第五話 城門前、別れと始まり
白銀の城壁の影に入ると空気が少し変わった。
人の声が増え、足音が重なり、遠くから金属の触れ合う音が聞こえてくる。
城門は大きく開かれ、
出入りする人々を衛兵たちが静かに見守っていた。
「……ここまでだな」
旅人のひとりがそう言って立ち止まる。
僕も足を止め振り返った。
「助かったよ、姉ちゃん」
少し照れたように別の旅人が笑う。
「命の恩人だからな。機会があったら……そのときは必ず恩返しさせてくれ」
「ふふっ、大げさだよっ」
そう返しながらも胸の奥があたたかくなる。
「俺たちは隣町から仕事を求めて来たんだ。リヒトニアなら何かあると思ってな」
それぞれに事情がある。
それぞれの旅路。
「気をつけてね、いい仕事見つかるといいね♪」
「姉ちゃんもな」
そう言って彼らは城門へ向かって歩き出した。
僕はその背中に手を振る。
――また、どこかで。
そんな予感だけが風に残った。
そのとき。
少し離れたところで誰かの大声が響いた。
「はぁ!?俺を知らないの?超人気者なのに!?信じらんねぇなぁ……」
呆れながらもどこか楽しそうな声。
衛兵が困った顔で応じている。
「ですから…通行には順番と確認が必要です」
「くぅっ、、!やっぱり並ばないとだめかぁ、わかったよ」
……あれ?
胸の奥がくすぐったくなる。
どこかで聞いたことがある陽気で元気な声…
そう感じていると手続きを終えた旅人たちが城門の中へ入っていく。
「じゃあなー!」
最後にもう一度手を振ってくれて、僕も大きく振り返す。
城門の向こうへ彼らの姿が消えていく。
「次の方どうぞ〜」
衛兵の声に我に返る。
僕の番だ。
城門の前に立つと若い女性の衛兵が一歩前に出た。
真面目そうな表情。
背は小さめで姿勢がいい。
「お名前と~…目的を」
「ジニアです。吟遊詩人で…演奏と新しい楽器を探しにここに来ました」
少しだけ緊張しながら答える。
「荷物の確認、失礼しますね」
そう言って丁寧に確認される。
「ん?このバックパックは…」
「はい、魔導具です。え~っと…中身を取り出しますね」
バックパックには旅や音楽に関する者がたくさん入っている。
小さなテント、干し肉、薬箱にいくつかのポーションが入った小瓶。水筒に衣類。タンバリン、楽譜に音叉。オカリナ、交換用の弦。それから師匠からもらったアコースティックギター型の魔導楽器…通称”音猫ちゃん”など…。
いまさらだけど物をたくさん入れられる魔導具ってすごい…。
気づくと僕の周りが物でいっぱいになった!
「魔導具って面白いですね~…」
衛兵さんは興味津々で僕の姿を見ていた。
(これを全部またバックパックに入れるの大変だよ~…)
そう思いつつ僕は残りの荷物を取り出す。
衛兵さんは僕が荷物を出している合間に一つずつ確認していく。
動きは丁寧、そして的確。
最後に衛兵さんにバックパックの中に手を入れてもらって、何も入っていないことを確かめてもらう。
「はいっ!……問題ありませんね」
僕は通行料の銀貨を五枚、差し出す。
「確かにお受け取りいたしました。ようこそ!聖王都リヒトニアへ~!」
衛兵さんにお辞儀したあと…荷物をまたバックパックに入れるという作業をする僕。
(目の前にすぐリヒトニアがあるのになかなか中に入れないぃ~!)
そしてやっとバックパックに荷物を入れ終えて城門をくぐった瞬間…。
世界が変わったように思えた。
石畳の感触。
行き交う人々のにぎやかな声。
香辛料と焼きたてのパンの匂い。
高くそびえる建物の隙間から白銀の城が見える。
「……すごい」
思わず呟く。
リヒトニア。
憧れ続けた場所。
物語の中にあった街。
僕が長年住んでいるアージェントも大きな街だけど、これほど一目見ただけで威厳さを感じずにはいられない景色に出会ったのは初めてだった。
風が頬を撫でた。
僕はゆっくりと歩き出す。
まだ知らない音と出会っていない誰かが、この街で僕を待っている気がした。




