第四話 城壁へ続く道、揺れる考え
朝の光は思っていたよりもやさしかった。
草原は夜露をまとい、踏みしめるたびに小さな音を立てる。
先ほどまでの出来事が夢だったみたいに静かだ。
狼の群れはもういない。
でもあの子の体温と頬に残った感触だけはまだハッキリと覚えている。
城門へ向かう道を旅人たちと並んで歩く。
白銀の城壁は少しずつ大きくなってきている。
歩きながら僕はふと考えていた。
――あの傷。
狼の子供の前足の傷は鋭く、一直線に貫かれたように深かかった。
刃物で突かれたように見えた。
でも獣に噛まれたときのような荒れ方もしていた。
どちらとも言い切れない…
最初に出会ったとき、あの子は人の気配を怖がっていた。
近づくのをためらっていた。
だとすると……
狩人か冒険者?人間が負わせた傷だったのかな?
そう思いながら隣を歩く旅人を見る。
「ねぇ」
声をかけると旅人のひとりが振り向いた。
「昨日のことなんだけど…… あの狼の子供に手を出したりは……?」
言い切る前に首を振られた。
「してない。誓ってな」
別の旅人も頷く。
「俺たちの国じゃ、狼は神聖な動物だ。命の危険がない限り刃を向けることはない」
その言葉に嘘は感じなかった。
「……そっか、変なこと聞いてごめんね」
「いや、俺たちも姉ちゃんと同じ立場ならまずそう考えるから気にするな」
「ありがとう」
自然の中では理由がはっきりしないことのほうが多い。
「まあ……よくあること、なのかな」
自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
旅人は少しだけ笑った。
「旅は考えすぎると疲れるぞ」
その通りかもしれない。
それからは話題を変えた。
「リヒトニア、何度か来たことあるんだよね?」
「ああ。腹減ってるなら南通りにいい店がある」
「肉料理ならあそこだよな」
「店に行ったら甘い酒も忘れるなよ?」
おすすめの飲食店、市場の賑わいや城壁の中の道の複雑さ。
僕は旅人達にリヒトニアについてのことを色々と教えてもらった。
話しているうちに時間はあっという間に過ぎていく。
そして――
視界が開けた。
目の前に巨大な白銀の城壁。
石は一つ一つが大きくて分厚く、空を遮るようにそびえ立っている。
その奥にはさらに高く壮麗な城。
太陽の光を受けて静かに輝いていた。
思わず足が止まる。
「……あ」
おもわず声が漏れた。
何度も丘の上から見たはずなのに、こうして近くで見るとまるで別物だ。
守るための壁。
祈りの中心。
聖王都リヒトニア。
胸の奥がきゅっと鳴る。
「着いたな」
旅人の声で我に返る。
ここから先はきっと別の物語が始まる場所。
僕は白銀の城壁を見上げながら深く息を吸った。
やっとたどり着いた。




