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風の歌を紡ぐ猫耳の吟遊詩人  作者: Jick Jasper


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第三話 夜の温もり…狼の子供

白銀の城は夕暮れの中で色を変えていた。

遠くに見える城壁がオレンジ色の光を受けて沈んでいく。

すごく綺麗な景色。


「今日中に辿り着くのは無理そうだなぁ」


そう呟いて僕は林を抜けた先にあった丘を下りて、来た道を戻り林の出口にある少し開けた場所を今日の寝床に選んだ。

風を避けられて近くに水の気配もある。

野宿するのには悪くない場所だ。


早速、火を起こし簡単な夕食を済ませる。

今日の夕食は硬くなったパンと干し肉を入れたスープ。


(速くおいしいご飯食べたいなぁ~…)


そう思っている間にも空は少しずつ紫に染まり、星がひとつ…またひとつと浮かんできた。


ふと林の方から気配を感じた。


草を踏むかすかな音。

怯えているかのようにカサコソ…というゆっくり慎重な足音。

……近くになにかがいる。

耳を澄ますと呼吸が乱れているのがわかる。


浅く、速い。


おそらく怪我をしているのかも。

僕は立ち上がらず、そっと声をかけた。


「大丈夫だよ」


数分後…やがて暗がりから現れたのは狼の子供だった。

体はまだ小さく、体を守るには心もとない柔らかそうな灰色の毛質。

前足の片方をかばうようにして歩いている。

そして血の匂い。


「怪我してるね」


近づくと逃げそうになったので、近づくのをやめて少し様子を見ることにした。

しばらくそんな僕の姿を見て敵じゃないと思ってくれたのか、恐る恐るだけど狼の子供から側に来てくれた。


(よかった。少し警戒心を解いてくれたみたいだ)


怯えながらも必死さがある。

そんな姿を見るとできる限り助けてあげたくなる。


「その足痛そうだね。少し痛みをとってあげるからおいで?」


僕はゆっくりバックパックから革袋を取り出し、中から薬草と水色に輝く綺麗なポーションが入っている小瓶を出した。

薬草をすり潰して、そこに水を加える。

次に師匠が持たせてくれた即効性のある高品質なポーションを加えて混ぜる。

このポーションは薬草の効能を何倍にも増幅させる効果を持っている不思議なポーションだ。


薬草とポーションが混ざり合い、スーッとした清涼感のある香りが辺りに漂ってきた。

完成!


「ちょっとだけ、しみるかも」


おそらく言葉が通じないと思いつつも、話しかけ続けて手当てをする。

狼の子供は少し体を震わせながらギュっと目を閉じて、痛みを一生懸命我慢していた。

即効性のある特製傷薬を前足に塗ると、傷口がみるみるうちに塞がっていく。

すぐに腫れも引いていき、まるで傷などしていなかったかのような状態になった。


「よくがんばったね」


治療が終わると干し肉を小さく裂いて口に含み、少しふやかし柔らかくしてから狼の子供に差し出した。


(たぶんお腹すいてるよね?)


最初は警戒しながらにおいを嗅いでいたけど、 やがて狼の子供は夢中で食べ始めた。

……よかった。


夜が深まる頃には狼の子供の体の震えはなくなり、いつしか僕の側から離れなくなっていた。

僕の腕に体を寄せながら丸くなって寝ている。

あったかい。もふもふだ。

僕もそのまま静かに横になった。

星空の下、狼の子供と温もりを分け合いながら。



悲鳴で目が覚めた。

一瞬、自分がどこにいるかわからなくて状況を把握できなかった。

でもすぐに思い出す。


狼の子供が不思議そうに顔を上げている。


「……行こう」


狼の子供を抱きかかえ、僕は声のした方へ急ぐ。

昨日の夕方にリヒトニアを眺めていた丘の方角に向かい…その先に見えたのは…

昨日の昼一緒に過ごした旅人たち。

そして、その周囲を囲む狼の群れ。


数は……二十匹ほど。


低く唸る声。

空気が張り詰めている。

僕の存在に狼たちも気づいた。

ゆっくりとこちらへ向きを変える。


(うっ、こんなにたくさんの狼を相手にするのはさすがに…)


その瞬間。


「!?わっ!ちょっと待って!!」


腕の中にいた狼の子供が勢いよくジャンプして前に出た。

僕の前に立ち、 精一杯全身を響かせるように可愛い声で吠える。


(守ろうとしてくれてるのかな?)


その姿と声を聞いた狼たちが足を止める。

数秒間、時が止まったかのような静けさ。


ん?


空気が…変わった?


僕は狼の群れと狼の子供を交互に見る。


そして…理解。

違う……この子、群れの子だ。


僕は警戒しつつも様子をうかがう。


一番大きな狼が前へ出てきた。

まるで僕や旅人たちのことなど見えていないかのように一直線に狼の子供に近づき、体を擦り合わせる。

狼の子供も元気よく体を擦り合わせたり大きな狼の体を舐めている。


(再会を喜んでいるんだね)


しばらくすると狼の子供はくるりと振り返り、跳ねるような足取りで僕のところへ戻ってくる。

そして…お尻を向けた。


「お尻をなでて?」そう言っているかのように、しっぽをブンブン振っている。


「……ふふ」


僕はしゃがみ、そっとしっぽのつけ根付近をわしゃわしゃと撫でる。


「君の家族だったんだね?会えてよかったね」


狼の子供はペロっと僕の頬を舐めてから、

群れのもとへ戻っていった。

大きな狼がこちらを見る。

一度だけ…頭を下げるような仕草。

(え?もしかしてお礼をいってくれ、、、た?)


狼たちからは殺気が消えていた。

群れの狼みんなが一斉に遠吠えをしたあと、そのまま踵を返し草原の向こうへ去っていく。


……たぶん。

味方だと思ってくれたんだと思う。


僕はしばらくその姿を見送ってから、

旅人たちのもとへ駆け寄った。


「だいじょうぶ?」


旅人のひとりが、目を丸くして言う。


「姉ちゃん……すごいな……狼、手懐けたのか?」


僕は首を振る。


「昨日、子供を助けただけだよ。きっとそのお礼」


この旅人さんたちはあの狼たちに襲われる心配はもうないだろうけど、念のため。


「また狼と鉢合わせしたら大変だからさ、城門まで一緒に行こう」


そう提案して僕は歩き出した。

白銀の城へ続く道を少しの間だけ、ひとときの仲間たちと共に。

風はやさしく背中を押してくれていた。

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