いを経るたびにね」



※:Oh・・・

※:バーさんに悲しき過去……

※:早々にフリーレーンか

※:長生き=多くの別れを経験やもんな




「そうね……。『水清ければ月宿る』って言葉にならって、年寄りのお節介を1つだけ」


 玄武様はスッと人差し指を立てた。


「――アナタ、自分を大切になさい」

「えっ」

「ふふっ、言ったでしょう? 痛いほど分かるって」


 顔は若いのに、微笑はとても老成して見えた。


「アナタが誰かを想うように、アナタも誰かに想われている。――とくにアナタの場合、誰かのために自分を捨ててしまえる人だから。かつてワタシの危機を救ってくれたのは、アナタみたいな優しい子だったから」

「玄武様……」


 制服のボタンにそっと指を置かれた。


「ねえ、覚えておいて? そんなアナタが残ることで、まだ見ぬ誰かを大勢助けられるの。消えたらオシマイ、もう助けられないの。――無様でもいいじゃない。生き汚くなりなさい」

「あ……ありがとうございます」

「ふふっ、まだピンとこない? いいのよ、これはオマジナイの類だから」


 いつしか暗かった空は、始まったばかりの青へと場所を明け渡していた。


「さっ、湿っぽい話は終わり! アナタ、このあとは? 108では半日経過した扱いだから、中庭の骸骨ちゃんが仲間を呼び放題よ~?」

「大丈夫です。もうじきエレベーターで強い子が……あ、来ました」


 入ってきたドアの前に、エレベーターがドンッと出現した。扉が開くと、赤黒コーデのお嬢様が扇子でパタパタしている。


「オーホホホ! 無事に倒せたようね~、薫子ちゃん!」

「うん。そっちはどうだった、千桜さん?」

「えへへ、バッチリ! あたしの火力は飛行目玉(ゲイザー)にも通用したわ!」



※:祝☆目玉焼きOK!

※:【連結】も無事成功やで!

※:さすがのパパ・パワーで草薙生える



 【連結(リンク)】をしたパーティーは、異世界でも同じ時間軸への転移となる。逆にこれがないと、探索中に他の冒険者と巡り会うのは至難であった。


「薫や」


 ジニーは異世界つっぱり棒(ゲートストッパー)で肩を叩いていた。


「お主はこのあと、109で【盾】の強化じゃな?」

「うん。そっちは廊下の骸骨に気をつけてね」

「そうじゃな、桐山とウニッコもおらんし」

「あー。お二人はもう、【瞬間移動(テレポート)】で撤退済み?」

「フッ……、集中砲火を食ろうてのお。ギリ死亡回避じゃが」



※:テラ不憫w

※:こりゃ参ったぞう

※:なーに、4ななきゃ安いべ

※:セ……セフセフ(震え声



 お嬢様たちとエレベーターの乗り手をスイッチした僕に、玄武様が手を振ってくれた。


「アナタの願いが叶うこと、心から祈ってるわ」

「ありがとうございます」

「あ、そうそう。十字で高飛び込みした愚か者に言っといて? 次に会ったら【ブリザード】だって」

「ははは……了解です」



※:出禁で草

※:(罵倒を許す気は)ないです

※:ナメクジの 行けない部屋が またひとつ――

※:胴打つケモノ? NO,ウツケ者



 スマホの映像に切り替えた僕は、みんなに見送られるなか109へと転移した。広大だった108から打って変わって、4畳半ほどの小さな洞穴である。




――――――――――――――――――――


 109 祭壇


・祭壇の上で呪文を使い、進化させる。


――――――――――――――――――――



 ――ついに辿り着いたね。


 中央には、座布団大の銀タイルが光っていた。

 伸縮式の異世界つっぱり棒(ゲートストッパー)でドアをホールドした僕は、タイルの上に立つ。


「【盾】(シールド)」


 指先の青い光が弾けるや、呼応するようにタイルの光が強くなった。



※:成功ヨシ!

※:【盾】→【強大防御】(NEW!

※:108への案内も出たでー

※:↑玄武ルームに逆戻りやし帰還でおk



「皆様、本日の目的は達成です。応援ありがとうございました」



※:88888888

※:成功祈ってるで~!!



