第六話 迷い道と串焼きの匂い
……あ。
城門をくぐってから、少し歩いたところで気づいた。
「師匠から教えてもらったブロムさんのお店の場所、聞いてない…」
旅に出る前、僕は師匠からリヒトニアにたどり着いたら知り合いの魔導楽器店を訪れるようにって言われていた。
職人の名前はブロムさん。
有名な魔導楽器職人で特に弦楽器を製作するのを得意としているドワーフ族の人物らしい。
立ち止まって振り返る。
ゲートハウスの方を見ると、衛兵たちは行列の対応に追われていた。
荷物検査、書類、銀貨、検問、案内。
次から次へと人が流れ込んできている。
……今戻って聞くのは…無理そうだね。
「他の方法を探そう」
小さく呟きながら自分に呆れるように少し笑って向き直る。
(誰に聞こうかなぁ)
そう考えながら石畳の道を歩き始めた。
王都は広い。
そして音と匂いが多い。
行き交う人々の話し声。
馬車の音。
金属が触れ合う乾いた響き。
リヒトニアの各地区についての案内板とか地図がどこかにありそうだけど。
そう思ったとき鼻先をくすぐる匂いがした。
香ばしいお肉の匂い。
視線を向けると串焼きの屋台が並んでいる。
手前の屋台では炭火の上で食べやすくカットされているお肉がじゅっと音を立てていた。
そして、様々な屋台の中でひときわ愛想のよさそうなお姉さんが目に入った。
「あの~…」
声をかけるとすぐに笑顔で返事をもらった。
「いらっしゃい!もう少しで焼きあがるからお待ちくださいね」
「えっと…ごめんなさい!お肉のことじゃなくて魔導楽器店や魔導具店、、、そういうお店ってどの辺りにありますか?」
少し考えてからお姉さんは指を立てる。
「それなら西区だね。職人の店が集まってる区画だよ。」
「近くの広場に街の地図を配ってるとこがあるから、まずはそれ見た方がいいかも」
「ありがとうっ」
ほっとして頷く。
そのとき、ぐぅぅぅ……と、お腹が鳴った。
「……(はずかしい)」
「ふふ、じゃあ一本どう?」
差し出された串焼きは、
照りがあって見るからにおいしそうだった。
「うん、お腹ぺこぺこで…もう我慢できない!一つくださいっ」
銅貨を4枚渡して串焼き肉を受け取る。
近くのベンチに腰を下ろし、串焼きをひと口。
……おいしい!
油はしつこくなく甘みがあって、噛むほどに旨味が広がる。
僕のしっぽは美味しさのあまりブンブン揺れている!
「……何のお肉だろ」
王都だけあって食材も上質だ。
これなら何本でも食べられそう。
僕は近くにあったベンチに座って空を見上げる。
雲ひとつない青空。
街は広くて慣れないとすぐ迷子になりそうな規模だ。
「食べ終わったら地図をもらいに行こう」
そう決めてもうひと口。
そのとき。
「ねえねえ」
軽やかな声が横から聞こえた。
視線を向けるといかにも遊び人風の男が立っている。
派手な服装。
余裕そうな笑み。
「それ、うまいだろ?なんの肉か気になる!って顔してるぜ」
……え。僕いまどんな顔して食べてるんだろ…。
串焼きを持ったまま、僕は少しだけ瞬きをした。