 これで、明日の813に必要なものは揃った。



 ◆  ◆  ◆



 多謝をしてミツオ隊長と別れた僕ら学生組の3人は、ファミレスで千桜さんとジニーの2人を待っていた。


「813って、やっぱり最難関だよね」


 僕はAtubeを再生した。今回のサルベージの発端となった、兄貴パーティーの断(・)片(・)的(・)な記録である。

 ミツオさんの【水晶球】が幾度となく壊され、廃墟の町並みは途切れ途切れの映像だ。それでも、他の人ではヘイトを稼ぎすぎ、【分解】による強制リタイアの餌食である。

 ミツオさんが丁寧に撮影のオンオフを切り替えて、なおも恐いのが赤ゲイザーだ。


「他にも、【石化】で強制リタイアの黒、【地震】の茶色、【ブリザード】の青、【魔力枯渇】の紫……。対策なしだと毒攻撃もしてくるし、厄介だね」

「へっ。そんでまァ防御呪文の出番っつーコトだが、【盾】の消費がデカいんだよな?」

「うん。ゲイザーは攻撃力が高いから、貫通されないように分厚く張りがちだったんだ」


 各色での呼び名こそ違うが、削られたら張り直すのは同じだ。高層階へ進むほど、その魔力消費は厳しくなる。


「つーワケで、SSが3人いても魔力不足に陥ってたんだな。――だが、今は違う!」


 ギュッと手を握ったQは、バッと僕に開いた。


「ここにカオル・キクチがいる! 【強大防御(マイティガード)】はメッチャ軽いからな!」

「ん。兄貴が目指してた答えの1つだろうね」


 僕の魔力だと、【ナックラヴィー】を本来の巨体で出せなかった。

 そこで。


「プランBとして、最小で撃っても必ず防げる【強大防御(マイティガード)】を選択だよ」

「ねえ、菊知くん? でもソレ、他人に撃てないのが致命的よね。【盾】はもう使えないんでしょ?」


 従来の109では、自分に必中する強化呪文を進化させるのが定石だった。青の利用者も、ほとんどが前衛である。


「まあ、菊知くんなら、813では撮影役がこなせるわね。引き付けたゲイザーに【強大防御(マイティガード)】でいいんだし」

「うん。僕はそっちもやるよ」

「――待って。『も』って、どういうこと?」

「みんな(・・・)にも張るんだ。この呪文、『命中補正が消える』ダケだから」

「ダケって……。他の人へは、全部手(・)動(・)で当てる気!?」

「そこは集中力でカバーだね。『魔力消費の少なさ』を最優先だよ」

「はぁ……、フツーは正気を疑うけど……。菊知くんが呪文を外したところ、見たことないのよね」


 猪尾さんは、感嘆とも呆れともつかないため息をついた。


「じゃあ、菊知くんはこれから、【強大防御(マイティガード)】の練習?」

「うん。進化した呪文のクセを見るために、まずは的撃ちかな」


 と、そのとき。



「あ、菊知くんいたーっ!!」

「おったわー!!」



 千桜さんとジニーが賑やかに入ってきた。


「ンも~う! あのあと廊下に出たら、メチャクチャ骸骨がイッパイでね!? バイオリン骸骨の〈指揮〉が、チョー鬱陶しいったら!」

「んむんむ! 凄腕のワシらでも、倒すのは骨(・)じゃったわ!」


 そこで、ムフーッと胸を張るジニーと千桜さん。――骨(・)休めには丁度いい緩さだろう。


 僕らは、今までの話を手短に伝えた。


「ぬぅ~む。つまり薫は、家で的当てを希望なんじゃな?」

「うん、時間いっぱい撃てるからね」

「ふ~むむむ……」


 ジニーは横を向き、下を向き、そして再び僕のほうを向いた。


「ば~~~~っかじゃねえの!?」

「そんなに!?」

「き、菊知くん……」


 千桜さんが曖昧に笑った。


「フツーは菊知くんほど、ストイックになれないのよ」

「えっ」

「あたしもね? 菊知くんのチャンネル動画は全部見てるけど、変化のないトコは飛ばし飛ばしだからね? 何時間も耐久で的当てとかは……、ちょっぴり、キツイかな~って」

「ん~、それなら……」

「あ、『あたしたちは待機で、菊知くんだけお家で的当て』とかは、もっとナシね」

「――あー」

「んむんむ。明日は、動き回る仲間へ【強大防御】を当てねばならんのじゃろ?」


 ジニーは胸を叩いた。


「そこでじゃ。動くワシらを的にせい」

「あっ……」


 どうやら、またやってしまったらしい。


 こうした認識のズレは、たまに兄貴ともあった。延々と自宅で、あるいは104や289で練習中に、「なあ薫。お前、本当にキツくないか?」とナゼか心配されたから、今の千桜さんみたいなやりとりを交わしていた。


「みんな……ありがとう」

「へっ、相棒よォ~。裏ではお前、『アリアハンでアバカム』とか言われてっからな?」

「Qの言葉の意味は分からないけど、『コツコツやる事にありえないほどの労力を使ってる』と思われてることは分かった」

「んむ、いいんじゃよ。人それぞれじゃ。――お、ワシ今いい事言ったかの? 大人の魅力が滲み出てしもうたか」

「へっ、幼女が何かほざいてるぜ」

「違うわよ。ジニーちゃんは、背伸びしてる感じが魅力って言ったのよね?」

「おQとくるみ……お主ら、【ウィンドカッター】をくれちゃろか!」


 笑いに包まれるなか、決意を新たにした。

 ――明日。僕らは813で、兄貴を取り戻す。

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